学校生活での学びと、社会生活で求められる知識が結びつかず、学習に対するモチベーションが上がらない子どもは少なくありません。こうした問題に対する一つの答えとして、学習過程で思考力や応用力が身につき、能動的に問題を解決する喜びを知ることにより学習意欲を高める学習法として「発見学習」があります。この記事では、アクティブラーニングの手法の一つとして注目される発見学習について、メリットや課題、実践事例などを紹介します。
発見学習とは、学問の構造を学習者に発見させ、学習の仕方や能力を伸ばす学習方法のこと
発見学習とは、教育心理学者であるジェローム・シーモア・ブルーナーが著書「教育の過程」でまとめた学習法で、学問の本質となる「構造」を、学習者が自ら「発見」し、仮説を立てて事実を検証するなかで、学習の方法や学習する力を伸ばしていく考え方のことをいいます。
発見学習誕生の背景には、1957年に起きたいわゆる「スプートニク・ショック」が大きく影響しています。この年、ソ連が世界初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功したことで、冷戦中の西側諸国に大きな衝撃を与えました。これにより、威信を傷つけられたアメリカは、科学技術競争における国民の知的教育の遅れを指摘し、科学技術面での教育水準の引き上げをブルーナーに命じました。このような背景を経て生まれたのが発見学習です。ブルーナーが提唱した発見学習と並ぶ学習方法として、「問題解決学習」「有意味受容学習」「完全習得学習」があります。まず、それぞれの概要を確認します。
問題解決学習:学習者自らが仮説を立てて問題解決を行う学習方法
問題解決学習は、アメリカの教育学者のジョン・デューイが提唱した学習方法です。教員が示したテーマに対して、学習者自身が課題や問題を見つけ、解決に向けて仮説を立てて調査するなかで問題解決能力を高めます。
有意味受容学習:事前に与えられた情報に紐づけながら学びを習得する学習方法
有意味受容学習は、アメリカの心理学者であるデイヴィッド・オーズベルによって提唱された学習方法です。事前に、これから学ぶ内容の「ヒント」や、これからの学習の「核となる見方」などの情報を学習者に与え、その情報に基づいて学習します。学習者は、すでに知っている情報と関連づけることで、情報を意味のあるものとして記憶しやすくなります。
完全習得学習:学習者の適性に合った課題を提示し、一定以上の学力をめざす学習方法
完全習得学習は、アメリカの教育学者ベンジャミン・ブルームが提唱した学習方法です。完全習得学習において、評価は指導の方法を決めるための手掛かりであり、指導と評価は一体的なものとされています。診断的評価、形成的評価、総括的評価の3つの評価を基に個人に合った学習方法を示すことによって、全体で一定水準以上の学力の習得をめざします。
発見学習と問題解決学習の違い
発見学習は、事実を発見する過程から学習者に体験させる手法です。例えば、「Aが成立するかどうかは、Bの有無で決まる」とする構造があった場合、「BがあればAが成立する」と学習者に教えるのではなく、Bについての知識を与えて「Bがあると何が起きるか」という問いを教員が立てます。その問いに対して、学習者が発見した事実に対する仮説を立て、論理的思考で検証しながら結論に至る法則や概念を発見します。この発見が、学習者自身の知識や思考力を高めてくれるとされています。
問題解決学習も、教員が示したテーマから学習者自身が問題を発見してその解決過程を経験しますが、見つけるのが事実ではなく問題であり、思考力ではなく問題解決能力を身につけることが目的である点に違いがあります。
発見学習のメリット
発見学習では、学習者が主体的かつ能動的に活動して学習し、成功体験を積んでいくため、興味・関心の喚起によって問題解決のために必要な学び方と知識の習得が可能です。繰り返し行うことで、よりスムーズに学べるようになることもメリットの一つです。具体的には、次のようなメリットが期待できるとされています。
発見学習に期待される主なメリット
- 学習内容の習得はもちろん、思考力も育まれる
- 学習したことを生かした応用力、活用力が身につく
- 能動的に問題を解決し、課題をクリアしていく喜びを得て、学習意欲が高まる
- 受動的な学習で獲得した知識に比べて定着しやすく、利用できる範囲や場面が多い
発見学習の課題
発見学習は、教科の内容に基づく「教科中心カリキュラム」ではなく、学習者の興味・関心のみに沿った「経験主義カリキュラム」でもありません。それぞれの学問の論理を中心とした「学問中心カリキュラム」とされています。学習者主導で進んでいくため、事実の発見、仮説の設定、仮説の検証という重要なプログラムを学習者に任せることになります。そのため、次のような課題があると考えられています。
発見学習で想定される課題
- 獲得した知識から仮説を設定するため、ベースとなる知見がない学習者に対しては授業が成立しない場合がある
- 学習者にある程度の仮説設定能力と仮説検証能力がないと、授業の成果が上がりにくい
- 仮説の検証からどのような知識を取得するかが学習者に委ねられるため、必ずしも教える側の意図に沿った結果になるわけではない
- 仮説を立てるまでに時間がかかる可能性がある
- 仮説や検証の精度が低いと、想定していた成果が得られない可能性がある
発見学習の効果を高めるために、教員が実施すべき工夫
発見学習の効果を高める授業を行うために、教員にはどのような工夫が必要なのでしょうか。発見学習を取り入れた授業を行う際には、次のようなことを意識することが大切だといわれています。
発見学習における教員の工夫
- 学習者の自発的な疑問を引き出し、意欲を持って仮説の設定に取り組めるよう、学習内容に興味を持たせる
- 発見学習を成立させるために必要な一定の知識を持たせるため、学習する内容に基づいてテーマを設定する
- 発見学習における検証および発展の過程で、ほかの仮説や疑問が浮かぶよう別のテーマを設定し、新たな発見学習への連続性を高める
- 振り返りの際、学習の達成感から得た気づきや、発見学習を経て浮かんだ新たな疑問を文章に落とし込み、次の発見学習への発展につなげ、知識を得ることや問題を解決することに前向きな気持ちを持たせる
発見学習の授業を計画する際の流れ
発見学習で成果を上げるには、課題やテーマの設定の方法、振り返りにおける新たな発見学習への連続性の持たせ方、学習者が習得しきれなかった知識の補い方などが問われます。よって、発見学習の授業計画は、綿密に立てる必要があります。一般的には次の4ステップとなります。
1. テーマの決定
最初にテーマを設定します。テーマの設定は、発見学習を成功させるための最も重要なポイントといっても過言ではありません。これまでに学習した単元を基礎知識として活用できるテーマを選ぶと、学習者の発見をスムーズに促せます。このとき、学習者が疑問として挙げそうな内容を、ある程度推測しておくことも大切です。
2. 発見学習に割ける時間を確認
次に、割り当てられている授業時間のうち、何コマを発見学習に使えるのかを考えます。使えるコマ数によって、「課題を発見する」「課題に対して自分なりの仮説を立てる」「立てた仮説を検証する」「仮説の検証をさらに深掘りし、調査する」「発見学習を振り返る」という、各工程に割り振れる時間を予測して授業計画を立てます。また、グループで発見学習を行う場合は、活発に意見交換ができそうなグループ編成をあらかじめ考えておくことがお勧めです。
3. 下準備を行う
問題解決のための検証方法は、設定したテーマや発見された課題によって変わってきます。学習者が発見しそうな課題を想定し、その検証に使う可能性が高い実験場所や必要備品を確保しておきます。例えば、実験ができる教室や使用する備品を準備しておく、書物を使って調べ学習をするなら図書室が利用できるようにするといったことです。学校外での検証が必要になりそうな場合や、社会科見学などの校外学習に関連づけた検証が行えそうな場合は、利用したい外部施設にあらかじめ使用許可を取ることも必要になります。
4. 振り返りを行う
授業後の振り返りも、授業計画の一部です。準備の段階で振り返りシートを用意し、振り返りの時間に記入させることで、学習効果がさらに高まります。発見学習に対する感想や思いだけでなく「検証や調査によって新たに気づいたこと」「学習後に新しく生まれた疑問や課題」「ほかの生徒の仮説を聞いて気づいたこと」などをまとめられる振り返りシートにすることが大切です。
発見学習の教科別の授業例
発見学習の授業は、具体的にどのように行われているのでしょうか。ここからは、国語、算数・数学、英語、理科、社会の教科別に、発見学習の実践例を紹介します。
国語での実践例
国語の授業で「物語を読む」というテーマで発見学習を実践する場合の一般的な流れを紹介します。
1. 課題を見つけ、設定する
課題を設定するために、児童生徒が自由に疑問や発見を出し合うよう促します。例えば、次のような疑問が出ることが想定できます。
考えられる課題の例
- 作者は、なぜこのような題材で物語を書こうと思ったのか
- どうしてこのようなタイトルをつけたのか
- このセリフにはどのような意味があるか
- 登場人物の発言や行動の理由は何か
- 作者は物語全体を通して、何を読者に伝えようとしているのか
2. 問題解決・検証を行う
次に、グループごとに課題に対する発見を出し合って検証します。結論が出たら、検証のなかでの気づきや、結論の根拠をまとめ、グループごとに発表します。
3. 振り返りをする
児童生徒1人ひとりが、発見学習の振り返りを行います。自分の発表に対して寄せられた意見や反応に対する感想、友達の意見に対する感想、授業や発表を聞くなかで得られた発見などを振り返り、シートにまとめます。
算数・数学での実践例
算数・数学での実践の例として、中学1年「確率」の授業で発見学習を実践する場合の例を紹介します。
1. 課題を見つける
生徒に教科書や問題集の中から今回の発見学習で取り組む確率の問題を決め、既習の方法を用いて解くように指示します。問題が解けたら、問題の条件を変えて次のように問いかけます。
生徒への問いかけの例
- 条件を変えた場合、確率は変わるか
- 確率を変えるには、どのような条件にすれば良いか
2. 課題を設定する
発見した課題の中から、取り組む課題を設定します。テーマとなる問題の検証に役立つ備品を用意しておき、「物を使って考える」「計算をする」といった検証方法ごとにグループを分けて検証を行います。
3. 課題の解決に向け検証をする
物を使うグループには備品を配り、問題の検証を進めます。
4. 発見を発表し合う
グループごとに、検証の結果と発見を発表します。
5. 振り返りをする
感想や気づきをまとめます。確率を高めるにはどんな条件が適しているかなど、発見学習の成果を生徒が実感できるような振り返りをすると、より効果的です。
英語での実践例
英語の授業では、児童生徒の学年や習熟度に応じた英文を読ませて、その内容から課題を見つけて問題解決を図ります。多様な意見が出やすい小説や、環境問題などに関する文章がお勧めです。
1. 英文から疑問を発見させる
最初に英文を読ませ、疑問や発見を出し合います。
考えられる課題の例
- なぜ、筆者はこのような考え方になったのか
- 日本との文化の違いがあるからなのか
- 自分の意見との違いはないか
2. 課題・仮説を設定する
見つけた発見や疑問に対して、仮説を立てます。
3. 問題解決と検証をする
設定した仮説を検証するために調査します。調査の過程や結果から得られた発見や自分の意見、気づきなどを日本語または英語でまとめます。まとめるときの言語は、習熟度などを考慮してあらかじめ決めておくことが大切です。
4. 発表する
課題と仮説、仮説から導かれた意見や気づきを発表します。発表する際の言語もまとめるときと同様に、あらかじめ決めておきます。
5. 振り返りをする
検証やほかの児童生徒の発表から新たに知った事実に対する発見などをまとめます。
理科での実践例
理科の授業の場合は、既習の内容と深く関わるテーマを設定することが大切です。この例では、環境問題をテーマとして発見学習を行う場合の流れを例に紹介します。
1. 課題を見つける
児童生徒に既習の単元と結びつきが深い環境問題を提示し、「どうしてこのような結果になったと思うか」「この数値はどうして算出されたのか」といった問いかけをします。
2. 仮説を立てる
問いかけに対して、環境問題の原因として考えられることや数値の根拠になりそうなことを、できるだけ多く挙げさせます。挙げられた要因の中から今回の発見学習で検証するものを決定し、仮説を立てます。
3. 問題解決・検証
仮説を実証するため、調査や実験を行い検証します。その結果を数値や意見の根拠として示せるように調査の記録やデータを残しておくことが大切です。
4. 発表
仮説に対して検証によって得られた結果を発表します。検証の過程での気づきや発見があれば、周囲に向けて問いかけるよう促します。
5. 振り返りをする
学習の感想や発見について、振り返りシートなどを使ってまとめます。
社会での実践例
社会の授業では、地域をテーマにした発見学習が考えられます。児童生徒が住む市区町村などを客観的に分析して仮説を立てた上で、地域の調査・検証を行います。この例での主な流れは次のとおりです。
1. 課題を見つけ、設定する
まず、自分たちが住んでいる地域を客観的に見直し、特徴と疑問を探します。その後、見つけた疑問の中から、調査の課題を設定します。
考えられる課題の例
- なぜ、過疎化が進んでいるのか
- 特産物があるのはなぜか
- 地域の建造物には、どのような歴史があるのか
2. 仮説を立てる
複数挙げた課題の中から児童生徒自身が最も興味があるものを選び、仮説を立てさせます。
3. 調査・検証をする
仮説について調査します。社会では校外学習を設定したり、社会科見学や遠足の機会を利用したりして検証する方法もあります。
4. 発表する
調査した内容と結論をまとめて発表します。
5. 振り返りをする
調査結果に対する考えや、友達の発表を通じて得た発見をまとめます。
アクティブラーニングの実践に、発見学習を活用しよう
コマ数や準備時間の関係もあり、発見学習は簡単に取り組める学習法ではありません。そのため、発見学習を取り入れるには学校全体での調整や入念な準備が必要です。しかし、学習指導要領が求める「主体的・対話的で深い学び」の視点に立った授業改善のために、児童生徒が主体的・能動的に学習に取り組むアクティブラーニングが重要だといわれています。その意味で、アクティブラーニングの一つである発見学習を取り入れることは、児童生徒の学習意欲の向上につながり、高い学習効果が期待できます。
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