実践レポート
本実践では、ドイツ歌曲の鑑賞を繰り返す中で、歌詞に描かれた登場人物の違いを、作者はどのように音楽で表現しようとしたのか、その工夫や意図を、音楽を構成する諸要素のはたらきを根拠として子どもが追究することをねらいとした。
歌詞の内容(日本語訳)を把握していない状態でドイツ語の歌曲を聴いた子どもは、「強弱」や「音の高さ」といった要素を手がかりに、それぞれの旋律はどの登場人物の台詞なのかを想像した。従来の実践では、子どもが楽曲を聴きながら感じたことを楽譜やワークシートに書き込み、思いや考えを整理した上で、意見交流の場を設定していた。本実践では、『SKYMENU
Cloud』の機能を活用することで、子どもが音を聴いて瞬間的に感じたことや、楽曲分析の過程を可視化し、学級全体で共有することを試みた。このことで、子どもは仲間の聴き方や、考え方に興味をもち、意見交流の活性化を図ることができた。
授業の導入では、「この旋律はだれのものか」という学習課題のもと、前半部分の二つの旋律を聴き比べた。この活動では、[ポジショニング]のタイトル欄に「学習課題」を記入し、選択肢となる「父」、「子」、「魔王」の三人の登場人物を配置した。
一つ目の旋律について、どの役かと問われた子どもは、
資料1のように自分の考えをそれぞれ示した。教員機の画像は音楽室のモニターにミラーリングして示してあるため、子どもは学級の仲間がどのように聴き取ったのかをすぐに確認することができた。
資料1の画像を見ると、多くの子どもが「父」または「魔王」ではないかと考えていることがわかる。この集約された画像を見た子どもは、
「子」と判断した二人の考えを知りたい①と発言した(資料1の丸印参照)。二人は共に「子」と判断したものの、それぞれが境界線に近い位置にポジショニングしている。このことから、アの子どもは「父」と迷った結果、イの子どもは「魔王」と迷った結果、それぞれ最終的には「子」ではないかと考えたという思考過程を見取ることができる。実際に、仲間に発言を促されたアの子どもは、「音が低いから大人だろうと思ったけれど、逆に二つ目の旋律が優しい感じだったから、そっちがもしかしたら優しいお父さんみたいな感じかもしれないと思った」と、思考過程で生じた迷い②を説明し、共感した子どもがうなずく姿も見られた。
導入場面で二つの旋律の分析を全員で行った後、[発表ノート]で教師が作成したワークシートを配付し、全ての旋律についてどう判断するか、個人でまとめる学習活動を行った。子どもには、あらかじめ該当する旋律の部分にA~Kのアルファベットを割り当てた楽譜を資料として配ってあるため、ワークシートに示された「父」「子」「魔王」の枠に、それぞれの旋律のアルファベットを入力するように指示した。この分析についての意見交流では、子どもの発言を補足する資料として、発言者の[発表ノート]をモニターに提示した。「私は今の意見と違う部分が多いです……」という発言が出た場合には、発言者本人の[発表ノート]と、その前の発言者の[発表ノート]を同時に表示することで、両者の考えの相違点を把握しやすくなり③、画面や手元の楽譜を見比べながら発言したり、仲間の意見を聞いたりする姿が見られた資料2。
また、この[発表ノート]については、授業のふり返りにおいてもそのまま活用した。授業の中盤では、単純にA~Kのアルファベットを記入するためのメモとして使っていたが、ふり返りの場面では、さらに「なぜそのように分析したのか、理由も書き加える」という指示を出した。子どもは、[ペン]機能や[文字]機能を用いて、自分の[発表ノート]に分析の根拠を入力した
資料3。
次時の授業では、教科書に載せられている日本語訳の書かれた楽譜を読みながら、本来の歌詞の意味と、その役柄について学んだ上で、再度、前時にて提出した[発表ノート]の記述内容をふり返った。多くの子どもが、「魔王」という言葉のもつイメージから、音域の低い旋律や、強弱の強い旋律があてはまるのではないかと考えていたことに気づいた。そこで、教師は再度、前時に似た発想で分析した子どもの[発表ノート]を画面に並べて表示し④、発言を促した。子どもは、「音量の弱い旋律や、優しい感じのするところが子どもだと思っていたので、子と魔王の旋律の多くを真逆に判断していました」と発言するなど、前時にどのように思考したのかをふり返りながら、作者の工夫に迫っていった。
- ①子どもが「意見を聞きたい相手」をすぐに見つけることができ、意見交流のきっかけが生まれた。
- ②「迷いを伴う思考」をしていた子どもに対しても発言を促す学級の雰囲気が生まれた。
- ③子どもが必要とする[発表ノート]を、資料として瞬時に画面に表示でき、発言の意図が伝わりやすくなった。
- ④教師は、子どもの発言に添って前時のデータから必要なものをすぐに選び出し、比較・提示できた。
(2022年2月掲載)