
GIGAスクール構想の推進によって学校で1人1台端末が定着していくなか、授業の中でタブレット端末の活用が進んでいます。なぜタブレット端末が学校で使われるようになり、授業で使用するとどのようなメリットがあるのでしょうか。この記事では、学校の授業にタブレット端末を活用するメリットのほか、タブレット端末を活用した学習場面などについて解説します。
学校でタブレット端末の整備が進められた理由
学校におけるタブレット端末活用の大きな契機となったのが、文部科学省が2019年に提唱した「GIGAスクール構想」です。まずは、この構想のねらいを参照しながら、タブレット端末の整備が進められた理由について説明します。
1人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境を実現するため
文部科学省が提唱するGIGAスクール構想は、学校教育におけるICT環境の充実を図る取り組みです。文部科学省によるリーフレット「GIGAスクール構想の実現へ」では、GIGAスクール構想とは、「1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、特別な支援を必要とする子供を含め、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育ICT環境を実現する」「これまでの我が国の教育実践と最先端のICTのベストミックスを図ることにより、教師・児童生徒の力を最大限に引き出す」と記されています。タブレット端末は、上記の文言の中の「個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育ICT環境を実現する」ための機器の一つとして、全国の学校への導入が進んでいます。
諸外国に比べ学校におけるICTの利活用が遅れていたため
そもそも日本の学校におけるICT利活用は、明らかに世界に後れを取っていたという背景も、タブレット端末の整備が進められた理由の一つです。文部科学省 国立教育政策研究所による「OECD 生徒の学習到達度調査(PISA2018)のポイント」を見ると、2018年調査の時点で、学校の授業(国語、数学、理科)におけるデジタル機器の利用時間は、日本はOECD加盟国中最下位となっています。教室の授業でデジタル機器を「利用しない」と答えた生徒の割合は、約80%に及んでいました。こうしたことから、急ピッチで授業にICT機器を導入する必要性が認識され、タブレット端末がその主要機器として選ばれています。
学習に使用する端末にタブレット端末が多い理由
さまざまな種類のICT機器がある中で、タブレット端末の導入事例が多いのはなぜなのでしょうか。ここからは、学習に使用する端末にタブレット端末が多い理由を解説します。
ノートPCに比べると持ち運びやすい
タブレット端末は、ノートPCに比べて持ち運びやすいという点が、タブレット端末が多く使われる理由の一つです。軽量薄型のタブレット端末は、小学校低学年の児童でも、学校の内外で扱いやすいことがメリットといえます。
タッチ操作だけでも活用できる
タブレット端末の画面をタッチするだけで操作できることも、学習にタブレット端末が使われる理由の一つです。キーボード操作に慣れていない児童生徒も、直感的な操作で使えるというハードルの低さというのは、タブレット端末のメリットです。
学校の授業でタブレット端末を活用するメリット
タブレット端末を学校で利用することで、さまざまなメリットが得られます。ここでは、学校の授業でタブレット端末を活用するメリットを紹介します。
情報活用能力の育成に役立つ
タブレット端末は、情報活用能力の育成に適しています。文部科学省の「学習の基盤となる資質・能力としての情報活用能力の育成」では「情報活用能力育成のための想定される学習内容」を示しています。具体的には、「基本的な操作等」として、キーボード入力やインターネット上の情報閲覧などの基本的な操作の習得に関するもの。「問題解決・探究における情報活用」として、問題解決のために必要な情報の収集、整理・分析し、解決の見通しを持つこと。「プログラミング」として、問題解決のためにどのような情報を、どのように処理するかといった道筋を立て、実践しようとするもの。「情報モラル・情報セキュリティ」としてSNSやブログなどの知識を得たり、複数の情報を基に自分の考えを深めたりするもの。これらの4つに整理し、位置づけています。
なお同資料では、こうした情報活用能力を発達の段階などを踏まえた5段階で示し、体系的に整理した「情報活用能力の体系表例」を掲載しています。
プログラミング的思考が育める
プログラミング的思考が育めることもメリットの一つです。現行の学習指導要領で大きく変わった項目の一つが、プログラミング教育です。小・中・高等学校でプログラミング教育がそれぞれ行われ、例えば、プログラミング教育が必修化された小学校では、算数、理科、総合的な学習の時間の教科等の授業を中心にプログラミング教育が行われています。このプログラミング教育は、プログラミング的思考(物事を順序立てて論理的に考える力)や、プログラミングの知識・技術を学ぶためのものです。プログラミングの基本概念を身につけるため、タブレット端末を使った授業も多く行われています。
さまざまな学習場面で活用できる
さまざまな学習場面で活用できることも、タブレット端末を授業に取り入れることのメリットです。教科等の指導におけるICT活用で重視されているのは、児童生徒や学校の実態に応じるかたちで、「個別学習」「グループ別学習」「繰り返し学習」「学習内容の習熟の程度に応じた学習」「児童生徒の興味・関心等に応じた課題学習」「補充的な学習や発展的な学習」といった学習活動を取り入れることなどです。また、教員間の協力による指導体制を確保して個に応じた指導の充実を図る際に、情報手段や教材・教具の活用を図ることも求められています。タブレット端末は、こうしたさまざまな学習場面で使用するのに適した機能を備えています。
1人ひとりの特性や学習到達度に合わせた学びに役立つ
タブレット端末の整備による児童生徒側のメリットとして挙げられるのが、1人ひとりの特性や学習進度、学習到達度に合わせて学べるという点です。もちろん、授業を行う教員にとしても、児童生徒の習熟度に沿ったかたちで授業を進められることは大きなメリットです。例えば、1人1台のタブレット端末を活用することで、児童生徒それぞれの学習履歴に基づき、学習ペースや習熟度に合わせて学べるデジタルドリルの活用も可能となります。
豊富な学習用ツールを活用できる
タブレット端末が1人1台整備されることで、授業支援ソフトウェアをはじめとする学習用ツールが活用できることもメリットの一つです。タブレット端末には、インターネットを利用した調べ学習や、動画や写真を活用したわかりやすい説明ができるという利点があります。しかし、授業支援ソフトウェアなどの学習用ツールを使えば、例えば教材や課題を児童生徒のタブレット端末へ送信することや、児童生徒が取り組んでいる課題を教員の手元で見取ったり、ほかの児童生徒と共有したりといった活動が手軽にできるようになります。
思考や表現の幅が広がりやすい
タブレット端末の整備によって得られる児童生徒のメリットの一つとして、思考や表現の幅が広がりやすいということがあります。例えば、「漢字が書けない」「字が汚い」という理由で作文が嫌いだった児童生徒が、端末を使うことで文章をどんどん書けるようになることも少なくありません。また、タブレット端末であれば書き直す作業も簡単なので、失敗を恐れずに表現できるという点もメリットだといえます。そのほか、表計算ツールを使ったりデータをグラフ化したりすることで、手作業で行う場合に比べて時間短縮でき、余った時間を分析やディスカッションに使えるようになります。
タブレット端末を活用した学習場面
ここからは、「教育の情報化に関する手引-追補版-(令和2年6月)」の内容に沿って、タブレット端末を活用した具体的な学習場面を解説します。「一斉学習」「個別学習」「協働学習」の3つについて、それぞれタブレット端末の活用例を紹介します。
一斉学習
一斉学習は、教員が多数の児童生徒に対して、同じ内容を同じ進度で行う従来型の学習形態です。一斉学習では、教員のタブレット端末の画面をデジタルテレビや電子黒板に映し出す、もしくは各人のタブレット端末に映し出して授業を行います。画面の拡大・縮小や画面への書き込みなどを活用して学習活動を焦点化し、わかりやすく説明することで、児童生徒たちの興味・関心が高められたり、学習課題への理解を深めたりすることができます。また、教員が1人ひとりの反応を手元で把握でき、双方型の一斉学習ができるようになります。
個別学習
個別学習は、1人ひとりの児童生徒の特性や習熟の程度に合わせた学習形態です。個別学習においては、次のような学習場面でタブレット端末が活用されます。
個に応じた学習
タブレット端末には、学習者用デジタル教科書やドリルソフトなど、さまざまな学習アプリケーションをインストールでき、これらを用いて、習熟の程度や誤答傾向に応じて、1人ひとりの学習進度に合わせて学習が進められます。また発音や朗読、書写、運動、演奏などの活動の様子を記録し、自己評価に基づく練習を行うことも可能です。
調査活動
タブレット端末を使用することで、調査活動に取り組みやすくなります。インターネットやデジタル教材を用いた情報収集はもちろん、観察などで写真や動画で詳細な記録を残し、児童生徒の新たな気づきにつなげることもできます。また、効率のよい調査活動を行うことで、情報を主体的に収集・判断する力を身につけることもできるとされています。
思考を深める学習
デジタル教材を用いた学習課題の試行によって、考えを深める学習を行うこともできます。タブレット端末で試行を繰り返すことで、学習課題への理解を深めることにつながります。また、シミュレーション機能や動画コンテンツによって、通常では難しい実験なども実現できます。
表現・制作
タブレット端末は、表現・制作でも活用できます。テキストだけではなく、写真、音声、動画などのマルチメディアを組み合わせて、多様な表現の作品を制作できます。また、制作した作品を保存し共有することで、制作過程の振り返りや活発な意見交流に役立てられます。
家庭学習
タブレット端末を家に持ち帰れば、家庭学習に利用することもできます。動画やデジタル教科書・教材を見ながら予習や復習ができ、自分のペースで継続的に学習に取り組めます。さらに、タブレット端末を用いてインターネットを通じた意見交流などで、学校だけでは得られないさまざまな考え方に触れる機会を得ることも可能です。
協働学習
協働学習は、児童生徒同士が話し合って学習課題に向き合い、協力しながら課題を解決する学習形態です。具体的には、以下のような場面でタブレット端末が活用されます。
発表や話し合い
タブレット端末の画面を大型提示装置に映し出したり、タブレット端末の画面を見せ合うことで、自分の考えを学級全体やグループに提示したりして、発表や話し合いができます。個人の考えを整理して伝え合うことで、思考力や表現力を培ったり、多角的な視点に触れたりすることが可能になります。また表現や考えを記録し、何度も見直しながら話し合うことで、新たな考えや表現への気づきを得ることもできます。
協働での意見整理
タブレット端末によって、グループ内の複数の意見・考えを共有し、話し合いによって思考を深めながら協働で意見を整理することもできます。また、学習支援ツールなどを活用すれば、学習課題に対するお互いの進捗状況を理解しながら作業が行えるので、意見交流が活発になり、学習内容への思考の深めることにもつながります。
協働制作
写真や動画を用いた資料・作品をグループ内で役割分担したり、協働で作業しながら制作したりする際も、タブレット端末が役立ちます。学習支援ツールのグループワーク機能などを活用すると、同時並行で作業しながら、ほかの児童生徒の進み具合や全体像を理解しやすくなり、スムーズに協働制作を進めることが可能です。また、表現の方法を話し合うといったことを通じて、豊かな表現力の育成に結びつけることも可能です。
学校の壁を越えた学習
タブレット端末とインターネットの組み合わせは、遠隔地や海外の学校、学校外の専門家などとの意見交換といった、学校の壁を越えた学習を可能にします。異なる考えや文化にリアルタイムに触れることで、多様なものの見方が身につけることが可能になります。
タブレット端末の整備費用について
文部科学省は、2023年11月に「令和5年度文部科学省補正予算」を公表しました。その中の「GIGAスクール構想の推進~1人1台端末の着実な更新~」では、公立学校の端末整備に2,643億円、国私立学校や日本人学校などの端末整備に18億円の予算額がつけられました。
補助対象は、児童生徒全員分の端末で、予備機の整備も含まれます。また、視覚や聴覚、身体などに障害のある児童生徒の障害に対応した入出力支援装置についても補助対象となっています。1人1台端末への補助基準額は、1台あたり上限5万5,000円です。公立学校については、都道府県に基金を造成し、当面、2025年度までの更新分に必要な経費を計上する見通しで、年度をまたいで5年程度かけて端末を計画的に更新することが示されています。
タブレット端末は教室でも家庭でもさまざまなかたちで学びをサポート
GIGAスクール構想における1人1台の学習者用端末は、タブレット端末、ノートPCなど、複数の選択肢があります。タブレット端末の取り扱いの容易さ、できることの範囲の広さや柔軟性の高さは、GIGAスクール構想の基本方針、ねらい、さらには学習場面や学習形態とその目的に合致しています。学校内で、家庭で、さまざまな場面で児童生徒たちの学びをサポートできるのが、タブレット端末の強みです。
ICTを活用した学習活動を支援する「SKYMENU Cloud」
GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台のPC端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」と多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。