AIやIoTといった技術革新によって、私たちの生活は大きな変革期を迎えています。これからの時代を生き抜いていくためには、児童生徒の情報活用能力を育むことが必要です。現在、全国の学校ではICTを効果的に活用した教育の充実に向けた環境整備が進んでいますが、タブレット端末や大型提示装置などのハードウェアと併せて重要になるのが、学習活動に適した授業支援システムです。この記事では、授業支援システムの主な機能やメリット、選び方について紹介します。
授業支援システムは、ICTで児童生徒の学びを支援し、教員の授業運営をサポートする仕組み
授業支援システムとは、ICTで児童生徒の学びを支援し、教員の授業運営をサポートする仕組みです。授業支援クラウド、授業支援ツール、授業支援サービス、授業支援ソフトウェアなどと呼ばれることもあります。
目まぐるしい進歩を遂げる近年の技術革新に加え、2019年に文部科学省が提唱した「GIGAスクール構想」により、児童生徒1人1台の学習用端末が整備されたことに伴い、日常的な学習活動でも活用されるようになりました。
授業支援システムの特徴として、3つの機能が挙げられます。1つ目は、教員の手元の端末で活動の進捗状況を確認できる機能です。これは、児童生徒の個別指導やほかの児童生徒に共有したい内容を見つける場合などに有効です。2つ目は、オンライン授業や学習指導を提供できる機能です。例えば、感染症の影響による臨時休業といった事態が生じても、学びを継続できます。3つ目は教材の配付や管理など、授業の進行を補助できる機能です。これにより、紙のプリントなどを配付するのに比べて時間を効率よく使えます。
授業支援システムを導入するメリット
授業支援システムは、さまざまな機能を備えています。それらを活用することで、児童生徒や教員にどのようなメリットが考えられるのかをご紹介します。
授業準備の効率化
授業支援システムの導入メリットには、授業準備の効率化が挙げられます。例えば、紙のワークシートを使用する場合は、あらかじめ印刷して、授業時間内に配付しなければいけません。授業支援システムを使えば、ファイルを選択して配付するだけでよいので、限られた授業の時間を有効に活用できます。また、作成した教材のファイルを教員間で共有して活用したり、前年度の教材を基に改善することも手軽にできます。
データの蓄積とアクセス
児童生徒の学習活動の成果などをデータとして蓄積できるので、評価に役立てられるのも授業支援システムの導入メリットです。授業支援システムには課題の提出から添削、返却などの一連のやりとりをシステム内で行えるシステムもあります。また、児童生徒が自身の学びを振り返ることもでき、メタ認知を高め、成長の気づきを促すことにも役立ちます。
個別最適な学び
個別最適な学びを実現するためにも、授業支援システムの活用が有効です。授業中に児童生徒1人ひとりの活動の様子が見て取れるので個別指導に役立てられるほか、学習活動の成果がシステム内に蓄積されるので、児童生徒の学習到達度が把握しやすくなります。
協働的な学び
授業支援システムは、多様な他者と協働しながら、必要な資質・能力を育成する「協働的な学び」でも役立ちます。複数人で手分けして調べたものを一つの発表資料にまとめたり、自分の考えを全体で共有したりといったことが効率的に行え、活発な意見交流や思考を深める活動に役立てられます。
授業支援システムを導入するデメリット
授業支援システムは、学びの充実に役立つ可能性がある一方で、デメリットとされる点も存在します。どのような点が挙げられているのかをご紹介します。
教員に基本的なICT機器の操作を身につける時間が必要
授業支援システム導入のデメリットとしては、教員にICT機器の操作スキルが必要になることです。教員がICT機器の操作に不慣れだったり、ITに関する用語になじみがなかったりすると、児童生徒に適切な指導が行えない可能性があります。また、ICT活用指導力の向上のための継続的な取り組みが必要になります。
そのほか、小学校低学年ではICT機器を扱ったことがない児童もいるため、授業支援システムを導入する際は、基本的な操作を習得するための時間も考慮しておく必要があります。
初期の導入段階での研修など、機能を理解するための準備が必要
授業支援システムは便利な反面、システムごとに慣れるまでに一定の期間が必要ということもデメリットの一つだと考えられます。最初のうちは、操作に慣れていないため不便さを感じるところもあるので、混乱を避けるためには、導入時には教育委員会や教育センターでの研修や、校内研修を実施して操作方法や機能を理解しておくことが大切です。また、児童生徒が質問しやすい環境づくりも大切です。
児童生徒によるシステムの不適切利用への対策が必要
授業支援システムを使って児童生徒がいたずらをするなど、不適切な使い方をする可能性があることも考慮しておく必要があります。まずは、そうした不適切な利用ができないシステムを選定することはもちろん、適切なルールづくりや情報モラル教育も大切です。とはいえ、ルールで何もかもを禁止するのでは可能性を狭めてしまうため、バランスを考えながらアイデアを出し合い、あらゆる場面を想定したルールを作成することが求められます。
授業支援システムの導入手順
総務省が2017年に公開した「教育ICTガイドブック」内の「教育ICT導入手順 ~できる! クラウドベースのICT活用~」の項目を基に、クラウドベースの授業支援システムやICT環境をどのように整えていくのか、ご紹介します。
①準備段階
まずは、クラウドのメリットを生かしながら「どのように教育や学校経営を改善・充実していくのか」「その際の課題は何か」など、授業支援システムの目的と課題をイメージして関係者で共有しておくことが必要です。
その上で、各種クラウドサービスの機能やコスト、ほかの自治体の導入状況、国の指針などについて、先進自治体への視察やヒアリングを行って幅広く情報収集します。
さらに、ICT環境の整備に向けて、教育委員会の担当者が中心となりつつも、財政部門や情報政策部門など、組織を横断して連携し検討できる体制を整える必要があります。
②計画段階
次の段階として、「学校における活用」と「家庭を含む校外における活用」という2つの場面での活用イメージを明確にします。
例えば、授業中をはじめ、朝や放課後学習、生徒会活動、家庭学習・校外学習など、具体的に授業支援システムをどのように活用していくかをイメージします。そして、それを基に導入するクラウドサービスの事業者やコンテンツを検討していきます。併せて、電子黒板などのICT機器の導入の検討も必要です。
さらに、授業支援システムを円滑に活用するには、ネットワーク環境の確立が欠かせません。インターネットへの接続形態の検討をはじめ、接続するタブレット端末の台数や利用するコンテンツなどをあらかじめ検討して、ネットワーク負荷の設計を行うことが重要です。
③調達段階
次は、授業支援システムの導入に向け、多様な財源を活用しながら予算を確保します。
授業支援システムだけでなく、ネットワークやICT機器を併せて整備する場合は、調達する対象が広範囲にわたります。この場合、導入事業者を一本化して一括調達することで、全体最適を図ることができ、その後の管理や障害対応も円滑に行われることが期待できます。
また、調達のコストを抑える工夫として、ほかの自治体と共同する「共同調達」やサービス料を月額で支払う「サービス調達」などがあります。それぞれのメリット・デメリットを確認した上で、どういった方法を採用するか、十分な検討が必要です。
④運用段階
次に、授業支援システムをはじめとするICTの活用を中心となって進める人員を確保します。
学校内に推進委員会を設置するほか、ICTの運用ルールを策定するとともに、マニュアルの整備、教員への研修の実施などにより、スムーズな運用が期待できます。そのほか、外部のICT支援員を学校に配置してサポートしてもらう方法もあります。
また、しっかりとした情報セキュリティ対策を講じるとともに、障害が発生した際の連絡体制や対応手順をあらかじめ検討しておくことも欠かせません。
⑤検証段階
最後に、授業支援システムの活用に伴い発生するさまざまな課題を明らかにし、改善を図ります。
活用状況を把握した上で、それを分析・検証し、成果と課題を明らかにします。明らかになった課題や好事例を、職員会議などの場を利用したり、研修会を開いたりして教員間で共有し、改善を図っていきます。
このとき、「Wi-Fiが切れやすい」などICT環境の面でも併せて改善を図ることで、児童生徒の学びの充実につなげていくことが期待されます。
授業支援システムを選ぶ際のポイント
児童生徒にも教員にも便利なツールとなる授業支援システムですが、多くの商品やサービスがあるため、どれを選択すればよいのかと悩む方も少なくありません。ここでは、授業支援システムを選ぶ際のポイントをまとめました。
教育目標や目指すべき児童生徒像に合った使い方ができるか
導入の目的や授業の課題を明確にした上で、その要件を満たす機能が備わっている授業支援システムを選ぶことがポイントです。まずは教員同士で話し合い、どのような場面でどのように活用できるのか、イメージを共有してから求める機能を洗い出していくことが大切です。
十分な情報セキュリティ対策が施されているか
授業支援システムでは、児童生徒の個人情報などの機微なデータを取り扱います。そのため、外部に漏れることのないよう、高い情報セキュリティ対策が施されているかも重要なポイントです。ICTは児童生徒が主体的に活用することが大切ですが、安全に活用するために機能を制御する仕組みや、もしトラブルが発生したときに操作ログの記録がないと、原因の究明や再発の防止ができません。
また、授業支援システムが文部科学省の「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」などに則した運用を想定して開発されているか、サービス事業者が情報セキュリティマネジメントの国際規格「ISO/IEC 27001」などの第三者機関の認証を受けているかなどを確認することも大切です。
トラブル時のサポートと連絡窓口があるか
トラブルが起きたり、活用のための支援が必要になったりしたときに、授業支援システムを提供するサービス事業者がどのようなサポートをしてくれるのかという点もポイントになります。できる限りサポートが手厚く、専門の連絡窓口が用意されている事業者を選ぶことが大事です。
実際の授業での使いやすさを考える
授業支援システムは、日常的に継続して使うものです。そのため、第一に授業中の使いやすさを重視すべきです。導入前に操作性や画面の見やすさなどに問題はないか、児童生徒は迷わずに使えそうか、機能が期待に沿うものかなど、実際にデモ環境を使ったり導入事例を読んだりして確認しておくことをお勧めします。
授業支援システムを活用した導入事例
授業支援システムを活用することで、どのような授業ができるのでしょうか。ここでは、Sky株式会社の「SKYMENU Cloud」を活用した実践事例をご紹介します。
自分の考えを示し、話し合った変化を振り返る
東京都昭島市立拝島第一小学校では、モラルジレンマを考える道徳科の授業で、「SKYMENU Cloud」を活用しました。 授業では、マーカを配置することで自分の考えを示せる「ポジショニング」を使用し、「絵はがきが料金不足で届いた場合、そのことを相手に伝えるか否か」というテーマで、児童に自分の意思をマーカで示してもらいます。そして、どうしてそのような考えに至ったのか、グループで話し合いました。友達の考えを聞いて自分の考えが変わった場合は、ポジショニング機能のマーカを移動してもらいます。最後に、自分の考えがどのように変わったのかを見ることで、振り返りを行いました。
このように「ポジショニング」を使えば、学級の中で自分の意見はどのような位置づけにあるかを確認できます。この機能は、国語の討論や理科の予想・仮説発表など、ほかの教科にも活用できそうです。
システムを使って自分の思いを入力し、発信する
神戸市立若草小学校では、図画工作科において、タブレット端末の画面上に手書きで線や文字を書き込んだり画像を貼りつけたりできる、「SKYMENU Cloud」の「発表ノート」を使っています。児童が自分の作品を撮影した写真を発表ノートに貼りつけて、日付や自分の思いを入力し提出。教員は、スタンプやコメントを添えて返却します。教員から素早く返事が来るので、児童たちも楽しみにしているようです。
そのほか、アンケート作成ツール「Microsoft Forms」を使った授業の振り返りも行っています。振り返りを始めてすぐに感じたのは、児童の作品づくりに対する姿勢の変化です。自分の作品にこだわりを持って、ねばり強く取り組む様子が見られるようになりました。また、机間指導で声かけがしやすくなったと感じています。前回のアンケート結果から、1人ひとりの状況や考え、悩みを把握できているので、短い時間で全員の児童に的確に声を掛けられるようになりました。
書くことや伝えることに苦手意識があった児童も、発表ノートやアンケートフォームでさまざまな思いを発信できるようになりました。ICTの活用によって、すべての子どもたちに新たなチャレンジの場が生まれています。
ICT活用教育には、授業支援システムの活用が有効
文部科学省は「ICTを最大限活用し、これまで以上に『個別最適な学び』と『協働的な学び』を一体的に充実し、『主体的・対話的で深い学び』の実現に向けた授業改善につなげる」としています。子どもの学び方や興味関心は1人ひとり異なるため、1人1台端末とともに授業支援システムを活用することで、多様な学びに対応できるようになります。特に個別最適な学びでは、児童生徒自身が興味関心に応じてICTも使いながら、自ら「探究する」、学習の個性化が重要になります。
そのために、まず導入の目的や解決すべき課題を明確にすること。そして、それに合った機能を備えたシステムを選ぶことが大切です。
「SKYMENU Cloud」は、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実をサポートする幅広い機能を搭載しています。子どもたちが自らの手で豊かな未来を創り出していく力を身につけるさまざまな活動に、1人1台端末の日常的な活用を支援する「SKYMENU Cloud」をぜひお役立てください。