実践レポート
私は「学習者主体の授業」は、児童が学習過程を決めるものだと考えています。また、児童の「学び方」は、自分のめあてや表現方法などを自ら決めることで身に付くと捉えています。そのため、学びの道具の一つである1人1台端末の活用の判断は、児童に委ねています。図工室は児童がいつでも端末を活用できるよう、図1のように整理して環境を整えています。児童は制作中の作品を、写真や動画で撮影したり、気づきを言語化したりして記録しています。
学習指導要領には、振り返り活動の重要性が明記されています。図画工作科の授業で、児童がメタ認知を働かせ、自分がどう学んだのかを振り返り、次に生かすというスキルを身に付けることで未来を切り拓いていける人になってほしいという思いから、振り返りの学習活動を大切にしてきました。
例えば、図画工作科の授業では1人1台端末が整備された年から、私が受け持つ3学年以上の振り返りはすべてMicrosoft Formsで行ってきました。私が指示をしなくても、児童が自分のタイミングで、自発的に振り返りを行うようになりました。
図画工作科では、刻一刻と変化する大切な作品があります。この作品の記録・振り返りに、『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]を活用しています図2。振り返りを[提出箱]に提出し、先生、児童同士で共有します。児童がお互いの振り返りを見て、声を掛け合うといった交流が生まれています。[提出箱]の内容を見合うことは、振り返りの共有に効果的です。
図画工作科は2時間続きのため、児童は終了15分前を目安に片づけを開始します。各班のリーダーの「そろそろ片付けるよ」「マイ・ふり!」といった声掛けが合図です。
端末活用が進んだ今では、授業の終末時だけでなく、授業中や休み時間、自宅で過ごす時間にも、子どもたちが自分のタイミングで振り返りを行うようになりました図3。
授業中は、作品の途中経過を撮影し、ポイントや工夫した点に印やコメントを入れて[発表ノート]に記録するほか、[気づきメモ]を活用して授業中の気づきを入力しています。その記録を基に、自分で振り返りを行ったり、友達と対話したりしている姿が見られるようになりました。
前時の振り返りは、次の授業の開始時にも活用できます。図工室に入ってきた児童たちは、まず振り返りを入力した[発表ノート]を確認。前時に記録しておいた「次にやるべきこと」が、「本時の自分のめあて」につながり、今日は何を学ぶのかを児童が自分で考えるきっかけになっています。
2023年度は、振り返りの質の向上を通して、図画工作科の学びを深めることをめざし取り組みを進めてきました。その一つが、児童とともに作る「振り返りの手引き」です。これまでMicrosoft Excelを活用して振り返りの相互評価を行ったりしましたが、一部の児童にしか効果が見られませんでした。
そこで今回は、児童たちに「学びを深める振り返りとは?」という問いを投げかけ、紙に印刷した友達の振り返りをじっくりと読み合い、[気づきメモ]を使って考えました。少し難しい質問でしたが、これまでの授業で児童が主体的に振り返りに挑戦してきたこと、[気づきメモ]の活用がすっかり日常化していたことから、全員参加で考えが広がりました。
児童の気づきは、次々と増えてつながっていき、「友達」「道具」「時間」「材料」「色」「形」「次へ」など、「学びを深める振り返り」のために必要な要素やキーワードが浮かび上がりました。
次に、みんなで入力した[気づきメモ]を基に、各自で「学びを深める振り返り」について考え、[発表ノート]にまとめました。
私は、児童それぞれがまとめた[発表ノート]を見ながら、キーワードを精査。浮かび上がってきたキーワードを取り入れて、図4のような振り返りシート「マイ・ふり返りシート」、略して「マイ・ふり」を作成しました。「マイ・ふり」は、上半分に自分のめあてを入力し、下半分は振り返りを入力するスペースになっています。シートの上と[資料置き場]には、コピー&ペーストできるキーワードのアイコンを設置。選んだキーワードを自分のシートに貼り付け、振り返りを記述するというフォーマットになっています。低学年や中学年の児童にとっては、「キーワードを選ぶ」という作業だけでも、自分の主題や課題の明確化につながります。作品の写真は、端末で撮影し、次のページに貼り付けます。
このようなフォーマットを用意しましたが、児童にはキーワードを意識しながら、今までどおり自由に記録・振り返りを行うように呼びかけました。
そして、「マイ・ふり」をベースにした振り返りを実施し、経過を見ながら振り返りシートの内容を再構築していきました。児童に対し「各キーワードにどのような振り返りが書かれていたら、学びが深まっているといえるのか?」を問い、児童の意見を踏まえてキーワードを追加し、3年生には振り返りの文頭を「私は」に固定してみるなどの改善を行いました。
そして、振り返りの手引き「めざせ!ふり返りの最上級者!!」の作成にとりかかりました図5。振り返りに関する数々の先行研究を参考に「ゼロ級」「初級」「中級」「上級」「最上級」を設定しました。例えば「上級」の記述例は、おもに6年生の振り返りから引用。児童の言葉をそのまま載せています。なお、今後も児童が編集し、改善していけるように、Microsoft Excelで作成しています。
自分たちの言葉で書かれた記述例は、児童にとって分かりやすいようで、各級の違いを学び取りながら取り組んでいます。「みんなで作った」という思いからか、多くの児童が手引きを自然に参考にしています。
手引きはA3用紙に印刷し、クリアファイルに入れて図工室のすべての机の中に入れています。端末にもデータを配付しているので、端末上で確認しながら振り返りをする児童もいました。その様子を見て、振り返りの内容をより良くしたいと感じている児童が多いことにあらためて気づかされました。
この学びを通して、めあてが明確になったり、振り返りをより自分事で書くようになったという変化が見られました。さらには、入力した付箋を半透明にするなどデザイン性を向上させる児童も増えました。友達に関する記述をする児童も多くなっています。データ分析をしたところ、友達の制作過程を端末で共有することが日常化し、自分の作品作りに生かしている様子が見られました。
図画工作科の学びは、自由進度です。そこに端末を活用することで、豊かな複線型の学びになります。児童が自らのタイミングで行う学びの記録・振り返りで、主体性を高め、新たな価値を創造することにつながるよう、これからも実践的に研究していきたいと思います。
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(2024年8月掲載)