実践レポート
本校は全校児童169名の全学年単学級の小規模校で、令和4年度からは3〜6年生、令和5年度2学期からは1・2年生にもチーム担任制を導入し、全教職員が協働して児童に関わっている。研究主題は「自ら考え、自ら判断し、自ら行動する力の育成」である。 各教師は「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現に向けてICT活用法を研究している。
私は本校と前任校で6年間、情報教育を担当している。タブレット導入当初は、基本的な指導やトラブル対応、学習のルールや情報モラル教育への取り組みを考えることに苦労し、児童も教師もこの新しい環境に慣れるのが大変だった。また、教員間やクラス間でのICT活用格差や、タブレット活用そのものへの否定的な意見に悩まされる時期もあった。
当時は6年生を担任し、『SKYMENU Cloud』の活用を進め、[発表ノート]でのプレゼン活動や、道徳の授業での[ポジショニング]などを通じて、全員が主体的に活動する授業に取り組んだ。学習に困難を抱える児童でも積極的に参加でき、特にICTを活用することで、書字に困難を抱える子どもに寄り添った学びを実現でき、ICTが全ての児童にとって学びの可能性を広げる強力なツールであると感じた。
しかし、高学年では効果的に活用できる一方、低学年でのタブレットの活用は少ない状況だった。低学年では、操作に時間がかかりすぎて授業の目標に到達するための時間配分が難しくなることや、ひらがな、漢字、アルファベット、ローマ字を習得していないため、文字の理解や入力が困難であることが、タブレットの使用を躊躇する原因だと考えられる。しかし、低学年からタブレットを活用することで、学び方の選択肢が増え、個別最適化された学習が可能になる。また、早期にデジタルリテラシーを育成し、協働学習を通じて学習効果を高めることにもつながる。そこで、昨年度久しぶりに1年生を担任することとなり、発達段階に応じたタブレット活用の方法を模索し、効果的なロールモデルを作りたいと考えた。
本校の低学年における取り組みについて、1年生の1学期から2年生の1学期までの約1年間を以下に紹介する。
1年生の4月には、初期設定を行い、保管庫を広い場所に移動。充電器には出席番号シールを、タブレット本体には名前シールを貼り付けるなど、視覚的に分かりやすい準備を整えた。また、ローマ字表は、タブレットの隅に貼り付ける小さなものと、お道具箱に入れておくものの2種類をラミネートして用意した。
5月には「GIGA開き」を実施し、6年生に協力してもらいながらパスワード入力の練習を行った。そこで『SKYMENU Cloud』の[電子連絡板]や[発表ノート]へのアクセス方法も習得している。その後、6年生と学校内を探検し、写真を撮り、簡単な[発表ノート]のスライドを一緒に作成した。この活動は非常に楽しかったようで、その次の週にはほぼ全員が1人でパスワードを入力できるようになった。
タブレットの導入当初は「ログインパスワードの入力が1年生には難しいだろう」という意見も多く、QRコード認証の導入が検討されたり、キーボードのイラストにキーの入力順を書き込んだワークシートを一枚ずつ担任が作成したりしていたため、この結果には驚いた。低学年のタブレット活用についての課題は、「使えない」ことではなく、「使わせていなかった」ことだと明らかになった。
それからは、授業中のツールとして『SKYMENU Cloud』を中心にICTを毎日使うことにしている。『SKYMENU Cloud』はイラストが多く、直感的に操作できるため、小学校低学年の文字を読むことができない時期でも十分に活用できる数少ないツールである。また、1年生には難しそうなスキルであっても、教師が臆せずに伝えることで自然に習得できる子どもたちが増えた。中には、「得意になりたい」と自主的に練習してくる子どももおり、「この場面ではこのスキルを使おう」と自分なりの使い方を考える子どもたちも出てきた。
例えば「GIGA開き」の後、[発表ノート]で「一人しりとり」を作成した。これは、1ページに1つずつ写真や絵を使ってしりとりを作るものである。その際、「難しいから得意な子しかできないかもしれないけどね」と少し挑戦的な前置きをし、付箋にテキストを入力する方法や、インターネットで検索した画像をスクリーンキャプチャして[発表ノート]に挿入する方法を、簡単に紹介した。
すると、自宅で練習してきた子が「ぼく、できるよ!」と披露。そうした子たちが「ミニ先生」として他の子をサポートすることで、子ども同士の教え合いが進み、教師のサポートが少なくて済むようになった。
チーム担任制のもと、私は1・2年生の国語を2年間担当している。授業は単元縦断型で、ICTも活用しながら情報を効果的に活用することを意識してきた。そして、単元導入時には、見通しをもって学習に取り組めるよう、子ども自身も学習過程を理解できるようにしている。その上で、「どうして?」と追究したくなる「問い」を立て、教科書を主軸に情報を吟味したり、知識を関連付けたり、新たなアイデアを創造したりしながら、子どもが主体的に学習に取り組める授業を計画している。
しかし、物語文や説明文において、数回読んだだけでは理解が不十分な子どももいる。タブレットを活用した全員参加型の学習を行うまでは、「分かっているように見える」子どもや、初歩的な読解でつまずく子どもへのフォローが不十分だった。読書経験に差が大きい低学年では、文章の基本的な内容を理解していることが、主体的で深い学びの大前提であるため、基本的な内容の理解を優先することが重要だと感じた。
例えば、[発表ノート]を使って登場人物や場面挿絵の順番を入れ替えたり、写真や挿絵と文章を組み合わせたりする教材を作成した図1。これらの教材は、指でスワイプするだけの簡単な操作で、1年生でも楽しく取り組むことができ、基本的な内容理解が不十分な子どもを教師側が見つける助けにもなる。また、あえて関係のないものや似ているものを混ぜることで、子どもたちが「おや?」と考える余地を残すようにしたり、丁寧に教材を作りこまず、自分で工夫しないと完成しない要素を意図的に残したりもした。
このような仕掛けを施すことで、子どもたちは楽しみながら主体的に学ぶようになる。そして、徐々にサポートを減らすことで、自らゴールまでの過程を工夫できる力をつけさせたいと考えている。
【図1】登場順にカードを並べ替えて考える[発表ノート]教材
物語文では、子どもの初発の感想で立てた「問い」を基に授業を組み立てることが多い。前述の方法や[気づきメモ]の活用で、おおよその内容を正しく理解した上で感想を書くと、読めばわかるような表面的な感想ではなく、その後の深い学びにつながる「問い」が生まれやすくなる。手順としては、「個人で[気づきメモ]→グループで共有→[発表ノート]で思考ツールを使い整理→作文ノートに初発の感想を手書きする」という流れだ図2。
【図2】友だちの気づきや感想を参考に、[発表ノート]上でまとめる
個人で[気づきメモ]を作る際には、「面白かったところ」「悲しいところ」「疑問に思ったところ」など、いくつか観点を与えた。事前に「気づきメモを10個以上書く」という宿題を出すこともある。グループワークでは10人程度のグループに分かれ、自分のメモから良いと思うものを共有。他者参照することにより、自分では気づけなかった「問い」や「気づき」が生まれることがある。また、友達の意見を参考にする際に「いい意見だから使わせてね」と一声かけることで、著作権意識が育まれる。友達からの「いいね」も、主体的に学ぶ意欲の向上につながった。
メモは[発表ノート]に貼り付け、思考ツールを使って整理・分類。最後に、その整理された[発表ノート] を基に、作文ノートに感想を書いた。一人で考えるだけでは、何を書いたらよいのか分からなかったり、単に読んだ内容をそのまま書いたり、物語の核心から外れた感想になったりすることがある。しかし、[気づきメモ]を活用し自分の考えを整理したり、友達の意見を取り入れたりすることで、より納得感のある感想文や「問い」を立てられるようになる。
授業では、感想を基に場面ごとの「問い」を取り上げたり、同じ「問い」を持つ友達同士で教科書の記述を基に一緒に考え、全員で共有したりした。このようにして、主体的に取り組みたくなる授業を心がけている。
[発表ノート]の活用は、プレゼンテーション活動においても効果的だ。しかし、低学年の子どもたちは良いプレゼンテーションの例や参考材料、経験が不足しているため、教師のサポートが必須である。そこで、[発表ノート]には計画を立てるための選択肢や参考材料を用意し、子どもたちが自分で選んだり、選択肢を参考に新たな方法を考えたりできるようにしている。
生活科2年生1学期の「町たんけん」発表会では、各グループがしっかりと事前に計画を立て、発表後には自分の活動を振り返った図3。この活動を通して子どもたちは、自分の考えを分かりやすく伝える力や、自信を持って話す力を育み、協働のスキルも身につけることができた。他者の意見を受け入れつつプレゼンテーションを改善する力も少しずつ育っている。
【図3】配付された[発表ノート]を参考に、プレゼン内容や発表の目標などを考える
これらの取り組みを通して、低学年では上手にできなくても「やってみる」ことが何より重要だと感じた。教師が「低学年だからできない」と決めつけず、「子どもは有能である」と考え、やり方を教えることが大切である。即効性を求めず、小学校6年間を通じて、情報活用能力の基礎を確実に定着させることを目標にしている。
今年度からは、放送大学の中川一史教授らが推進する「情報活用能力ベーシック」の考え方に基づき、課題を設定し、情報を収集し、整理し、分析し、活用し、評価する能力を身につけさせ、情報を効果的に活用できる児童の育成を目指している。
また、情報活用能力の育成には、情報モラル教育も必須である。本校では、「ひょうごGIGAワークブック」を使用し、月に1回程度朝の学習の時間と、学期に1回程度1時間を使い、情報モラルを学習している。情報教育が教科ではないため取り扱いが難しいこともあるが、基礎的な情報活用能力とモラルの教育をしっかりと進めていくことが大切だ。
今後も、児童が自ら課題を見つけ、情報を収集し、整理・分析し、それを活用して問題解決に取り組む力を育んでいきたいと考えている。
(2025年1月掲載)