2019年12月に文部科学省が提唱した「GIGAスクール構想」により、児童生徒1人1台端末や高速大容量の通信ネットワークなど、学校におけるICT環境の整備が進みました。それに併せて、学校ではタブレット端末の導入を始めています。なぜ、学校では学習者用端末としてノートPCよりもタブレット端末が選ばれることが多いのでしょうか。この記事では、その理由や端末の整備状況、ICT活用指導力の現状のほか、学校がタブレット端末を整備するメリットなどについて解説します。
GIGAスクール構想の目的は「資質・能力が一層確実に育成できる教育ICT環境を実現する」こと
GIGAスクール構想が提唱された後の2020年6月に文部科学省が公表した「GIGAスクール構想の実現へ」では、GIGAスクール構想は「1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、特別な支援を必要とする子供を含め、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育ICT環境を実現する」「これまでの我が国の教育実践と最先端のICTのベストミックスを図ることにより、教師・児童生徒の力を最大限に引き出す」と定義されています。
学校でタブレット端末の整備が進められた理由
学校でタブレット端末の整備が進められた理由として、先述の「GIGAスクール構想の実現へ」では学校のICT環境整備状況が脆弱であるとともに、地域によって格差が大きい危機的状況であったことが挙げられています。また、学校におけるICT活用状況を世界と比較すると、日本はかなり遅れていることも理由として挙げられています。
こうした課題を背景に「“すぐにでも” “どの教科でも” “誰でも” 使えるICT」の整備が進められました。その中でも、特に1人1台端末は教科の学びを深め、学びの本質に迫るための活用や、教科の学びをつなぎ、社会課題の解決に生かすための活用が求められてきました。
ICT環境の整備状況とICT活用指導力の現状
GIGAスクール構想の実現に向けて進められてきたICT環境の整備ですが、その整備状況や教員のICT活用指導力は、どのような現状なのでしょうか。
ICT環境の整備状況
2023年10月に文部科学省が公表した「令和4年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」(以下、調査結果概要)によると、2023年3月1日時点で、全国の公立学校(小・中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校および特別支援学校)における児童生徒1人あたりの教育用コンピュータ台数の平均値は1.2台であり、全都道府県が1.0台以上となっています。GIGAスクール構想で示された「1人1台端末」については、ほぼ整備されたといえます。また、教員1人あたりの指導者用コンピュータ台数は平均値で1.29台、教員の校務用コンピュータ整備率は平均値で126.7%となっており、こちらも1人1台を上回る端末の整備が達成されています。
教員のICT活用指導力
教員のICT活用指導力については、下記のような結果となっています。この数値は、前述の調査結果概要に記載されたチェックリストに基づき、授業を担当している教員が自己評価を行う形式で調査したものです。「できる」「ややできる」「あまりできない」「まったくできない」の4段階評価を行い、「できる」もしくは「ややできる」と回答した教員の割合を算出しています。
ICTの活用について「できる」「ややできる」と回答した教員の割合(2023年度調査)
- 教材研究・指導の準備・評価・校務などにICTを活用する:88.5%
- 授業にICTを活用して指導する:78.1%
- 児童生徒のICT活用を指導する:79.6%
- 情報活用の基盤となる知識や態度について指導する:86.9%
出典:文部科学省「令和4年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」
こうした結果からも、教員が学校教育を取り巻く環境の変化を前向きに受け止め、ICT活用指導力の向上に取り組まれていることが伝わってきます。また、児童生徒1人ひとりの学びを最大限に引き出し、主体的な学びを支援する伴走者として授業改善に努めていることがわかります。
学校にタブレット端末を整備するメリット
ここまで紹介したとおり、2023年時点では学校におけるICT環境の整備は、ほぼ達成されていることがわかりました。学校にタブレット端末が整備されると、以下のようなメリットがあります。
- 情報活用能力の育成に役立つ
- プログラミング的思考が育める
- 1人ひとりの特性や学習到達度に合わせた学びに役立つ
- 豊富な学習用ツールを活用できる
- 思考や表現の幅が広がりやすい
ICT活用教育に期待されること
ICT活用教育には、今後どのようなことが期待されているのでしょうか。2つのポイントを挙げて解説します。
個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実
GIGAスクール構想におけるICT活用教育は、すべての児童生徒たちの可能性を引き出すために「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実をめざしています。個別最適な学びは「指導の個別化」と「学習の個性化」という2つの側面があります。これを文部科学省は、中央教育審議会の令和3年答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」の内容を踏まえて、次のように示しています。
指導の個別化
全ての子供に基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させ、思考力・判断力・表現力等や、自ら学習を調整しながら粘り強く学習に取り組む態度等を育成するためには、教師が支援の必要な子供により重点的な指導を行うことなどで効果的な指導を実現することや、子供一人一人の特性や学習進度、学習到達度等に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行うことなど
学習の個性化
基礎的・基本的な知識・技能等や、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力等を土台として、幼児期からの様々な場を通じての体験活動から得た子供の興味・関心・キャリア形成の方向性等に応じ、探究において課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現を行う等、教師が子供一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで、子供自身が学習が最適となるよう調整する
一方、協働的な学びとは、「探究的な学習や体験活動などを通じ、子供同士で、あるいは地域の方々をはじめ多様な他者と協働しながら、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、様々な社会的な変化を乗り越え、持続可能な社会の創り手となることができるよう、必要な資質・能力を育成する」とされています。
これら2つの学びが一体的に充実することで「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」に取り込んだり、「持続可能な社会の創り手となることができるよう、必要な資質・能力を育成」したりすることが求められています。
誰一人取り残すことのない学びの実現
個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実と併せて期待されるのは、「誰一人取り残すことのない学びの実現」です。近年では、特別な支援を必要とする児童生徒や外国人児童生徒、さらには不登校などの問題もあり、児童生徒の多様化が進んでいます。学校がさまざまな課題を抱える中にあっても、義務教育において誰一人取り残さない教育を徹底していかなければなりません。そこで、ICTの活用によって、従来はなかなか伸ばせなかった資質・能力の育成を図ることや、知識の習得に関して今までの教育では適応的ではなかった児童生徒の一部に効果を発揮することなどが期待されています。
学校におけるタブレット端末の活用や整備に関する課題
学校でのタブレット端末の整備が進む一方で、活用や整備に関する課題も指摘されています。続いては、タブレット端末導入にあたり、学校が抱えている課題についてご紹介します。
自治体間、学校間におけるICT活用の格差の課題
前述のとおり、1人1台端末はほぼ整備されたものの効果的に活用している自治体や学校と、うまく活用できていないところでのICT活用の格差が指摘されています。タブレット端末を使っているものの、従来の紙の教材がデジタルに置き換わっただけという場合も少なくないといわれています。このようなICT活用の格差の是正が求められており、その対策としてGIGAスクール運営支援センターによる広域的な支援体制の充実が図られています。また、これまでの課題であった学校現場におけるICT活用指導力支援ができる人材の「不足」や「ミスマッチ」の解消に取り組んでいます。
教員のICT活用指導力の課題
文部科学省が2021年8月に実施した「GIGAスクール構想に関する各種調査の結果」によると、義務教育段階では教員のICT活用指導力が課題の上位として挙がっています。GIGAスクール構想を進めていくために、教員にはICT活用指導力の向上が求められています。
現在、実施されている指導力向上の施策は、ICT活用指導力チェックリストを活用した校内研修や、教育委員会・教育センター等が実施する研修などがあります。研修は学校や教員の実態に応じた工夫が必要であり、全体研修や個人的研修のほか、ワークショップやOJTの活用、模擬授業、e-ラーニングなどを組み合わせて効果的な研修を実施することが必要とされています。
家庭や地域との連携の課題
学校のみならず、家庭や地域で、タブレット端末を使用できる環境を整えることも課題の一つです。1人1台端末を最大限に生かし、児童生徒たちが主体的に学ぶ環境をつくるためには、学校だけではなく家庭や地域とも連携していくことが大切です。2022年8月に実施された文部科学省の調査によると、平常時に端末の持ち帰りができている学校は、小学校で75.3%、中学校で71.4%となっています。非常時や不登校児童生徒への対応なども考慮し、すべての小・中学校で端末の持ち帰りを行い、ハイブリッド型授業(双方向型のWeb会議システムの活用)を実施できる環境を整えていくことも重視されています。
さらに、通信環境整備が困難な家庭への支援や、放課後児童クラブにおける通信環境の整備、校外学習の充実など、時間や場所に制限されることなく端末を活用できる環境整備も検討することが大切です。
タブレット端末の活用には、適切な環境整備による学習支援が重要
学校でタブレット端末をはじめとするICTを活用した学習を充実させるには、端末の整備だけでなく、適切な環境整備を行うことが重要です。その環境整備の一つとして、授業支援、学習支援を行うためのツールを導入することで、児童生徒の学習活動の充実や授業改善の取り組みが期待できます。「児童生徒ごとに最適化された学びにつながる」「学習評価の参考になる」「教員の負担を軽減できる」といったメリットがあり、1人1台端末を最大限に有効活用することができます。
タブレット端末の活用や整備に関する課題を踏まえ、適切な対策を
GIGAスクール構想により、タブレット端末の整備は大きく進展しました。タブレット端末は、豊富な学習用ツールを活用することで児童生徒1人ひとりの特性や学習進度、学習到達度に合わせた学びに役立ちます。その一方で、「自治体や学校によって活用状況に差がある」「教員のICT活用指導力を向上させる必要がある」「家庭や地域との連携がまだ不十分である」といった課題も取り上げられており、各学校においてタブレット端末を活用した学習を充実させるための試行錯誤が続けられています。
ICTを活用した学習活動を支援する「SKYMENU Cloud」
GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台のPC端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」と多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。