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教育におけるウェルビーイングとは? 注目される背景や現状を解説

著者:Sky株式会社

教育におけるウェルビーイングとは? 注目される背景や現状を解説

1946年にWHO(世界保健機関)が設立された際に登場した「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉は、2015年の国連サミットで採択されたSDGsにより再び注目を集めました。社会の多様化が進み、子どもたちが抱える厳しさや困難が変化するなか、教育においてもウェルビーイングを実現しようとする機運が高まっています。この記事では、ウェルビーイングが新たなコンセプトとして掲げられた「教育振興基本計画 」(第4期)などを参考に、ウェルビーイングが注目されている背景や日本における現状、教育との関係などについて解説します。

ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良い状態のこと

ウェルビーイング(Well-being)とは、身体的・精神的・社会的に良い状態にあることをいい、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義など、将来にわたる持続的な幸福を含む概念です。多様な個人がそれぞれの幸せや生きがいを感じるとともに、個人を取り巻く環境や地域、社会が幸せや豊かさを感じられる良い状態にあることも含みます。「ハピネス(Happiness)」と混同されがちですが、ハピネスがより短期的で個人的な状況評価・感情状態であるのに対して、ウェルビーイングはより包括的で、個人のみならず個人を取り巻く環境が持続的に良い状態にあることを指しています。

文部科学省が2023年に策定した教育に関する総合計画「教育振興基本計画(第4期)」では、将来の予測が困難な「VUCA(ブーカ)」の時代であること、少子化・人口減少・高齢化の進展、地球規模の課題などを背景として、「持続可能な社会の創り手の育成」とともに、「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」を基本コンセプトに掲げました。

世界的にウェルビーイングが注目される背景

ウェルビーイングが世界的に注目される背景には、経済的な豊かさのみならず、精神的な豊かさや健康までを含めて、幸福や生きがいを捉える考え方が広がってきたことがあります。OECD(経済協力開発機構)の「ラーニング・コンパス2030(学びの羅針盤)2030」では、個人と社会のウェルビーイングは「私たちの望む未来(Future We Want)」であり、社会のウェルビーイングは共通の「目的地」であると公表しました。

こうした流れには、少子化や人口減少、グローバル化の進展、地球規模の課題、格差の固定化と再生産など、さまざまな社会課題の存在が関係しています。直近では、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って、不登校となった児童生徒の増加、自殺率の悪化などもあり、子どもたち一人ひとりのウェルビーイングの大切さが家庭や地域、社会に広がりつつあります。その広がりが多様な個人を支え、将来にわたって世代を超えて循環していくという姿の実現が求められているのです。

文化の違いで異なるウェルビーイングの

ウェルビーイングの捉え方は、国や地域の文化的・社会的背景によって異なるものであり、一人ひとりの置かれた状況によっても多様なウェルビーイングの形があります。ウェルビーイングの国際的な比較調査では、自尊感情や自己効力感が高いことが人生の幸福につながることが強調されています。これは、個人が目標を達成したり評価を獲得したりする能力や状態を重視する、欧米の文化的な価値観が反映されたものです。しかし、同調査によると、日本を含むアジアの文化圏の子どもや大人は、ウェルビーイングのスコアが低い傾向があります。

この結果を踏まえ、日本の教育を通して自己肯定感や自己実現などの「獲得的な要素」と、人とのつながりや利他性、社会貢献意識などの「協調的な要素」を調和的・一体的に育み、日本社会に根差した「調和と協調」に基づくウェルビーイングを向上させていくことが求められています。また、このような「調和と協調(Balance and Harmony)」に基づくウェルビーイングの考え方を、日本の特徴や良さを生かすものとして、国際的に発信していくことも重要だとされています。

日本におけるウェルビーイングの現状

現在、日本のウェルビーイングは向上傾向にあります。「PISA2022(OECD生徒の学習到達度調査)」では、「自分が学校の一員だと感じる」「他の生徒たちが自分をよく思っている」といった質問に対する答えに注目し、「教育におけるウェルビーイング」を測っています。2022年の調査では、前述の質問に「まったくその通りだ」「その通りだ」と肯定的に答えた日本の生徒の割合は8割以上に上り、新型コロナウイルス感染症の流行以前の2018年に実施された前回の調査結果を上回っています。この4年間の伸び率は、OECD加盟国中で最高の結果でした。

また、教育現場でのウェルビーイングの実現を目指した取り組みも見られています。OECDが、福島大学や被災地の地方自治体と連携して実施した、子どもの復興への参画とグローバル人材育成を目的とした教育プログラム「OECD東北スクール」は、フランス・パリでのイベントで大成功を収め、後継プロジェクト「地方創生イノベーションスクール2030」へと引き継がれました。

教育とウェルビーイングの関係

不登校やいじめ、貧困など、新型コロナウイルス感染症の影響や社会構造の変化を背景に、子どもたちの抱える問題が多様化・複雑化するなかで、一人ひとりのウェルビーイングの確保は重要な課題です。ここでは、教育に関連するウェルビーイングの要素や、その各要素を育む教育活動の例をご紹介します。

教育に関するウェルビーイングの要素

学校は、人とのつながりや目標の達成などから得られる自己肯定感を基盤として、主体性や創造力を育み、持続可能な社会の創り手を育成する必要があります。「教育振興基本計画」(第4期)では、教育に関連するウェルビーイングの要素として、次のようなものを挙げています。

教育に関連するウェルビーイングの要素

  • 自己肯定感
  • 心身の健康
  • 幸福感(現在と将来 / 自分と周りの他者)
  • 協働性
  • 社会貢献意識
  • 学校や地域でのつながり
  • 自己実現(達成感 / キャリア意識 等)
  • 安全安心な環境
  • 多様性への理解
  • 利他性
  • サポートを受けられる環境

ウェルビーイングの要素を育む教育活動の

では、前述したウェルビーイングの要素は、どのように育まれるのでしょうか。ここでは、ウェルビーイングの要素を育む教育活動の例をご紹介します。

個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実

児童生徒たちそれぞれの学習進度に応じた学習者主体の学びや、多様な他者との協働的な学びを通して「協働性」や「社会貢献意識」「利他性」などを身につけます。また、きめ細やかな指導を通じて確かな学力を育成することもウェルビーイングの向上につながります。

多様な教育ニーズへの対応と社会的包摂による共生社会の実現に向けた学び・生徒指導

障害や不登校、日本語能力、特異な才能、複合的な困難等の多様なニーズを有する子どもたちに対応するため、社会的包摂の観点から個別最適な学びの機会を確保することが求められています。また、すべての子どもたちがそれぞれの多様性を認め合い、互いに高め合う協働的な学びの機会も確保し、一人ひとりの能力や可能性を最大限に伸ばすことで、ウェルビーイングの向上を図ります。

地域や家庭で共に学び合う環境整備

コミュニティ・スクールと地域学校協働活動の一体的推進や、社会教育を通じた地域コミュニティ形成もウェルビーイングの向上につながる教育活動として挙げられています。探究活動やキャリア教育などを通じて地域や産業界のなどの声を聞くとともに、教育実践への協力を得ていくことが大切であり、学校と地域住民が連携・協働することで、学びの場を地域社会に広げ、次世代の社会の担い手としての成長を支えていくことが求められています。

キャリア教育・職業教育、課題解決型学習

幼児教育から高等教育まで、各学校段階を通じた体系的・系統的なキャリア教育の実現や、職業教育を通した自立も、ウェルビーイングの向上につながります。キャリア教育とは、小学校から高等学校までの成長を自己評価できるポートフォリオである「キャリア・パスポート」などを活用し、児童生徒自身で学習と将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を育成する教育です。キャリア教育は、自分らしい生き方を実現していくキャリア発達を促進するために役立ちます。自身で見通しを立てて将来を計画することを通して、ウェルビーイングの向上を図ります。

教員や学校、地域におけるウェルビーイングの重要性

「教育振興基本計画」には「子供たちのウェルビーイングを高めるためには、教師のウェルビーイングを確保することが必要であり、学校が教師のウェルビーイングを高める場となることが重要である」と明記されています。そのためには、子どもたちの成長を実感できたり、保護者や地域との信頼関係が築かれていたりという、職場自体に心理的安全性が保たれ、労働環境が良い状態であることが求められるとされています。こうした考え方が学びの環境を良い状態に保ち、学習者のウェルビーイングを向上させる基盤となり、結果として家庭や地域のウェルビーイングにもつながります。

ウェルビーイングが実現される社会は、子どもから大人まで一人ひとりが社会の担い手となって創り上げていくものです。個々人のウェルビーイングが高まり、その集合としてコミュニティや地域のウェルビーイングの向上につながり、社会全体に広がっていきます。子どもたち一人ひとりが幸福や生きがいを感じられる学びを、保護者や地域の人々と共に作っていくことで、学校に関わる人々のウェルビーイングが高まり、その広がりが子どもや地域を支えて、世代を超えて循環していくという在り方が求められています。

子どもたちのウェルビーイングを高めるために必要なこと

これまで、日本の教育では、知識・技能を習得して正確に再現する力が重視される傾向がありました。工業が中心産業であった時代において求められていたのがそうした資質・能力であり、現時点で必要とされる知識を詰め込み、難関校の入試を突破すれば、幸せな未来につながると考えられてきた側面は否めません。しかし、VUCAの時代ともいわれる現代において、「現時点で必要とされる力」を習得することだけで豊かな将来につながるとは限りません。

すでに、グローバル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)は労働市場に大きな変化をもたらしており、これからの時代に必要とされる能力も変化しています。従来、重んじられてきた知識や技能は、AIやロボットによる代替が進むことも予想されています。AIやロボットによる代替が困難である、新しいものを創り出す創造力や、他者と協働しチームで問題を解決するといった能力が、今後一層求められることが予測され、こうした変化に教育が対応していかなければなりません。

これから求められる力は、興味があることや好きなことに夢中になる経験を通じて獲得されることが多いといわれます。学校における教育観の転換と同時に、家庭でも子どもたちが興味ある分野で思い切りチャレンジできるように支援することで、子どもたちは試行錯誤しながらやりきって現在のウェルビーイングを高め、将来のウェルビーイングに結びつく力を習得していきます。

不確かな将来を生き抜くための羅針盤になるウェルビーイング

不登校やいじめ、貧困といった多様な問題が子どもたちを取り巻く現代。さらに将来の予測が困難なVUCAの時代において、一人ひとりのウェルビーイングに着目した教育が果たす役割は大きいといえます。学校と家庭は、子どもの「今」だけでなく「未来」に目を向け、自己肯定感や自己実現などの獲得的な要素と、人とのつながりや利他性、社会貢献意識などの協調的な要素を育むことが求められています。子どもたちのウェルビーイングを高めるには、教員をはじめとする学校全体はもちろん、地域のウェルビーイングも欠かせません。新たな価値観で日本社会に根差したウェルビーイングの向上に取り組むことが大切です。

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