ICT教育とは、学校の授業や児童生徒の学習活動において、コンピュータやタブレット端末などのデジタル機器、インターネットや各種アプリケーション、クラウドサービスなどのICT(Information and Communication Technology)を活用することです。情報技術の革新が進む現代において、ICT教育は欠かせない要素となっています。本記事では、小学校でICT教育に取り組むメリットや課題、成功事例などを紹介します。
ICT教育とは、情報通信技術(ICT)を活用した学習活動のこと
ICT教育とは、コンピュータやタブレット端末、インターネットサービスなどの情報通信技術(ICT)を活用した教育活動の総称です。具体的には、授業や学習活動を行う際にPCやタブレット端末、大型提示装置、デジタル教科書、アプリケーション、クラウドサービスなどを活用することなどが挙げられます。「小学校 学習指導要領(平成 29 年告示)」には、「情報活用能力の育成を図るため,各学校において,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること」と示されており、小学校においてもさまざまな学習場面でICTが活用されています。
学校におけるICTを活用した学習場面
文部科学省の「教育の情報化に関する手引-追補版-(令和2年6月)」の「第4章 教科等の指導におけるICTの活用」によると、小学校の学習場面に応じたICT活用の分類は、「一斉指導による学び(一斉学習)」「子供たち一人一人の能力や特性に応じた学び(個別学習)」「子供たち同士が教え合い、学び合う協働的な学び(協働学習)」の3つに分けられるとしています。
一斉学習においては、教員が大型提示装置に画像や動画などを提示し、拡大したり、画面に書き込んだりして説明することで、子どもたちの興味・関心を高めるとともに学習活動を焦点化することで、児童生徒の理解を深めます。個別学習では、デジタル教材や学習者用コンピュータを用いて、習熟の程度に応じて自分のペースで学習することやインターネットを用いた情報収集が行えます。そのほか、協働学習ではタブレット端末や大型提示装置を用いて、グループや学級全体での発表や話し合いを行ったり、遠隔地や海外の学校との交流授業を行ったりすることで、新たな表現や考えへの気づきを得ることができます。
小学校におけるICT教育の広がり
文部科学省の「令和4年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」(以下、実態調査結果)によると、2023年3月時点の全国の公立小学校における教育用コンピュータ1台あたりの児童数は0.9人、普通教室の無線LAN整備率は95.6%、普通教室の大型提示装置整備率は92.0%、指導者用デジタル教科書整備率は94.3%、学習者用デジタル教科書整備率は99.9%となっており、ICT環境整備は着実に進んでいます。特に、教育用コンピュータ1台あたりの児童数を見ると、2020年3月時点で5.5人/台だった数値が、GIGAスクール構想に伴うICT環境整備により現在では1人/台を達成しました。
小学校でICT教育に取り組むメリット
知識・情報・技術をめぐる変化の速さが加速度的となり、情報化やグローバル化といった社会的変化が、人間の予測を超えて進展するようになっている現在、小学校においてもICT教育は欠かせないものになっています。小学校でICT教育に取り組むメリットについて、具体的に4つのポイントで解説します。
1人ひとりに合わせた個別最適な学びに役立つ
小学校でICT教育に取り組むメリットの一つは、教員が児童1人ひとりの学習活動の進捗状況をリアルタイムに確認できることです。教員の手元の端末で確認できるため、個々の学習活動に応じた机間指導や声掛けがしやすくなります。また、1人ひとりの学習進度に応じて出題する「AIドリル」などを活用すれば、繰り返しが必要な知識の習得や苦手分野の克服にも役立ちます。そのほか、紙の教科書を使用することが困難な児童には、文字の拡大や音声の読み上げが活用でき、学習上の負担を軽減することも期待されています。生活科や理科などの科目で実験を行うことが難しい場合でも、専用のソフトウェアや動画コンテンツを活用すれば、実験結果を視覚的に確認できます。
手早く考えが共有でき、協働学習が行いやすい
小学校でICT教育に取り組むメリットには、児童同士が自分と友達の考えを比較することで議論が活性化することも挙げられます。ICT端末の活用によって情報共有の効率が圧倒的に向上するため、グループで発表資料をまとめたり、クラス全体に考えを共有して意見を聞いたりするといった活動ができるようになります。グループで協働し、写真や動画を使った発表資料を作るときなどにグループワークを支援する機能を利用すれば、全員で同時に編集作業を進めることも可能です。ほかの児童の進捗状況や全体像を確認しながら作業ができ、そこからヒントを得て内容を工夫したり、表現方法を相談したりするといった活動が、主体的・対話的で深い学びを促し、思考力や表現力を育むことにつながります。
情報活用能力の育成につながる
小学校でICT教育に取り組むメリットの一つは、これからの時代に欠かせない情報活用能力を育むことです。「コンピュータ等の手段を用いて必要な情報を得る」「情報を比較検討し主張をわかりやすくまとめる」「情報を保存・共有する」といった学習活動を通して、ICT機器の基本的な操作はもちろん、問題解決・探究における情報活用、プログラミング的思考、情報モラル・セキュリティを学べます。文部科学省の「学習の基盤となる資質・能力としての情報活用能力の育成」に掲載された体系表例は、育成が求められる情報活用能力の具体例が、発達の段階等を踏まえた5段階(ステップ1~5)で整理されています。
学びの足跡をデータとして残せる
小学校でICT教育に取り組むメリットには、学習記録をデータとして残せることもあります。これまでの学習では、児童は紙のノートやワークシート等に考えたことや学んだことを記録していましたが、ICT教育では、ソフトウェアを活用して、学習の記録をクラウド上に蓄積できるようになります。友達の発言や教員の説明、そして写真や図など自ら調べた情報についても記録することができます。例えば「SKYMENU Cloud」の[気づきメモ]を使えば、学習活動のなかで得た細かな気づきもデータとして残せます。
小学校でICT教育を取り入れる際の課題
ICT教育にはさまざまなメリットがあり、GIGAスクール構想に伴う1人1台端末の整備によって日常的な活用が定着し始めています。その一方で、いくつかの課題も指摘されています。ここでは、3つの課題について詳しく解説します。
ICT環境整備の費用負担については見通しが不透明
小学校でICT教育を取り入れる際の課題の一つは、ICT環境の整備、特に1人1台端末の更新にかかる費用の負担についてです。2020年度から行われたGIGAスクール構想の推進によって1人1台端末と高速ネットワークの整備が進み、学校教育におけるICT活用の効果は実感されつつあります。一方で、故障端末の増加やバッテリの耐用年数が迫っているという状況もあり、ICT教育に積極的で早期に1人1台端末の整備を行った自治体から順次更新が必要となっています。文部科学省では「令和5年度補正予算」に「GIGAスクール構想の推進~1人1台端末の着実な更新~」を盛り込み、「5年程度をかけて端末を計画的に更新するとともに、端末の故障時等においても子供たちの学びを止めない観点から、予備機の整備も進める」とし、都道府県に基金を造成し、令和7年度まで更新分(約7割)に必要な経費を計上しています。
しかし、上記の補正予算の決め手となった「デフレ完全脱却のための総合経済対策」(令和5年11月2日閣議決定)の中では「大宗の更新が終了する2026年度中に、地方公共団体における効率的な執行・活用状況について検証するとともに、次期更新に向けて、今後の支援の在り方を検討し、方向性を示す」とされており、今後の更新については活用状況の検証結果によるとしています。
端末の故障やネットワーク環境のトラブルへの対策
小学校でICT教育を取り入れる際の課題として、端末の故障やネットワーク環境に起因するトラブルが問題になりました。ICT端末の故障の多くは学校や自宅で落としたり、ぶつけたりしたことが原因です。修理費が年間数百万円に上る自治体もあるほか、故障の原因によっては保護者が負担する事例もあるなど、自治体や保護者にとって大きな負担となっています。そのほか、「動画をスムーズに再生できない」「クラスで一斉にアクセスすると接続できない」といったネットワークの遅延や不具合も、ICT教育の活用を阻害する要因の一つとして指摘されました。文部科学省では、通信速度やネットワーク構成などを一定の基準で評価する「ネットワークアセスメント実施促進事業」を実施し、必要な改善策の把握を進めています。
ICT活用指導力の向上が必要
小学校でICT教育を取り入れる際の課題に、教員のICT活用指導力があります。ICT教育を通した「主体的・対話的で深い学び」の実現や情報活用能力の育成のためには、1人ひとりの教員がICT活用指導力の必要性を理解することが大切です。そのためには、校内研修等に積極的に参加するなど、自ら研さんを深めることが欠かせません。また、教育委員会等が各学校の研修に積極的に関わって、教育委員会や教育センター等の研修を充実させていく必要があります。文部科学省では「教員のICT活用指導力チェックリスト」を作成して調査を実施し、状況の把握を進めています。
ICT教育の活用状況
ICT教育のための環境整備は進んでいる一方で、実際の利活用状況はどのようになっているのでしょうか。ここでは、諸外国と日本の活用状況などを紹介します。
諸外国の教育におけるICTの活用状況
文部科学省の「学校教育情報化の現状について」では、OECD(経済協力開発機構)に加盟している先進国での教育におけるICT活用状況が紹介されています。各国の中でもICT先進国であるシンガポール、フィンランド、エストニア、デンマークでは、国や自治体による端末等の整備に加えて、早期からBYOD(Bring Your Own Device:私的なデバイスを持ち込み活用すること)を導入し、ICTインフラの整備やコンテンツの充実化を進めています。例えば、シンガポールでは、1997年に「ICT教育マスタープラン」をスタートさせ、国が端末やネットワーク等を整備してきました。2009年に発表された「ICT教育マスタープランIII」では、電子教科書などのソフトウェアの普及や教員育成等を展開し、BYODを導入する学校も増加しています。現在は、「ICT教育マスタープラン」から「EdTechプラン」へと名称を変更し、教員の専門的な資質向上に力を入れています。一方、アメリカやイギリスなどそのほかの先進国では、2000年代から国や自治体が教育の情報化を主導している国が多く、日本同様にICT環境の整備や教材開発への取り組みを推進中です。
日本の教育におけるICTの活用状況
文部科学省の「OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」では、日本は学校の授業(国語、数学、理科)におけるデジタル機器の利用時間が短く、OECD加盟国中最下位という結果が発表されました。その後、日本ではGIGAスクール構想が提唱され、全国の学校でICT環境の整備が急速に進みます。前述の実態調査結果では、すべての都道府県で1人1台以上の教育用コンピュータ整備が達成されました。
一方で、2022年に通知された「1人1台端末の利活用促進に向けた取組について」では、授業での端末の利活用状況は地域や学校によって大きな差が見られることが指摘され、こうした状況は、教育の機会均等の観点からも早急に是正する必要があるとされています。
日本のICT教育の成功事例
文部科学省の特設Webサイト「StuDX Style」では、1人1台端末のさらなる利活用の促進に向けて、全国の学校や自治体から提供された端末の活用方法に関する優良事例等が数多く紹介されています。具体的には、活用の初めの一歩となる「慣れるつながる活用」、各教科等の学習に生かす「各教科等での活用」の事例のほか、学習を実社会で問題発見・解決に生かしていく「STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進」の取り組みが掲載されています。また、「SKYMENU Cloud」のWebサイトでも具体的な実践事例を紹介しています。
児童の情報活用能力を育むICT教育へ
ICT教育は技術が目まぐるしく進歩を遂げる現代社会において、児童生徒の情報活用能力を育む上で欠かせない教育です。ICT教育には、「一人ひとりの児童に合わせた個別最適な学びに役立つ」「考えを共有し、協働的な学びを支援する」といったメリットがある一方で、ICT機器の故障やネットワーク環境にトラブルが生じた際の対応、教員のICT活用指導力の向上といった課題もあります。学校での1人1台端末の利活用促進にあたっては、上記のような事例などを参考にしていただければと思います。
ICTを活用した学習活動を支援する「SKYMENU Cloud」
GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台のPC端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」と多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。