実践レポート
福島県の東南に位置する中核市のいわき市。同市ではGIGAスクール構想による1人1台端末整備とともに『SKYMENU
Cloud』の活用に取り組まれています。いわき市立湯本第一小学校の取り組みをレポートします。(2023年9・10月取材)
小野先生
本校では研究主題「自分の考えを進んで表現し、ともに学び合う子どもの育成」の下、令和3、4年度、学校全体で指導の研究に取り組みました。新学習指導要領のめざす道徳教育の実現には、子どもの持つ多様な価値観を引き出し、本音で話し合う授業実践により、自分の考えや思いを他者に伝える力を育成していく必要があります。これまでの本校の道徳教育では、読み物教材を読み、登場人物の心情を考えるだけにとどまっていることが課題でした。例えば、「うそはいけない」という分かりきったことを教材で確認して終わりではなく、「うそをつかない難しさ」についても考えるべきで、登場人物の気持ちを追うだけでなく、自分の生活に関連させ、自分事として考えさせるところまで持っていく必要がありました。
そのためにまずは、子どもたちに教材や考えるべきテーマに関心を持たせなければなりません。そこで、GIGAスクール構想により1人1台端末が整備されたタイミングということもあり、ICTを活用することにしました。全学年共通の道徳を通じて、教師も子どもたちもICTに慣れ親しむきっかけにしたいという意図もありました。
動画や画像を活用したり、アンケートを行ったり、という取り組みの一つとして活用したのが『SKYMENU Cloud』の[ポジショニング]です。
菅野先生
私は5年生の道徳「名医、順庵」で取り組んだ[ポジショニング]の事例をお話しします。母親を助けるために薬を盗んでしまったという内容の資料を読んだ後、理由があって盗んだことに対して「許す」と「許さない」の間に、子どもたちそれぞれにマーカを置かせ「なぜこの位置に置いたのか」を話し合いました図1。[ポジショニング]で全体を俯瞰しながら、自分のマーカを置いた位置を視覚的に確認することで、子どもたちは考えを整理できていると感じました。
小野先生
自分の思いを表に出すのが得意ではない子も、この機能なら教師が考えを見取ることができます。それぞれにマーカを置くので、人の意見に流されたり、周りの目を気にしたりすることもないと思いました。さらにこれまでは、黒板や紙に「許す」「許さない」という表を作り、ネームカードを貼らせるというやり方でしたが、ICTの活用でとても効率的になるとも感じました。子どもの考えが揺れ動いた軌跡が確認できる機能もあり、これはICTでなければ実現できないことです。
菅野先生
道徳において100%許す、許さない、ということはありません。「分からない」と感じた子は真ん中にマーカを置けることも大切なポイントだと思います。真ん中に置いた子に理由を問うと「どっちの立場にもいいなと思うところがある」という意見が出てきました。
小野先生 大切なことは、みんなが正しい方向に進むことだけでなく、正しい方向に進む難しさについて考えを深めることです。決して白か黒かに分けることではありません。
そのために、[ポジショニング]で全体の傾向が見えた後に子どもたちに何を問うか、そして出てきた意見を受けてさらにどのように問い返すか。教師は最も考えさせたいところに向かって発問を組み立てていかなければなりません。やはり、一番重要なのは教師の問いかけだと思います。[ポジショニング]の活用は、子どもたちの関心を高めるだけでなく、教師が子どもの考えを見取りやすくなり、本時のねらいに向かって発問を組み立てることにも役立つと感じています。それが本音で話し合い、自分の考えを伝え合う授業の実現につながると考えています。
とはいえ、子どもたちが自分の考えを表現することは一足飛びに実現できることではありません。ICTも効果的に活用しながら、道徳だけでなくほかの教科でも自分の考えを表に出す経験を積み重ねていく必要があります。
菅野先生
そのためには、1人1台端末が道具の一つとなるように、低学年から端末に触れる機会を設けていくことが大切だと思います。私は現在、情報担当を担うとともに、1年生の担任をしています。2学期から端末の活用を始めており、まずはできるだけ簡単に、慣れ親しむことができる使い方をめざしています。例えば算数の授業では、考え方を書いたノートを[カメラ]で撮影し、[発表ノート]で提出させる取り組みを行いました。[カメラ]で撮影した画像は自動的に[発表ノート]に貼りつけられるため、低学年の子どもたちでも活用することができています。
提出された[発表ノート]は電子黒板に表示させ、考え方の違いを比較するという活用をしてみると、子どもたちには自分の考えをみんなに知らせたいという思いがあることにも気がつきました。できるだけ多くの考えを取り上げたり、発表の場面を設けたりと、自分の考えを伝える場面を大切にしていきたいとあらためて感じています写真1。
ICTを活用することで自分自身の授業の幅も広がっていくと思います。学年に応じた効果的な活用を今後も考えていきます。
小学校5年 社会
本時では「自動車工場でロボットを使う理由を探ろう」というテーマで、班ごとに調べ学習を行いました。本時に至るまでに子どもたちは、自動車工場では、自動車を消費者に届けるまでに、さまざまな作業を分担しながら、効率良く生産していることなどを学んでいます。工場の資料を確認するなかで、4,300人が働いているにもかかわらず人の姿がほとんどなく、たくさんのロボットがあることに気がつきました。そこで本時は「ロボットは何をしているの?」という子どもの疑問を掘り下げるために、[気づきメモ]を使いながらインターネットで調べてまとめる学習を展開しました。
授業前にあらかじめ、分かったことなどを記入するための[発表ノート]を子どもたちに配付しておきました。
授業では班に分かれた後、まずはそれぞれにインターネットで検索し、気づいたことを[気づきメモ]に残していきます。さらに自動車工場のWebサイトのURLなど、参考になりそうな情報を[グループメモ]で同じ班の友達と共有しながら、班で話し合いを進めます。最後に大切だと思うメモを事前に配付していた[発表ノート]に貼りつけてまとめました。
その間、私は[画面一覧]を確認。子どもたちの進捗状況や気づきの内容について把握し、必要に応じてフォローに入りました。
[気づきメモ]を活用することで、「検索しても知りたい情報が出てこない」と言っていた子が、同じ班の友達からURLを共有してもらうことで、調べ学習をスムーズに進めることができていました。さらに、共有してもらったWebサイトから、ほかの友達が気づいていない新たな情報を見つけ、話し合いの結果、まとめの方向性が定まっていったのです。
キーボード入力が苦手な子は、情報を集めて共有することに専念するなど、役割分担することでICT活用が得意ではない子も、グループ内でフォローし合うことができると思いました。
インターネットで検索すると集める情報が幅広くなりすぎてしまうことがありますが、[気づきメモ]は子どもたち同士でメモを共有して話し合うことで、情報をまとめて集約する方向に持っていける機能だと感じます。そして何より、おもしろい情報を見つけたときの熱が伝わり、子どもが意欲的に取り組めていることを実感しました。
話し合いが活発になったのは、操作方法に関するつまずきが少なかったことも背景にあると思います。新機能である[気づきメモ]は本校でも使い始めたばかりですが、画面が分かりやすく、子どもたちは直感的に操作することができていました。調べた内容をまとめる際に、[気づきメモ]で入力したメモを、簡単な操作で[発表ノート]にコピーして反映できる点も便利です。まとめの作業の際に、入力し直したり、スクリーンショットで貼りつけたりする必要はありません。実際に子どもたちは[気づきメモ]から[発表ノート]へシームレスにデータを移動させており、思考が途切れることなく、作業を進められているように感じました。
授業後には、子どもたちが残したメモをチェックしてみたいと思っています。それぞれの子どもの視点や授業中に見切れなかった気づきを確認し、次の時間に声掛けをすることで、子どものさらなる意欲の高まりにつなげられると考えています。
社会科において、たくさんの資料を読み解いて必要な情報を選択し、それを根拠にして分かったことをまとめるということは、求められる力の一つです。
インターネットを活用すれば多くの情報を得ることができますが、集める情報が広がりすぎてまとめ切れないといった懸念があります。とはいえ、教科書や資料集といった限られた情報だけでは、子どもたちは物足りなさを感じてしまいます。[気づきメモ]を活用すれば、グループで情報共有して友達と話し合いながら、必要な情報を吟味することができ、子どもたち自身で学習のねらいに向かって集約していくことができました。本時を通じ、[気づきメモ]は社会科に有効な機能だと実感しました。
さらに今後は、自分の考えについて根拠を示しながらプレゼンテーションする力の育成をめざしていきたいと思います。それには、[Webページメモ]の活用が有効です。画面キャプチャしたり、テキストをコピーしたりすると、参照先のURLも一緒に表示できるため、そうした力の育成に役立ちます。
[気づきメモ]は、子どもがそれぞれに調べる個別学習とグループでの協働学習の両方の場面を作ることができる機能です。友達同士で学び合い、そして自分の考えをまとめて発表する力を育むために、今後も活用していきたいと思います。
福島県いわき市立湯本第一小学校
1873(明治6)年に開校し、現在は全校児童365名、教職員36名が在籍するいわき市内の中規模校です。「話をよく聞き、自分の考えをもち、ともに学び合う子ども」を重点目標に掲げ、ICTや『SKYMENU
Cloud』を活用した授業づくりや研究に取り組まれています。
(2024年1月掲載)