実践事例

中学校1年 社会 <SKYMENU エキスパートTeacher>

「単元シート」の活用で単元を貫く学習問題に迫る

気づきの共有がまとめの言語化に役立つ

宮崎県小林市立西小林中学校の早田 泰大 教諭は、社会科で『SKYMENU Cloud』を活用し、学習者主体の「学びとる」授業の実現をめざした実践をされています。約1年間の取り組みにより、自ら作成した計画や手段で学習できる生徒が増加するなど、顕著な成果が現れています。その取り組みについてお話を伺いました。(2024年1月取材)

早田 泰大 教諭

宮崎県小林市立西小林中学校

一斉授業から学習者主体の授業への移行をめざして

本校は、生徒69名、教員11名が在籍する全学年単学級の小規模校です。私は、本年度(令和5年度)4月に着任したのですが、前年度まではICT活用が進んでいるとは言いがたい状況でした。私自身も、前任校ではICT活用推進委員でしたが『SKYMENU Cloud』は使ったことがなく、初めのうちは生徒たちに操作方法を教えてもらうといった状態からのスタートでした。

これまで、私自身は「自ら課題を見つけ、自力解決する力を育成する」「他者と協働して、自ら考え抜く力を身につける」ことを大切にしてきたこともあり、一斉授業によって「教え込む」授業から、学習者が主体となって「学びとる」授業への移行をめざしていました。教務主任として、主体的な学びと協働的な学びを組み合わせ、今求められている個別最適な学びを少しずつ探っていきましょうと呼びかけました。

そして、授業力向上のための「授業相互参観」を推進。5分間や10分間でもほかの教員の授業を参観し、その後に短時間の意見交換をすることを推奨しました。私もできる限り多くの教員の授業を参観し「あの共有の場面なら、ICTを使えばもっと効率よくできるよ」「このような使い方なら、さらに生徒の学びが広がるかも」といったことを話すようにしました。こうした取り組みが功を奏し、職員室でも自然とICT活用に関する会話が多くなり、今ではすべての教員が日常的に『SKYMENU Cloud』をはじめとするICTを活用しています。

「単元を貫く学習問題」を中心とした授業づくり

今回は中学1年の歴史「武士の政権の成立」という単元における実践をご紹介します。私は、単元の初めに「単元を貫く学習問題」を設定し、単元の最後に単元全体の学びから得られた「単元の学習問題の答え」をまとめ(言語化)させています。

初めに「学習前の予想」と「単元の学習問題の答え」が記入できるワークシートと、学習の見通しやルーブリックを記載したプランニングシートを配付。それに、毎時間の学びをまとめた「まとめシート」を1枚ずつ追加していき、単元の最後に「単元の学習問題の答え」を記述することで、単元全体を通した学びの振り返りに生かしており、これを「単元シート」と呼んでいます。図1

図1 「単元シート」を[発表ノート]で作成することで、毎時間の学びを蓄積していける

今回は6時間構成の単元で、前時までに武士の登場から平家と源氏(鎌倉幕府)および地方の武士について学んできました。そして、5時間目で女性の御家人・地頭について学び、6時間目で単元全体の発表・まとめを行います。

友達の「気づき」が「自力解決」の新しい手掛かりに

私は、単元を貫く学習問題も各時間の学習問題も「生徒の言葉でつくる」ことを大切にしています。導入で「なぜ」や「どうして」と問うことで、子どもたちの意識の中にズレを生じさせ、そこから学習問題が設定できるように工夫しており、本時では「鎌倉時代は、なぜ女性も御家人や地頭になることができたのだろう?」を学習問題としました。

学習前の予想を踏まえ、各自で学習問題について調べるのですが、調べる方法は教科書と用語図鑑、インターネットの中から子どもたちに選択させます。このとき、言葉や資料が精選されている教科書は必ず選択肢に含めています。一方でインターネットでの検索は、非常に広範で多様な情報を集められるという特徴があります。しかし、ねらいを絞る必要があるので「どんな言葉で検索するといいと思う?」と尋ね、焦点化するようにしています。

さまざまな方法で調べたこと、そこから気づいたことがあれば、その場で[気づきメモ(グループメモ)]に記入させます図2。すると、全員の気づきが見える化され共有できます。従来なら、調べた後に数人に発表させることで考えを共有していました。しかし[気づきメモ]なら、積極的に発表する生徒以外の考えも共有できる上、調べ学習の活動と同時進行で共有できるという利点があり、これが生徒の「自力解決」のための新しい手掛かりになります。このときも、検索によって現在の島根県に実在した「尼いくわん」の情報にたどり着いた生徒がいましたので、それを全員に共有してもらいました。

このときも「何を使って共有すればいい?」と問いかけます。このように学習問題の設定や調べ方、得た情報の共有方法も、教師が指示するのではなく必ず生徒に考えさせています。今回は1年生でしたので、ある程度の誘導はしましたが、いずれは自分で適切なタイミングと手法を判断して使いこなせるようになってほしいと考えています。

図2 調べたことや気づいたことを活動を進めながら共有できる

毎時間のまとめに[気づきメモ]で共有した情報を生かす

写真1 調べるために使った情報を持ち寄り、見せ合いながら意見交流

その後、ペアになって調べたことを共有してから、各自が[発表ノート]上で思考ツール(トゥールミンモデルまたはクラゲチャートを選択)を使い、学んだことを「まとめシート」としてまとめます。ここで、先ほど全員に共有された「尼いくわん」の情報のように、自分や友達の[気づきメモ]が生きます。さらに、座席や班を問わず自由に立ち歩いて話し合っても構わないことにすると、教科書やタブレット端末を見せ合いながら活発に意見交流する様子が見て取れました。写真1

こうして完成した「まとめシート」は授業の最後に「単元シート」に追加。これを毎時間繰り返すことで「単元シート」にすべての時間のまとめが集約され、次時に行う発表の内容や単元全体の学習問題の答えを考える手だてとなります。

発表を聞きながら最後のまとめに生かせるメモを残す

単元の最後となる6時間目は、これまで学んできたことを基に平清盛チーム×2、鎌倉幕府チーム×2、地方の武士チーム×1の3種5チームに分かれて発表しますが、発表の前に「発表評価の視点」を示し、発表を聞く生徒が[気づきメモ]で評価を記入するための準備をします。

普段から、学びを通じて「できるようになりたいこと」「できるようになったこと」を問うていますので、評価をさせる際も「何を評価するのか」「何に気づかないといけないのか」という視点を必ず持たせ、[気づきメモ]の質や振り返りの質を上げるように工夫しています。加えて、発表から得られた気づきを、最後のまとめに生かせるようにメモすることを指示しました。

なお、発表には[シンプルプレゼン]を活用し、資料に記載できる情報量を制限しました。発表資料をまとめるのは大変だったようですが、自作の4コマ漫画を使ったり寸劇を交えたりと、各チームが工夫しながら発表を行ってくれました。

単元全体の学びを論理的に説明できるよう言語化する

図3は、各時間に作成した「まとめシート」と本時の発表を聞いた上での考察を基にまとめられた「単元シート」の例です。

生徒たちには、先にクラゲチャートを使って、考えを整理するように指示しています。それは「単元の学習問題の答え(単元のふりかえり)」をまとめるとき、何の準備もなく文章を書き始めると、どうしても部分的なまとめになってしまうことが多いからです。各時間の「まとめシート」や、本時の発表中の[気づきメモ]などを手掛かりに、重要なキーワードを拾い出すことで、論理的な説明ができるよう考えを整理し、理由や事実を交えたまとめをできるようにするねらいがあります。

この「単元シート」は、班で意見交流をしながらまとめますが、友達の「まとめシート」の中に参考になるものがあれば、その場で[グループワーク]を開始して、その部分の「まとめシート」をもらっても構いません。もし、単元途中の授業を欠席していても、友達からもらえば単元全体のまとめシートをそろえることができるので、しっかりと考察できたと思います。これも「他者と協働して、自ら考え抜く」新しいかたちだと感じます。

そして最後にルーブリックに基づいて自己評価を行い、自分自身の学びを振り返った上で「単元シート」を提出させました。

学びたい、知りたいという気持ちに応える「学びとる」授業を

この1年間、自分で最後のまとめが書ける生徒がとても増えたと感じています。他者との協働という点でも、友達との対話の中で新たな気づきが得られることが楽しい、面白いということを感じ始めていると思います。

現在は、ほかの教科等でもICTの活用が定着し始めており、生徒たちに行ったアンケートでも顕著な変化が見て取れました。「授業や課題で、自分がやりたい方法(1人で、友達と、家族となど)でまとめている」という質問に「はい」と回答した生徒は、ICTの活用を始めたばかりの5月は57%だったのに対し、半年後の11月には95%と大幅に伸びています。もちろん、そのほかの質問も軒並み向上しています。

これからも教務主任として各教科等の教員と力を合わせ、生徒たちの「学びたい」「知りたい」という思いに応える「学びとる」授業の実現をめざした取り組みを継続していきたいと考えています。

(2024年4月掲載)

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