学習指導要領が示す「主体的・対話的で深い学び」の実現のための授業改善の視点として位置づけられ、全国の小・中・高等学校に広がっているアクティブラーニング。元は大学教育において、一斉講義型の質的転換を図ることを意図して提唱された考えでしたが、現在では小・中・高等学校でも重要な教授・学習法として定着しつつあります。この記事では、アクティブラーニングの主な手法や考え方のほか、実践にあたって基本となるポイントなどを解説します。
アクティブラーニングとは、
児童生徒の能動的な学びを促す教育法のこと
アクティブラーニングとは、学修者(児童生徒)が受け身ではなく、自ら能動的に考え、学びに向かうことを目的とした教授・学習法を指します。後述する中央教育審議会(以下、中教審)の答申などでは「能動的学修」と表現されていました。以前の学校教育では教員による知識の伝達・注入が主流でした。アクティブラーニングでは一方向的な講義形式ではなく、児童生徒が教員と意思疎通を図りつつ、主体的に問題を発見し、解決する力を身につけることを目指します。
具体的には、発見学習や問題解決学習、体験学習、調査学習などが含まれ、さらに教室内でのグループディスカッション、ディベート、グループワークなども有効なアクティブラーニングの手法として挙げられます。このように、児童生徒が能動的に学習することにより、認知的能力、倫理的能力、社会的能力、教養、知識、経験を含む汎用的能力の育成を図ることができるとされています。
アクティブラーニングが提唱された背景
アクティブラーニングという言葉は、2012年8月28日付の 「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」と題された中教審答申で使用されています。最初は大学教育の在り方を見直し、大学の大教室で行われている一斉講義の質的転換を図るために提唱された概念でした。同審議会に関連して公開された用語集では、アクティブラーニングは「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称」とされています。
2017年(小・中学校)、2018年(高等学校)に告示された現行の「学習指導要領」では、「社会に開かれた教育課程を実現する」という原則の基、これからの教育課程の理念を「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を学校と社会とが共有し、それぞれの学校において、必要な教育内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にしながら、社会との連携・共同によりその実現を図っていく」と定義しています。この視点は、アクティブラーニングの考え方とも一致しています。実際に、学習指導要領改訂の方向性として「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」について具体的に示されており、このうち「どのように学ぶか」には「主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)」の視点を挙げています。
アクティブラーニングの手法
アクティブラーニングを授業に取り入れるには、具体的にどのような手法があるのでしょうか。ここでは、6つのアクティブラーニングの手法をご紹介します。
ジグソー法
ジグソー法とは、児童生徒同士が、テーマや課題について役割分担して調べ学習を進め、各自が調べたことを教え合う学習法です。ジグソー法を行う流れは次のとおりです。
ジグソー法の流れ
- テーマや課題の提示
まずは、学習で扱うテーマや課題を教員が示します。 - グループ分け
児童生徒を1組4~6人程度のグループに分けます。これをジグソーグループと呼びます。 - エキスパート活動
エキスパート活動では、ジグソーグループ内のメンバーそれぞれが、設定されたテーマを細分化したトピックのエキスパート(専門家)になることを目指します。例えば、「ある偉人の一生」をテーマとし、4人1組のジグソーグループがいくつかあるとします。そして、その偉人の幼少期、青年期、壮年期、晩年期といったようにトピックを4つ(グループの構成人数分)に分け、それぞれのグループに各トピックのエキスパートを目指すメンバーが1人ずついる状態にします。各グループでどのトピックを担当するかが決まれば、担当するトピックに関する資料やWebサイトを読み込んだり、エキスパートグループと呼ばれる、同じトピックを担当する人同士が集まるグループでトピックの要点を話し合ったりして、トピックに関する知識を深めます。 - ジグソー活動
ジグソー活動ではジグソーグループに戻り、1人ひとりが自分が学習した内容、つまり自分が専門家となって調べたトピックについて、同じグループのほかのメンバーに説明します。全員の説明を聞いた後は、最初に設定されたテーマについての気づきや仮説などを、グループ全体の意見としてまとめる場合もあります。
シンク・ペア・シェア
シンク・ペア・シェアは、提示された問いについて、児童生徒はまず自分1人で考えます。その後、自ら考えたことをほかの児童生徒と共有したり、その問いに関して意見交流したりする学習法です。シンク・ペア・シェアを行う流れは次のとおりです。
シンク・ペア・シェアの流れ
- テーマや課題の提示
教員が児童生徒全体にテーマや課題を示します。 - シンク(Think)
児童生徒は、テーマや課題に対する意見や回答を各自で考えます。 - ペア(Pair)
児童生徒がペアを組み、お互いが考えた意見や答えを伝え合って共有します。また、考えの根拠も伝えます。 - シェア(Share)
最後に、ペアのメンバーは全体(またはグループ)に向けて、話し合いの中で出た内容や意見、答えなどを発表します。
ラウンド・ロビン
ラウンド・ロビンは、4~6人のグループに分かれ、1人ひとりが順番にアイデアや意見を話すという手法です。質問や評価はせずテンポよく共有し、新しい考えを生み出すことを目指す、ブレーンストーミングの簡易版と捉えるとイメージしやすいと思います。ラウンド・ロビンを行う流れは次のとおりです。
ラウンド・ロビンの流れ
- テーマや課題の提示
教員が学習で扱うテーマや課題を示します。 - グループ分け
児童生徒を4~6人のグループに分けます。 - グループ内での意見の共有
グループ内で順番に1人ずつ自分の意見やアイデアを発表していきます。このとき考えに対する質問や評価は行わず、スピーディーに発表していくことを心掛けることが重要です。
PBL
PBL(Project Based Learning)は課題解決型学習と呼ばれ、児童生徒が自ら課題の解決策を考え、さらにそれを実践することで、解決能力や実践能力を養っていく手法です。PBLを行う流れは次のとおりです。
PBLの流れ
- 課題の設定
教員が解決すべき課題を設定します。児童生徒が自分たちで課題を考える場合もあります。 - 課題解決の計画
グループに分かれてディスカッションし、課題解決のための計画を立てます。 - 調査と情報収集
計画に基づいて課題に関する調査や情報収集をします。 - 課題解決策のまとめ
収集した情報を基に自主学習を行って課題を検証し、データを整理してグループ討論を行い、課題解決策をまとめます。 - 課題解決策の発表
作成した課題解決策を全体に向けて発表します。
KP法
KP法は、あらかじめ複数の紙に発表内容をまとめておき、紙芝居のように示しながらプレゼンテーションを行う手法です。KP法の由来は、紙芝居の「K」とプレゼンテーションの「P」を組み合わせた言葉から来ています。KP法では紙に記すために内容を端的にまとめる必要があることから、児童生徒の発表にKP法を取り入れることで伝わりやすい表現を検討したり、キーワードを吟味しながらまとめたりすることにつながり、個人やグループの考えを整理する手法としても活用されています。
ディスカッション
ディスカッションも、アクティブラーニングに有効な手法の一つです。参加者は決められたテーマに対して自由に意見を交わし、討論・議論を行います。授業で行う場合は、3人以上のグループに分かれて行う「グループディスカッション」が一般的です。ディスカッションを学習活動に取り入れることにより、児童生徒の自主性や協調性、自己表現力などが身につきます。
アクティブラーニングを実践する際の考え方
学校教育において、アクティブラーニングを実践する際、どのような考え方で進めていけばいいのでしょうか。当然ですがアクティブラーニングの本質は「新たな手法を導入すること」ではなく、「どのようにして児童生徒の主体的・対話的で深い学びを実現するか」に焦点を当てることです。また、すべての授業でアクティブラーニングを行う必要もありません。講義型授業とアクティブラーニングをバランスよく組み合わせることが求められます。
アクティブラーニング型の授業における5つのポイント
アクティブラーニング型の授業を行う際に、教員はどのようなことに気をつける必要があるのでしょうか。ここでは、アクティブラーニングにおいて大切な5つのポイントをご紹介します。
主体的な学び
主体的な学びとは、児童生徒が「学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる」学びと定義されています。アクティブラーニングの実践では、児童生徒が主体的な学びを行えているかが重要になります。
対話的な学び
対話的な学びとは、「子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める」学びと定義されています。教員や地域の方々、児童生徒同士など「他者との対話」はもちろん、教科書や教材から得た先哲の考えを手掛かりとして行う「自身との対話」も大切です。
深い学び
深い学びは「習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科などの特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう」学びと定義されています。中教審の2016年の答申においても「『アクティブ・ラーニング』の視点については、深まりを欠くと表面的な活動に陥ってしまうといった失敗事例も報告されており、『深い学び』の視点は極めて重要である」と指摘されています。
児童生徒の能力への信頼
アクティブラーニングでは、児童生徒の潜在能力を信じることが教員の重要な役割だといわれています。教員が主体となって授業を進めようとするのではなく、児童生徒が主体になる授業となるよう見守ることが、アクティブラーニングのポイントといえます。
教員のファシリテーション能力
教員のファシリテーション能力もアクティブラーニングにおいて欠かせない要素とされています。適切なタイミングで必要な質問を投げかけたり、上手に声かけを行ったりすることで、児童生徒の反応や意見を引き出せれば、児童生徒がより積極的に学習に取り組むことにつながります。
アクティブラーニングの3つの課題
アクティブラーニングは、児童生徒の学習意欲と主体性を促すのに有効な学習法ですが、実践するにあたりいくつかの課題が指摘されています。ここでは、アクティブラーニングにおいて課題とされている3つの点をご紹介します。
手法の選定や指導が難しい
ここまでにご紹介したとおり、アクティブラーニングにはさまざまな手法がありますが、どの手法を選択し、授業のどこに取り入れるのかが課題の一つとなります。また、能動的な態度を育む意味合いが強いため、評価が難しいということも課題とされています。こうした課題に対処するために、教員間で経験やノウハウを共有することが重要です。
効果が教員のスキルに依存する
アクティブラーニングによる効果が、ファシリテーション能力といった教員のスキルに大きく依存することも、アクティブラーニングの課題だといわれています。児童生徒間の意見交流が活発に行えるよう促したり、また人前で話すことに苦手意識を持つ児童生徒を適切にフォローする配慮も求められます。
授業の進行に時間がかかる
アクティブラーニングを実施する際は授業の進行に時間がかかる傾向があり、時間内に目標を達成することが難しいことも課題として挙げられます。授業計画を検討する際に余剰分の時間を見積もる必要があります。また、タブレット端末などのICT機器を活用することで授業進行の効率化を図り、時間を節約することも大切になります。
アクティブラーニング成功のポイントは
教員と児童生徒の学び合い
教員と
アクティブラーニングは、児童生徒の能動的な学習参加を促進させる教授・学習法であり、多様な手法を通じて能動的な学びを実現させることが可能です。しかし、実践するには適切な手法の選定や教員の指導力向上などが求められます。アクティブラーニングの成功のポイントは、教員が児童生徒の力を信じ、児童生徒が主体的・対話的で深い学びを実践できるようサポートしていくことです。そのためにICTが役立ちます。
アクティブラーニングの実践に役立つ
「SKYMENU Cloud」
「SKYMENU Cloud」
GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台のPC端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」と多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。充実したアクティブラーニングの実践のために、ぜひ「SKYMENU Cloud」の導入をご検討ください。