実践事例

ICT活用研究埼玉県狭山市立水富小学校 1人1台端末×情報モラル指導 疑似体験と協働で、“人と人とのすれ違い”を学ぶ

埼玉県狭山市立水富小学校では、2021年6月から1人1台端末の本格的な運用を開始。同校の教務主任志村 充康 教諭は、情報モラル指導の充実と1人1台端末の活用推進をめざして師範授業を実施。1人1台端末を使った疑似体験と協働による情報モラル授業を展開されました。実践内容と共に同校の情報モラル指導についてお話を伺いました。

志村 充康 教諭

埼玉県狭山市立水富小学校

1人1台端末の活用と情報モラル指導の推進が急務

本校では、2021年6月までにGIGAスクール構想による児童1人1台端末の配付と設定が完了しました。児童用の端末は、クラウド上で利用できる学習活動端末活用支援Webシステム『SKYMENU Cloud』や無償・無制限の自然・物損故障保証などが付帯したタブレット端末『Sky安心GIGAタブレット』が導入されています。

端末の活用は、[カメラ]機能の活用を中心に広がっています。例えば、体育の走り高跳びの学習で、跳躍の様子を動画撮影。動画で自分のフォームを確認して、改善に役立てていました。音楽では、児童がリコーダーを演奏する様子をそれぞれ録画し、『SKYMENU Cloud』の[教材・作品]で、教員に動画ファイルを提出させていました。コロナ禍のため、リコーダーの練習を一斉で実施できませんから、少人数で部屋に分かれて練習し、練習成果を動画で確認していました。演奏動画は、評価の場面でも効果がありました。これまでは児童も教員も、一発勝負のような形で実技の評価をしていたので、当然、教員が評価に迷う場面がありました。今は、「児童が一番うまくできたと思う演奏」を動画で送ってもらえれば、繰り返し視聴して正確に評価できます。また、試験の日に全員の試験(演奏)が終わるまで静かに待つという無駄な時間がなくなりました。

このように1学期は、1人1台端末の「良さ」を実感し始めたところでした。ここから次の活用ステップ、つまり協働学習などでの活用を進めるには授業での活用イメージを共有する必要があると考えました。また1人1台端末の本格的な活用に向けては、情報モラル指導も課題でした。全教員で認識を共有し、指導の徹底を呼び掛ける必要性を感じました。そこで、1人1台端末を活用した情報モラル指導を行う師範授業を構想し、校内研修で実施しました。

実践5年・総合的な学習の時間 「情報化社会の一員になろう」情報化社会の一員として必要な「セルフマネジメント」を学ぶ

受け身・座学ではなく、協働・体験による学びを重視

本実践は、5年「総合的な学習の時間(20時間)」で実践する単元「情報化社会の一員になろう」という学習の一部です。情報モラルや情報リテラシーをはじめ、情報化社会の一員として児童が身に付けるべき「セルフマネジメント」を学ぶ時間として指導計画に組み入れています。

この実践の特徴は、1人1台端末などを使って情報モラル指導を体験しつつ協働で学ぶことにあります。情報モラル指導の本質は「1人ひとり嫌なことは違い、嫌なことのすれ違いがトラブルを生む」ということです。「自分だったらこのくらい大丈夫だ」という感覚は1人ひとり異なる。そのことを知り、状況に応じて適切な判断をすることが重要です。

しかし、これまでの情報モラル指導でよくあったのは、外部講師による講演、つまり座学による受け身の指導でした。そしてさまざまな危険性や失敗事例を伝え、児童を怖がらせるような指導が多かったと思います。そのために単に「怖さ」だけが印象に残ったり、児童が「自分事」として課題を捉えられないままその時間を終えてしまったりしている様子が見受けられました。

こうした課題を踏まえ、今回はLINEみらい財団が提供する教材を活用しつつ、児童が1人1台端末を操作して自分事で考え、そして、他者との対話、協働を通じて気づき、判断するという展開にしました。

指導案

単元名

情報化社会の一員になろう。

本時のねらい

写真をネットに公開するときの注意点について知ることができる。(知・技)
写真をネットに公開した際の危険性やそこから生じる人間関係のトラブルおよびそれを回避する方法を考えることができる。(思考・判断・表現)

学習活動 指導上の留意点 準備物
1 ネット上で写真がやり取りされる場面はどんな場面かを知る。
  • HPだけでなく、今はSNSで多くの写真がやり取りされていることを知る。
  • 児童用端末
  • 教員用端末
2 本時のめあてを確認する。

ネット上で写真を公開することについて考えよう。

3 自分と他者との感じ方のちがいに気づく。
  • 選んだ内容を比較し、なぜそれを選んだのか理由を付けてグループで発表し合う。
  • [ポジショニング]

(1)自分が公開されていやな写真はどれか考える。

  • 選んだ内容の違いをクラスで共有する。
  • 5枚の写真を順位付けし、公開してもよいものとそうでないものに分ける。
  • [発表ノート]
  • 5枚の写真

(2)様々な状況の写真を比較し、自分の中で公開してもよいものとそうでないものを考える。

  • 公開したらどんな危険があるかを考えながら順位付けをさせる。
4 ネットに写真を公開することについてまとめる。
  • いろいろな人が見る
  • すぐに広まる
  • 消すことができない
  • 場所がわかることがある
5 5枚の写真を公開するのなら、どんなことに気をつけるかをグループで考える。
  • 個人や場所が特定されないようにする工夫、関係のない人を巻き込まない工夫に気づかせる。
  • [発表ノート]
  • [グループワーク]
  • 5枚の写真
6 グループトークで写真公開をしてもよいか聞かれたときの対応を考える。
  • そのまま公開する危険性及び相手を傷つけない返事の仕方を考えさせる。
  • [発表ノート]
7 本時のまとめやふりかえりを考える。
  • 学んだことを自分の言葉でまとめるように指導する。
  • [ポジショニング]

ポジショニングで、個と全体の思考を可視化

写真1導入やまとめで自分の立ち位置を回答。自分の意識が明確に

授業の冒頭やまとめでは[ポジショニング]機能を使って「SNSやネット上で写真を公開することは・・・」と問いました。これには児童の傾向を可視化して把握すると共に、「自分の立ち位置を表明する」ことで、課題に対するおぼろげな自己意識を明確化することをねらいました写真1

質問は、「こわい」「こわくない」という軸だけでなく、「つまらなさそう」「楽しそう」を加えた2つの軸にしました。世の中にこれだけSNSが普及しているのは、危険性と共に良さがあるからです。単に「こわい」「こわくない」という問題ではなく、「危険性を知った上で正しく使う」というセルフマネジメントの視点で考えさせることを意図しました。

[ポジショニング]では、児童の回答は重なって表示され、それぞれのマーカーをタップすれば、名前や入力されたコメントの内容が分かります図1。少数派の意見の児童を確認したり、普段あまり発表しない子どもの考えを把握して紹介したりと、全体の意見共有の場面で役立ちます。授業でよくある、「あの意見は誰の意見だったかな?」とならないのが良い点です。

図1「こわい」「こわくない」の軸と「つまらなさそう」「楽しそう」の軸の2軸で[ポジショニング]。学級全体の傾向を把握した

個で考え、グループワークで交流。考え方の違いを知る

本単元は1人1台端末の運用が始まる前から取り組んでおり、それまではカードの教材を机の上で並べて、お互いの考えを話し合っていました。机を囲んで話し合える児童の数には限りがありますし、発表者が変わるたびに机を移動していました。

今回は、1人1台端末と[発表ノート]や[グループワーク]を活用することで、話し合いに変化が生まれました。まず、教材の画像データを[発表ノート]に貼り付け、児童が自由に編集できる教材を作りました図2。授業中、[発表ノート]を配付すると、児童はカードを思い思いに並べ替えていました。

図25枚の写真を[発表ノート]に貼り付け、作成した教材

個人の考えができたところで、[グループワーク]機能でグループごとに共有。端末画面の左横に表示されるノートのサムネイルをタップして、グループメンバーの考えを相互に確認して話し合いました。

児童は相互に[発表ノート]を見合い、「この写真、後ろに女の子が映り込んでいるけど、勝手に写真を公開して良いのかな」「写真は、友だちとお菓子を食べているように見える。勉強中という情報発信は大丈夫だろうか」などと気づきを発信。他者の視点を知り、新たな気づきを得ていました。情報モラル指導において重要な、「1人ひとり嫌なことは違い、嫌なことのすれ違いがトラブルを生む」ということを、体験を通じて理解していました。[グループワーク]を活用した協働や対話は、情報モラル指導に適していると考えています。

グループワークの画面を見ながら、小集団で議論が進む

話し合いの様子を見ていると、6人のグループでの話し合いから、やがて3人と3人の小集団で話し合うグループが見受けられました。

本時は1人1台端末と[グループワーク]でお互いの意見を早期に把握できるので、[発表ノート]を基に、少人数で意見が交わされていました。確かに、これまでの紙のカードを使った話し合いでは、メンバー6人が順番に意見を述べるので、待つ時間が長く、議論に時間がかかっていました。しかし、本時のような話し合いの展開は、指導者である私自身も想定していませんでした。1人1台端末の活用で、授業の話し合いの姿も変わると感じました。

SNSの画面を模した発表ノートに、メッセージを入力して提出

写真2SNSのメッセージ画面を見て、返答を考えて提出

情報モラル指導の難しさは、そもそもスマートフォンやテレビゲームなどを持っていない児童がいるなかで、共通の認識を持たせにくいことにあります。そういった意味で、座学での一斉指導には限界があります。本時では、まとめの場面で、SNSの画面を[発表ノート]に貼り付けた教材を配付し、児童にコメントを書かせて提出させました写真2。実際の会話(メッセージ)の流れの中でどのように返したらよいのか。疑似体験で具体的に考えると共に、メッセージを送信したことのない児童も体感できるようにしました。

使い慣れた教科書を活用し、日々の授業のなかでも指導を展開

今回、師範授業として『SKYMENU Cloud』のさまざまな活用場面を提案しました。日々の授業では、なにか1つの機能でも良いので取り入れてほしいと考えています。またこの授業は、第5学年の総合的な学習の時間で情報モラルや情報リテラシーと共に、自己決定や集団決定の力を高めることを強く意図した内容です。

1人1台端末の活用推進に向けては、本実践のように深く学ぶ機会が1度あれば、それで良いというものではありません。各学年、教室の日々の学習活動のなかで情報モラル指導を行うことが重要です。本校では表1のように大まかに情報モラル指導の方向性を定めています。例えば国語は、教科書に記載している「情報」に関する内容を着実に指導すること。社会や理科では、インターネットを使って調べ学習をする機会がありますから、「引用」「著作権」に関する指導を加えていただくことをお願いしています。

今、先生方は日々の多忙な業務を抱えながら、1人1台端末の活用を進めようとしています。本当に余裕がない状態です。ですので、情報モラル指導の年間指導計画のようなものを綿密に立てて、新しい取り組みをお願いするのではなく、まずは使い慣れた教科書や指導書、指導方法などを起点にして確実に指導することから始めています。

表1教科等との関連
教科等 指導内容
道徳 各学年、道徳の教科書の巻末、情報モラル指導を12月の人権週間の際、土曜授業(学校公開時)に実施する。
国語 教科書に記載されている【情報】内容の指導を行う。
社会・理科等 インターネットを利用した際の調べ学習で、「引用」「著作権」の指導を行う。
図工・音楽 作品には著作権があることを指導し、一人一人の作品を大切にする指導を行う。
家庭科 金銭の指導の際、計画的な使い方の指導を行う。
総合的な
学習の時間
教科指導と同様、インターネットを利用した際の調べ学習で、「引用」「著作権」の指導を行う。5年生では20時間配当で「情報化社会の一員となろう」という単元で、情報機器を利用した際のトラブルの事例とその原因を学び、適切な使い方を学ぶ。

情報モラル指導を、交通安全指導のような当たり前のものに

私は、情報モラル指導と交通安全指導は同じだと考えています。自転車を買い与えるのは保護 者です。保護者は、子どもに交通ルールや自転車の安全な乗り方を教え、学校では交通安全教室などで当たり前のように安全指導を行います。

今、GIGAスクール構想によって、児童1人1台端末の時代になりました。もう自転車と変わりません。児童が安全に情報端末を使えるように、情報モラル指導を当たり前のものにしなければなりません。

そして、「危ないから、使わない」といった指導を超えて、「危険性を理解した上で状況に応じて適切な判断をして安全に使いこなす」という、セルフマネジメントの視点に立った指導が広がることを願っています。 

(2021年6月取材 / 2021年10月掲載)

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