実践事例

小学校5年 道徳セミナーレポート [ポジショニング]で思考を可視化し、共有

個の学びを、集団の学びへ

古見 豪基 教諭

埼玉県和光市立第四小学校

学習を深める自律的な端末活用

ICTの活用が個人に終始している授業では、児童が個人的な課題を完成させることに集中してしまう傾向にあります。そのような状態では、教師がICTを使った対話や協働学習を展開していても、ねらいに沿った活動は難しいというのが実情です。

そこで育成しなければならないのが、児童生徒自身が自分のねらいや目的に応じて、デジタルを担うICTと対話などのアナログを主体的に使い分けていく、自律的な活用能力です。いわゆる「デジアナ・マネジメント」の能力を育成し、児童が計画的かつ効率的にICTを使えるようになってこそ、自身の学習を深められると私は考えます。教師は、協働的な学びを実現するためにICTを活用することを念頭に置き、授業を行う必要があります。

デジアナ・マネジメント能力を育むカリキュラム

道徳教育を通じてデジアナ・マネジメント能力の育成を図るカリキュラムの一例を図1に示します。道徳教育は、道徳科の授業だけでなく教科等横断的に行うことが大切です。総合的な学習の時間や特別活動の時間も踏まえ、カリキュラムを検討しています。

図1

まずは、日々の生活の中から問いを見つける活動をします。探究活動の一環として、15分間、朝活や総合的な学習の時間の中で行います。そして道徳科の授業では、デジアナ・マネジメントを意識しながら、3時間かけてじっくりと自分の問いに向き合う時間を取ります。初めの1時間は教材からの問いづくりをICTで実施するほか、哲学的対話やp4cを行います。グループ対話の後は、黒板を活用し、教師と共に学級全体で対話。これらの活動はアナログで行います。そして最後の1時間はICTを活用し、問いを自分事としてとらえるための時間です。その後、総合的な学習の時間の中で、3~4時間かけて学んだことの実践と振り返りをします。

そしてまた探究活動に戻り、自己の価値観を更新していく。このような学習システムを、教科等横断的に構築していくことが大切だと思っています。

ICTとデジタルを行き来しながら実践する

今回は、5年生の道徳科「うばわれた自由」での実践例をご紹介します。

単元の大主題(テーマ)である「『自由』をさまざまな立場や考えから、どういうものがよいか考えよう」について、道徳科の授業と特別活動を教科等横断的に絡め、デジタルとアナログの特長を生かしながら学習を進めました。

道徳教育の「選択・思考・判断」にあたる、児童個人の個の学びや集団での学び、意見交流などにはICTを活用しました。そして、子ども同士、あるいは子どもと教師との「対話」はアナログで実施。そして「リフレクション」では、ICTとアナログを併用しました。学びの軌跡や思考の変容は、デジタルを活用することで可視化しやすくなる一方で、紙のノートを使ったアナログでの振り返りも重要だと考えています。

伴走者として児童と対話し授業を進める

ここで、子どもの主体性を伸ばす問いの立て方について考えてみましょう。子どもたちは、対話を通して友達の話を積極的に聞き、自己内対話を行うことで学びを深めていきます。先生はただ見ているだけでなく、伴走者としてファシリテーションし、子どもたちに問いかける役割です。また、教師自身も問いを更新しながら、子どもたちと対話します。

道徳では、日々の生活をベースにした価値観に関する問いが重要である一方で、教科書や教材を用いて、教科書が持つ価値観に対する発問も有効です。教材が持つ価値観への問いに対し、子どもたちと教師がそれぞれ対話することで、学びが深まります。

最終的には、生活ベースの価値観に対する問いと、教材が持つ価値観に対する問いとをすり合わせ、教材の対象世界を生活世界に重ねていくことで、子どもの主体性が伸びていくと考えています。

教師は、発問から問いのすり合わせまでをコーチング、もしくはファシリテーションしていくことが重要になります。その流れのなかで、問いづくりにICTを活用したり、アナログで対話的な学びを実践したり、学びを深めるためのリフレクションを行ったりと、デジアナ・マネジメントを意識することが大切なのではないでしょうか。教師が学習システムをプロデュースすることで、子どもと共に学び合う協働的な学び、個別最適な学びが実現できるのだと思います。

生活ベースの価値観から問いを立てる

これらを踏まえて、私がこの単元で実践した学習の流れをご紹介します。まずは総合的な学習の時間でp4cを行い、生活ベースの価値観から問いを見つけていきます。ここでは、手書きで問いを記入するカードを作成。子どもたちは、「どうして?」「なぜ?」という哲学的な対話を基に発問を行っていました。グループ対話の後はホワイトボードにカードを貼り付け、学級全体の対話へ。友達の問いを見ながら集団的に問いづくりを行うことで、自分自身の問いも更新していきます。そして、各グループが立てた問いについて、再度p4cを実施しました図2

図2対話を通して問いづくりを実施

リフレクションではICTを活用。『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]を使い、「自由とは?」という問いに対する自分の考えを記入し、共有しました図3。[発表ノート]では、文字だけではなくクラゲチャートやベン図などの思考ツール、円グラフなども使用できます。これらツールは、自分の考えを整理し、思考を広げ、深めることにつながります。その結果を学級全体で共有できるところが、[発表ノート]の良さだと感じています。

図3個人のリフレクションを[発表ノート]に記入

ある児童はクラゲチャートを使っていました。自由とは「やるべきこと」「誰かが得することをすれば手に入ると思う」「好きなようにすることも自由だけれど、それは自分勝手だから本当の自由ではない」などと、思考を深めている様子が見取れます。そのほかにも、自由とルールについて、大人と子どもそれぞれの立場から考えている児童や、「なぜ?」「どうして?」という気持ちを大事にしながら問いを立てている児童もいました。

四象限の[ポジショニング]で考えを表現する

続いて、教材を基にした学習に移ります。これまで学んだ価値観から発問を行い、問題意識を高めます。黒板に問いを書き込んで学級全体で対話しながら、学習の大テーマである「『自由』をさまざまな立場や考えから、どういうものがよいか考えよう」につなげていく作業です。

この単元に登場する「ジェラール王子とガリューとの違いは何か」といった内容に直結した問いだけでなく、「自由を奪われることはどういうことか」「自由は多数決の問題なのか」「立場を平等にすると、自由が公正・公平になるのか」など、テーマに関わる問いもありました。

それらの問いを踏まえ、[ポジショニング]を実施。「『自由に生きる』ということは、どういう生き方なのか?」という問いを提示し、「決まりを守る / 守らない」といったルールの軸と、「嫌いなこと / 好きなこと」の軸の四象限で、自分の考えを表現させました。これにより、子どもたちは問いを自分事としてとらえることができました。

[ポジショニング]結果の共有で個から集団の学びへ

[ポジショニング]を行うことで、自分の見方や考え方、立ち位置が分かります。さらにその結果を友達と共有すれば、子どもたちは「質問したい」「交流したい」という意欲に駆られます。まさに個の学びが、集団の学びにつながっていると言えるでしょう。

児童それぞれの[ポジショニング]の結果を共有して質問をさらに行い、対話を実施。[気づきメモ]では、思考の軌跡も可視化できます。道徳の観点では、迷いはとても大切なもの。自身の迷いや思考のズレを可視化することも、学びの深化につながると考えています。児童には、自分の思考の軌跡を見て、さらなる発問も行わせました。

さらに、[ポジショニング]は、少数派の意見も共有できるのが魅力です図4。自分と違う考えに触れることで学級全体の対話が活発化し、さらに考えが広がっている様子が見取れました。

図4少数派の意見が対話の活発化のきっかけに

授業の終末では、「学習で学んだこと・わかったこと」「友達の対話で自分と比較して納得したこと」「これからのこと・新しい提案」の3つの視点を提示してリフレクションを実施。学びを言語化して振り返ることで、自己の道徳的価値観を再構成させることがねらいです。

ICTなら、教室だけでなく家庭でも端末を見て、自分と友達の考えを比較し、振り返ることも可能です。これはICTの大きなメリットだと思います。併せて、紙のノートを使ったアナログでの振り返りもさせました。このように、ICTとアナログを行き来しながら連続的に探求することが、子どもたちの主体性を伸ばすことにつながると考えています。

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(2024年7月掲載)

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