
学習指導要領がめざす「主体的・対話的で深い学び」において、「協働学習」は非常に重要な位置づけとされています。協働学習とはどのような学び方を指すのでしょうか。この記事では、協働学習の概要やメリット、課題に加え、ICTを活用した学習場面、協働学習の質的向上を図るためのポイントについて説明します。
協働学習とは、児童生徒同士やさまざまな人と協働しながら行う学びのこと
協働学習とは、児童生徒同士や地域の方々などさまざまな人と協働しながら行う学びのことです。2021年の中央教育審議会の答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」(以下、令和3年答申)で示された「協働的な学び」と一致しており、「探究的な学習や体験活動などを通じ,子供同士で,あるいは地域の方々をはじめ多様な他者と協働しながら,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し,様々な社会的な変化を乗り越え,持続可能な社会の創り手となることができるよう,必要な資質・能力を育成する『協働的な学び』を充実することも重要である」とあるように、現在の学校教育において特に重視されています。学校内での児童生徒同士の協働だけでなく、地域社会を含むあらゆる人々との協働を含んでいることがポイントです。さらに、この令和3年答申では「目指すべき『令和の日本型学校教育』の姿を『全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現』とする」と結論しており、学習指導要領がめざす「主体的・対話的で深い学び」の実現に直結しているといえます。
協働学習が注目されている理由
協働学習が重視される理由には、協働学習が児童生徒1人ひとりの豊かな学びの実現に向けた課題解決の糸口となっていることがあります。児童生徒たちは学校も含めた社会の中で、さまざまな人と関わりながら学び、学んだことを通じて自分の存在が認められたり、活動によって何かを変えたり、社会をより良くしたりできるといった実感を持てるからです。協働学習の積み重ねが、主体的に学びに向かうことや、学んだことを人生や社会づくりに生かしていこうという意識や積極性につながります。このような協働学習の在り方は、「主体的・対話的で深い学び」を実現するための「アクティブラーニング」とも深く関わっています。
協働学習にICTを活用するメリット
協働学習にICTを活用するメリットには、時間的制約の緩和という側面が挙げられます。従来の協働学習では、模造紙に意見や考えを書き込むといった活動を行うことが多かったのですが、模造紙に一度に書き込める人数は限られます。また、それぞれの意見を書いた紙を黒板に貼り出す場合も時間がかかります。ICTを活用すれば、児童生徒がタブレット端末で各自の意見や考えを書き込んだり、集約したものを大型提示装置に映し出したりできるので、時間を最小限に抑えた進行が可能になります。また、空間的制約を緩和する効果も挙げられます。例えば、病気療養中で登校できない児童生徒も、Web会議システムや学習活動支援ツールなど併用することで協働学習に参加することが可能になります。
ICTを活用した協働学習の場面
ICTを活用すると、どのような協働学習が行えるのでしょうか。ここでは、ICTを活用した協働学習の場面をいくつか紹介します。
発表や話し合いの場面
発表や話し合いの場面では、プレゼンテーション資料作成用のソフトウェアなどを活用して、自分の考えや調べたことをまとめ、それを用いて発表することができます。ICTであれば、記述の削除や書き直しなどの編集が手軽にできるので、ためらいなく試行錯誤を重ねられるというメリットがあります。その活動のなかで新たな表現や気づきを得る機会が生まれやすくなります。また、タブレット端末や大型提示装置で考えを示しながら話し合う活動が効率よく進められるようになり、多様な意見に触れたり、自分の考えを説明する力を身につけたりする機会を多く持てるというメリットもあります。
協働で意見を整理する場面
協働で意見を整理する場面では、タブレット端末や大型提示装置に、複数の意見・考えを書き込んだカードやマーカを表示し、それらを見ながら議論するといった活動が想定されます。黒板などに意見を貼り出すという方法でもこうした活動は可能ですが、議論の過程で考えが変わったとしても、わざわざ前方まで出て貼り直す必要があり心理的ハードルが高くなってしまいます。ICTなら手元の端末でカードを書き換えたりマーカを動かしたりできます。また、その履歴を残すこともでき、1人ひとりの思考の変容を可視化することも可能です。
協働制作の場面
協働制作の場面でICTを活用すれば、グループ内で分担して写真・動画などを用いた資料や作品を制作するといった活動ができるようになります。また、複数人で同時編集が可能なグループワーク用の機能を活用することで、ほかの児童生徒の作業進捗を意識しながら、全体像をイメージして制作を進めることも可能です。
学校の枠組みを越えた学習の場面
学校の枠組みを越えた学習の場面でも、ICTを活用することで協働学習を実践できます。例えば、インターネットを活用して遠隔地の学校との交流や情報発信を行う場を設けたり、地域の方々やさまざまな分野の専門家と交流を行う場面を設けたりできます。また、オンライン授業を実施して、学校と家庭を結ぶ学習も想定されます。
協働学習の質を向上させるためのポイント
GIGAスクール構想により1人1台端末が整備され、以前に比べるとペアやグループでの活動が多く行われるようになっています。しかし、思考を十分に深められるよう協働学習の質を向上する必要があるという指摘もあります。協働学習の質向上させるために、いくつか押さえておくべきポイントがあります。特に意識しておきたいのは、次の2点です。
知識の構造化
協働学習を単純な協働作業・作業分担で終わらせないために、知識の構造化を意識する必要があります。協働学習を通じて、児童生徒は自分と異なる他者の意見や考えに触れます。こうした体験を積み重ねるなかで、新たな切り口や視点、気づきを得ることが、協働学習の効果の一つです。多面的な視点を取り入れる過程が、知識の構造化につながるという意識を持つことが大切です。
個別学習と協働学習の往還
個別学習と協働学習を一体で捉え、相互の往還を意識していくことも重要です。個別学習と協働学習は相反するものではなく、相互に往還しながら学びを深めていく関係にあるといえます。例えば、個別学習によって習得した知識・技能を基に意見をまとめた上で、協働学習を通じて他者の意見に触れる機会を設けることが大切です。
さらに、他者から取り入れた考えを基に、自身の意見や考えを整理・分析しながら個別学習をすることにより、深い学びにつながります。このように、個別学習と協働学習の往還を繰り返す過程で学びを深めていく体験そのものが、主体的・対話的で深い学びを実現するきっかけとなるといわれています。
協働学習の意義や目的を踏まえて実践することが大切
学習指導要領がめざす「主体的・対話的で深い学び」を実現させるために、協働学習は欠かせません。協働学習の意義や目的を踏まえて効果的に授業へ取り入れることが求められています。また、個別学習とうまく両立させることによって、児童生徒は学びを深めていけます。
ICTを活用した学習活動を支援する「SKYMENU Cloud」
GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台の端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」と多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。