
学校に働き方改革が求められる理由とは? 実現に向けた取り組みを紹介

文部科学省が行った「教員勤務実態調査(平成28年度)」では、看過できない教員の勤務実態が明らかになりました。こうした状況を背景に、中央教育審議会においても2019年に「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」を答申。学校における働き方改革に継続的に取り組んできました。この記事では、働き方改革が求められる理由や実現に向けた取り組み例を紹介します。
文部科学省が取り組む学校における働き方改革とは
文部科学省の「学校における働き方改革について」では、「教師のこれまでの働き方を見直し、自らの授業を磨くとともに、その人間性や創造性を高め、子供たちに対して効果的な教育活動を行うことができるようにすること」を目的に働き方改革を進めていると説明されています。
その背景として、2018年に公表された「教員勤務実態調査(平成28年度)(以下、平成28年度調査)」の結果から「看過できない教師の勤務実態」が明らかになったことを挙げています。その後、2019年には「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を策定するなど、学校における働き方改革に取り組んできました。
学校で働き方改革が必要とされる理由とは
長年、教員の長時間勤務が課題となっており、授業改善に取り組む時間や子どもと向き合う時間を確保し、教員一人ひとりが力を発揮できる環境を整えていく必要があるとされてきました。ここでは、学校で働き方改革が求められる主な理由を3点紹介します。
学校に求められる役割が拡大し、労働時間が増加傾向にある
前述の平成28年度調査では、前回の調査(以下、平成18年度調査)と比較して、平日・土日ともにいずれの職種でも勤務時間が増加していることが指摘されています。例えば、小学校教諭では1週間の学内勤務時間が4時間13分増加、中学校教諭では5時間14分も増加しています。この学内勤務時間には持ち帰り業務に充てた時間は含まれていません。こうした教員の長時間勤務が常態化している理由として、学校を取り巻く環境が複雑化・多様化しており、学校に求められる役割が拡大していることなどが挙げられます。
なお、2024年に公表された「教員勤務実態調査(令和4年度)(以下、令和4年度調査)」の結果では、すべての職種において在校等時間(学内勤務時間)が減少に転じており、働き方改革の効果が現れ始めているといえます。
時間外労働が月80時間を超える職員が多数いる
「給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」では、教員の給与や労働条件が定められており、給料月額4%の教職調整額を支給する代わりに、時間外・休日勤務手当を支給しないという特殊なルールがあります。しかし、これは「いくらでも働かせてよい」ということではありません。当然ですが、教員に対しても労働基準法が適用されます。
労働基準法では、労働時間を週40時間・1日8時間と制限しており、この時間を超える場合が時間外労働に当たります。それを踏まえて、教諭(主幹教諭・指導教諭含む)の「1週間の総在校等時間数の分布」(下図)から、平成28年度調査の結果を見ると、小学校では55~60時間未満、中学校では60~65時間未満が最も多くなっています。一般的に1か月の時間外労働80時間が「過労死ライン」だとされていることを考えると、多くの教員が週20時間以上の時間外労働をしており、このラインを超える可能性が高いことがわかります。
この点も令和4年度調査では改善されており、週60時間以上勤務している教員の割合は、小学校では33.4%が14.2%に中学校では57.7%が36.5%に減少しています。しかし、依然として高水準であることは確かであり、今後も継続した働き方改革が求められています。
1週間の総在校等時間の分布 教諭
出典:文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)の集計(確定値)について」
常態化している教員不足が加速すると懸念されている
公立学校における教員不足は常態化しており、2022年に公表された「『教師不足』に関する実態調査」では、2021年始業日時点の小・中学校における教員不足人数は、2,086名に上るとされています。また、小学校において学級担任がいないという状況を避けるため、本来担任ではない職務の教員が学級担任を代替しているケースも474件あります。こうした教員不足の原因は、産休・育休を取得する教員の増加や特別支援学級の増加など多岐にわたりますが、前述のような教員の長時間勤務の現状から「なり手不足」の状態が続いていることも大きな要因となっています。この状況を改善するためにも、学校における働き方改革が強く求められています。
教員の労働時間が増えている要因
平成28年度調査では、教員の属性や勤務環境、学校の取り組みなど、さまざまな角度から回帰分析を行い、教諭の勤務時間に影響を及ぼす要因を探っています。さらに「平成18年度の勤務実態調査に比べて学内勤務時間が増加した理由」を3点示しています。
若年教員の増加
教員の属性、勤務環境、校務分掌などに基づき、個人単位で勤務時間に影響を及ぼす要因を分析しています。この結果、小・中学校ともに「年齢が若い」「担任学級児童生徒数が多い」「6歳児未満の子供がいない」などの場合、勤務時間が長い傾向あることがわかっており、特に「年齢」が勤務時間に与える影響が最も大きいとされています。
これを踏まえて、教諭の年齢分布を平成18年度と平成28年度で比較したのが下のグラフです。小・中学校ともにベテランとされる41~50歳の割合が少なくなり、30歳以下の若年教員の比率が増えているため、勤務時間が長くなっていると考えられています。ただし、グラフを見てもわかるように、各年代のバランスが整った結果だと捉えることもできます。
若年教員の増加
出典:文部科学省「教員勤務実態調査(平成28年度)の分析結果及び確定値の公表について(概要)」
総授業時数の増加
平成18年度調査の時点から、平成28年度調査に至る期間に学習指導要領の改訂が行われました。この改訂によって標準授業時数が、小学校では、1.3コマ(58.5分) / 週、中学校では1コマ(50分) / 週増加しています。平成28年度調査を見ると、「授業」や「授業準備」「学習指導」など授業に係る勤務時間が増加しており、平日1日あたり小学校42分、中学校47分ずつ増えています。令和4年調査でもこれらの業務は微増しており、大きな変化はありませんが、「学校行事」や「生徒指導(集団)」など授業以外の時間が減少しています。
中学校における部活動時間の増加
小学校よりも中学校の教員の方が、勤務時間が長い傾向があります。これは、中学校の教員は部活動に充てる時間が多いことが少なからず影響しています。平成28年度調査では、中学校教諭が土日に部活動の指導や対外試合の引率などに費やしているに時間は、前回調査の1時間6分 / 週の約倍となる2時間9分 / 週に増加しています。令和4年度調査では1時間29分に改善されているものの、まだ以前に比べ部活動の負担が大きいことがわかります。
学校における働き方改革の取り組み例
これまでご紹介したとおり文部科学省は、学校における働き方改革を継続的に推し進めており、働き方改革の実現に向けてさまざまな取り組みを行っています。「学校における働き方改革について」では、毎年の取り組み状況の調査報告を公開しています。ここでは、「全国の学校における働き方改革事例集(令和5年3月改訂版)(以下、働き方改革事例集)」から、ICTを活用した働き方改革の取り組みを一部抜粋してご紹介します。
教職員間の情報共有における課題をICTで解決へ(福岡県久留米市立篠山小学校)
篠山小学校は、以前から学習から校務まで幅広くICT化を進めてきたものの、教員の働き方改革におけるICT活用という面では職員室と各教室(担任)との情報共有が大きな課題になっていたそうです。以前は欠席連絡を電話で受けた際、その情報は各教室にあるインターフォンを通じて担任に伝えていました。それを同校で使用しているチャットツールを使うことで、インターフォンの応答のために発生してた学級指導の中断が大幅に減ったということです。そのほか、予定や行事の共有も手書きからICTに移行したことで、毎日の伝達事項を教員が持つ端末からいつでも確認できるようになったそうです。
参考:「全国の学校における働き方改革事例集(令和5年3月改訂版)」を基にSky株式会社にて要約
なお、『SKYMENU Cloud』の「電子連絡板」や「保護者連絡オプション」をご活用いただけば、学校内の情報共有や家庭との連携を、より手軽に効率化することができます。
「学びを止めないICT」から「働き方改革のICT」へ(岐阜県岐阜市立岐阜中央中学校)
岐阜中央中学校は、コロナ禍において「学びを止めない」ことに必死だった経験を経て、ICTを自分たちの働き方改革に使うことを考えたといいます。まず初めに取り組んだのが会議のペーパーレス化。「Microsoft Teams」を使ってお知らせを投稿したり、会議資料を共有したり、「Forms」でアンケートを実施するといった取り組みを行いました。会議で変更が決まった内容はその場で資料に反映するなど、時間を効率的に使えるようになったそうです。また、アンケートにICTを活用したことで集計作業が自動化できるほか、解答用紙をなくしてしまった生徒への対応など、二度手間が減ったことで大幅な効率化が図れたとのことです。
参考:「全国の学校における働き方改革事例集(令和5年3月改訂版)」を基にSky株式会社にて要約
そのほかの働き方改革の取り組み例は
文部科学省の働き方改革事例集のPart2には「実例で知る業務改善の具体的方法」と題して、さまざまな取り組み例が掲載されています。「働き方改革チェックシート」も掲載されており、学校の実情に合わせて働き方改革に取り組めるように工夫されています。一部の教職員に負担が偏っていること、執務に使える時間が少ないこと、支援スタッフの募集・活用など具体的な課題に即した取り組み方を紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
ICTを活用した学習活動を支援するSKYMENU Cloud
GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台の端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」や多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。