「個に応じた指導」の充実については、学校のICT環境整備が進むにつれて取り組みやすくなっています。その一方、「個別最適な学び」が「孤立した学び」に陥ることのないよう、「協働的な学び」の重要性が増していることも大切なポイントです。この記事では、協働的な学びが求められる背景や、個別最適な学びとの関係について解説します。また、ICTを活用した協働的な学びの実践事例についてもご紹介します。
協働的な学びとは、他者と協働しながら持続可能な社会を創るための学びのこと
2021年1月に中央教育審議会が答申とともに公表した「教育課程部会における審議のまとめ」において、協働的な学びの充実については下記のように説明されています。
協働的な学びについて
「個別最適な学び」が「孤立した学び」に陥らないよう,これまでも「日本型学校教育」において重視されてきた,探究的な学習や体験活動などを通じ,子供同士で,あるいは地域の方々をはじめ多様な他者と協働しながら,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し,様々な社会的な変化を乗り越え,持続可能な社会の創り手となることができるよう,必要な資質・能力を育成する「協働的な学び」を充実することも重要である。
この記述のとおり協働的な学びは、これまでも「日本型学校教育」において重視されてきました。これは学習者を主語とする「主体的・対話的で深い学び」を実現する上で、欠かせない要素の一つといえます。
協働的な学びが求められる背景と目的
協働的な学びが求められる背景には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が大きく影響しています。2020年3月からは、全国の学校で臨時休業の措置が取られ、長期にわたり子どもたちが学校に通えない事態が発生しました。学びを保証する手段として、遠隔やオンライン形式での授業が行われるようになりICT環境を活用した教育活動が注目されるとともに、対面指導や児童生徒同士の学び合い、地域でのさまざまな活動など、リアルな体験を通じて学ぶことの重要性もあらためて認識されるようになりました。
そして、この期間に1人1台端末が整備されました。児童生徒がICTを日常的に活用することによって、自ら見通しを立てたり、学習の状況を把握して新たな学習方法を見いだしたり、自ら学び直しや発展的な学習を行いやすくなったりするといった効果が期待されています。一方で、集団の中で個が埋没してしまうことのないよう、1人ひとりの良い点や可能性を生かし、異なる考え方が組み合わさり、よりよい学びを生み出していくことも大切です。だからこそ、個別最適な学びと協働的な学びは一体的に充実を図ることが重要だといわれています。
協働的な学びと個別最適な学びの関係
協働的な学びへの理解を深めるには、個別最適な学びとの関係やそれぞれの意義を理解しておくことが大切です。中央教育審議会の2021年答申「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」(以下、2021年答申)では、令和の日本型学校教育における個別最適な学びを「指導の個別化」と「学習の個性化」に整理するとともに、これまでも日本型学校教育において重視されてきた協働的な学びを一体的に充実することをめざすとしています。
学校でのICT活用が浸透しつつある中で、児童生徒1人ひとりが自分のペースで学べる個別最適な学びの充実と、他者とともに多様な意見を共有しつつ合意形成を図る協働的な学びの両方を重視することが求められています。協働的な学びと個別最適な学びは切り離して捉えるものではなく、相互に補完し合う学びとして考えることができます。
1人ひとりの特性や学習進度に合わせた「個別最適な学び」
個別最適な学びとは、児童生徒1人ひとりの特性や学習進度に合わせた学びです。なお2021年答申では、後述する「指導の個別化」と「学習の個性化」を学習者視点で整理した概念が「個別最適な学び」であり、これを教員視点で整理したものが「個に応じた指導」だと定義しています。つまり、児童生徒の「個別最適な学び」を実現するため、教員に求められているのが「個に応じた指導」ということです。
「指導の個別化」とは、支援の必要な児童生徒により重点的に指導を行うといった効果的な指導を実現することや、児童生徒1人ひとりの特性や学習進度、学習到達度などに応じて指導方法・教材や学習時間などの柔軟な提供・設定を行うことを指します。「学習の個性化」は、児童生徒それぞれの興味や関心、キャリア形成の方向性などに応じて1人ひとりが学習活動や学習課題に取り組む機会を与えられたときに、自らが主体的に学習を最適化できるように調整していくことです。
他者の感性や考え方に触れ、刺激し合うなかで培われる「協働的な学び」
「学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料(令和3年3月版)」によると、協働的な学びにおいては、同じ空間で時間を共にすることで、お互いの感性や考え方などに触れ、刺激し合うことの重要性をあらためて認識することが必要であり、知・徳・体を一体的に育むには、教員と児童生徒、児童生徒同士の関わり合い、地域社会での体験活動、専門家との交流など、さまざまな場面でのリアルな体験を通じて学ぶことが重要だとされています。こうした協働的な学びの在り方は、これまでも日本の学校教育が非常に大切にしてきたものです。
個別最適な学びと協働的な学びの充実を考えた授業づくりの必要性
実際の授業づくりは、個別最適な学びと協働的な学びの要素が組み合わさって実現されていくケースが多いと考えられます。授業の中で個別最適な学びの成果を協働的な学びに生かし、さらにその成果を個別最適な学びに還元するなど、個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させていくことが求められています。また、協働的な学びにおいては、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善につなげ、児童生徒1人ひとりの良い点や可能性を生かし、異なる考え方が組み合わさり、よりよい学びを生み出していくことが大切だとも示されています。
今すぐに取り組める協働的な学び
具体例にはどのような活動が、協働的な学びに当てはまるのでしょうか。各教科等の特性や学習内容に応じて、すぐに取り入れられる協働的な学びの例として、次のようなものが挙げられます。
協働的な学びの具体例
- 児童生徒同士が質問し合い、説明し合うことで問題を解決する
- ほかの児童生徒が書いた文面を相互に見て、異なる考え方に触れる
- ペアやグループで意見交換を行う
- 話し合った内容をホワイトボードにまとめる
- 付箋紙に各自の意見を書いて整理する
- グループでポスターなどを作成して発表する
- 各自の立場を決めてディスカッションを実施する
- グループでテーマを設定して調べ学習を行う
- タブレット端末を活用し、1つの資料を分担して作成する
いずれの活動も協働そのものが目的ではありません。多様な意見や価値観に触れたり、多面的・多角的に考えたりすることが協働的な学びの目的であることを念頭に置き、児童生徒が主体的に取り組むことが大切です。
ICTを活用した協働的な学びの実践事例
ICTを利用した協働的な学びは、実際どのようにして授業に取り入れればよいのでしょうか。ここでは、ICTを活用した協働的な学びの実践事例として、学習活動端末支援Webシステム「SKYMENU Cloud」を活用した小学4年国語・小学5年社会・中学3年英語における取り組みをご紹介します。
小学4年国語の活用事例:自分の考えや思いを伝え合うことで、他者の気持ちを理解する授業
長野県松本市立四賀小学校の4年生の国語では、児童文学「ごんぎつね」について、ICTを活用した授業が行われました。この授業では、「ごんぎつね」の物語において、銃で撃たれた「ごん」が一言しゃべったとすると、どんなセリフが思い浮かぶかを児童が各自で考え、伝え合うことを通して1人ひとり気持ちの読み方には違いがあることに気づいてもらうのがねらいです。
まず、各児童が「SKYMENU Cloud」の[発表ノート]に「ごんのセリフ」と「その理由」を書き込みます。次にタブレット端末を持ち寄って友達の考えを聞き合い、共有する時間を設けました。ディスカッションをする中で考えが変わった児童には、[発表ノート]下部の枠に別の考えを入力してもらいます。自身の考えと友達と共有した後の考えを同時に確認できるため、考えの変化がよくわかり、「ごん」の気持ちをより深く探究できる点が特徴です。
また、「ごんがひとりぼっちでいたずらばかりするのはどうして?」という問いへの答えを[ポジショニング]機能を使って振り返り、物語を読み進める中で「ごん」の心情に対する理解が深まったことを各児童に確認してもらうために活用しました。[分析]機能を活用することで、自分や友達の気持ちの変化が軌跡となって表示されるため、視覚的に確認しやすくする点でも役立っています。
小学5年社会の活用事例:グループで対話し、気づきを深めるための授業
福島県いわき市立湯本第一小学校5年生の社会の授業では、「自動車工場でロボットを使う理由を探ろう」というテーマで、班ごとに調べ学習が行われました。「SKYMENU Cloud」の機能である[気づきメモ]を活用し、自動車工場のロボットは何をしているのかという、児童の疑問を掘り下げることが目的です。
まず班ごとに分かれ、各児童がインターネットで検索して気がついたことを[気づきメモ]に記します。次に、自動車工場のWebサイトのURLなど、役立ちそうな情報を[グループメモ]で同じ班のメンバーと共有しながら話し合いを進め、最後にこれまでの中で重要だと思うメモを、事前に配付していた[発表ノート]に貼りつけてまとめます。その際、教員は[画面一覧]を使用し、児童たちの進捗状況などを確認することで、必要に応じてフォローに回ることもできるのが特徴です。
[気づきメモ]に蓄積されていった情報を取捨選択して振り返りに役立てることで、個別最適な学びを深められます。また、[気づきメモ]を活用することで、検索が苦手な児童にWebサイトのURLを共有できたり、同じWebサイトからほかの友達が気づいていない情報を発見し、話し合いにつなげられたり、班内でフォローし合いながら意欲的に学習できることも特長です。
中学3年英語の事例:他者・自己・情報との対話から生徒が自ら学ぶ授業
福島県いわき市立好間中学校の3年生の英語では、外国人の友人から「災害時に用意しておくべき物は?」と質問された際の答えとして、10のアイテムの中から1つを選び、理由も添えてメールを書くというライティングの授業が行われました。生徒はまず自力でワークシートに答えを書き、ペアになってお互いの記述について話し合った上でまとめた答えを[カメラ]機能で撮影し、[発表ノート]に貼りつけて[提出箱]へ提出します。提出された答えの中からポイントとなる部分をピックアップし、教員機にて添削しながら解説しました。
次に、大規模地震が発生してからインフラが復旧するまでにかかる日数や、お店で商品が買える状態になるまでの期間を新たな情報として示し、これらの情報を踏まえて2回目のワークシートを記入。[スライドショー]機能を使えば、ほかの生徒の記述も閲覧できるため、限られた時間内で多くの記述内容に触れ、回答をブラッシュアップさせる上で役立ちます。他者・自己・情報との対話から、生徒が自ら学ぶ授業の実践にICT活用が寄与した事例です。
協働的な学びと個別最適な学びの充実を指導計画に取り入れることが大切
協働的な学びと個別最適な学びはそれぞれ個別に実践されるものではなく、双方を往還しながら一体的に学ぶことで気づきを得て、学びが深まっていくものです。協働的な学びの目的や意義を理解した上で、個別最適な学びとの相乗効果を意識することが大切になります。今回ご紹介した実践事例なども参考にしていただき、ICTを活用した協働的な学びに取り組んでいただければ幸いです。
ICTを活用した学習活動を支援する「SKYMENU Cloud」
GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台のPC端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」と多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。