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Sky株式会社

公開日2024.10.18更新日2024.10.21

生徒指導提要の改訂ポイントとこれからの生徒指導について解説

著者:Sky株式会社

生徒指導提要の改訂ポイントとこれからの生徒指導について解説

文部科学省の有識者会議の議論などを基に、生徒指導の理論や考え方、実際の指導方法などを網羅的にまとめられ、2010年に策定された「生徒指導提要」は、2022年に12年ぶりに改訂されました。「いじめ防止対策推進法」の成立やGIGAスクール構想によるICT環境の大きな進展などを受け、さまざまな観点で改訂された生徒指導提要の内容について、改訂の背景やポイントを整理して紹介します。

生徒指導提要が12年ぶりに改訂、その背景は

「生徒指導提要」は2010年に初めて策定され、2022年12月に12年ぶりに改訂されました。その背景には「いじめ防止対策推進法」の成立やGIGAスクール構想など、生徒指導をめぐる状況が大きく変化していることがあります。そのため、生徒指導の基本的な考え方や取り組みの方向性を再整理するとともに、今日的な課題に対応していくために改訂されました。

生徒指導提要とは何か

学習指導要領において「生徒指導」は、どのように定義されているのでしょうか。「小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説(総則編)」には「生徒指導は,学校の教育目標を達成するために重要な機能の一つであり,一人一人の児童の人格を尊重し,個性の伸長を図りながら,社会的資質や行動力を高めるように指導,援助するものである」と示されています。

これを踏まえ、生徒指導提要は小学校から高等学校まで各学校段階における生徒指導の理論や考え方、実際の指導方法などを、文部科学省の有識者会議の議論などを経て網羅的にまとめられました。教職員間や学校間で、実践に際した共通理解を図ることによって組織的・体系的な取り組みができるように、生徒指導に関する学校・教職員向けの基本書と位置づけられています。

なお、最新の生徒指導提要(改訂版)は、PDF形式のデジタルテキストとして、文部科学省のWebサイトで公開されており、併せてデジタルテキストの活用ガイドも公開されています。

改訂の背景にある「いじめ防止対策推進法」と「GIGAスクール構想」

冒頭にご紹介したとおり生徒指導提要は、最初の策定以来12年ぶりに改訂されました。生徒指導提要(改訂版)の「まえがき」には改訂の背景が次のように説明されています。

近年、子供たちを取り巻く環境が大きく変化する中、いじめの重大事態や児童生徒の自殺者数の増加傾向が続いており、極めて憂慮すべき状況にあります。加えて、「いじめ防止対策推進法」や「義務教育の段階における普通教育に相当する機会の確保等に関する法律」の成立等関連法規や組織体制の在り方など、提要の作成時から生徒指導をめぐる状況は大きく変化してきています。

出典:文部科学省「生徒指導提要(改訂版)

今回の見直しの議論では「いじめ防止対策推進法」の成立と「GIGAスクール構想」や「令和の日本型学校教育」が強く意識されました。特に、いじめは児童生徒の生命に関わる重要な問題であり、以前から生徒指導提要の見直しが必要だと指摘されていました。また、2019年に提唱された「GIGAスクール構想」によって、1人1台端末をはじめとする学校におけるICT環境が大きく進展しました。生徒指導提要(改訂版)では、データを用いた生徒指導と学習指導との関連づけなど「今後ICTを活用した生徒指導を推進することが大切」と明記されています。

生徒指導提要改訂のポイント

300ページに及ぶ生徒指導提要(改訂版)ですが、今回の改訂ではどのような点に重きを置いて改訂されたのでしょうか。ここでは、いくつかのポイントを確認します。

生徒指導の定義の改訂

生徒指導提要(改訂版)には、「生徒指導の定義」と「生徒指導の目的」が次のように示されています。

生徒指導の定義
生徒指導とは、児童生徒が、社会の中で自分らしく生きることができる存在へと、自発的・主体的に成長や発達する過程を支える教育活動のことである。なお、生徒指導上の課題に対応するために、必要に応じて指導や援助を行う。

生徒指導の目的
生徒指導は、児童生徒一人一人の個性の発見とよさや可能性の伸長と社会的資質・能力の発達を支えると同時に、自己の幸福追求と社会に受け入れられる自己実現を支えることを目的とする。

出典:文部科学省「生徒指導提要(改訂版)

改訂以前の生徒指導提要では、生徒指導を「一人一人の児童生徒の人格を尊重し、個性の伸長を図りながら、社会的資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動」と定義していました。それに比べ今回の改訂では、児童生徒の自主性をより重んじていることがわかります。さらに「自発的・主体的に成長や発達する過程を支える」という表現によって、教職員の役割についても見直されているのが特徴です。

子どもの権利に関する原則、理念を明記

生徒指導提要(改訂版)では、生徒指導の取り組みにおける第一の留意点として、1989年の第44回国連総会で採択された「児童の権利に関する条約」に関する理解が挙げられています。特に、次の4つの一般原則を理解しておくことが不可欠だと明記されています。

  • 児童生徒に対するいかなる差別もしないこと(差別の禁止)
  • 児童生徒にとって最もよいことを第一に考えること(子どもの最善の利益)
  • 児童生徒の命や生存、発達が保証されること(生命、生存及び発達に対する権利)
  • 児童生徒は自由に自分の意見を表明する権利をもっていること(子どもの意見の尊重)

日本は1994年に、「児童の権利に関する条約」に批准しています。しかし、当時の日本には「児童福祉法」や「教育基本法」など子どもに関わる個別の法律はあるものの、子どもの権利を保障する総合的な法律が存在していませんでした。そこで2022年に成立したのが「こども基本法」であり、同法の施行に合わせて2023年4月に発足したのが「こども家庭庁」です。生徒指導提要(改訂版)にも「こども基本法」の基本理念がまとめられており、生徒指導の取り組みにおいては、それらを理解しておくことが必要だとしています。

ICTを活用した生徒指導の推進

生徒指導の取り組みにおける第二の留意点として挙げられたのが「ICTの活用」です。GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台端末や高速大容量の校内ネットワークが整備されたことにより、学校におけるICT環境は大きく進展しました。生徒指導提要(改訂版)では、生徒指導にICTを活用することで次のような教育効果が期待されるとしています。

1:データを用いた生徒指導と学習指導との関連づけ

児童生徒の孤独感や閉塞感の背景には、勉強がわからない、授業がつまらないといった学習上のつまずきや悩みがある場合が少なくありません。わかりやすい授業や全員参加の授業が、児童生徒の自己肯定感や自己有用感を高めます。ICTを活用することで、学習指導と生徒指導の相互作用を、データから省察することが求められています。

2:悩みや不安を抱える児童生徒の早期発見・早期対応

ICTを活用することで、児童生徒の心身の状態の変化に気づきやすくなり、悩みや不安を抱える児童生徒の早期発見や早期対応の一助になることも期待されています。ただし、ICTによって得られる情報はあくまで状況把握のきっかけであり、支援の画一化が生じないように留意して適切に対応する体制を構築しておくことが求められています。

3:不登校児童生徒等への支援

学校に登校できない児童生徒に対する学習保障や生徒指導という観点から、ICTの活用は不登校児童生徒の多様な実情を踏まえ、個々の状況に応じた支援を実現する方法の一つだといえます。また、病気療養中の児童生徒についてはICTを活用した通信教育やオンライン教材などの活用によって教育機会の確保に努める必要があるとされています。

校則の運用と見直しについて明文化

生徒指導提要(改訂版)で、校則は「各学校が教育基本法等に沿って教育目標を実現していく過程において、児童生徒の発達段階や学校、地域の状況、時代の変化等を踏まえて、最終的には校長により制定されるもの」とし、さらに「学校教育において社会規範の遵守について適切な指導を行うことは重要であり、学校の教育目標に照らして定められる校則は、教育的意義を有するもの」とされています。その一方で、少数派の意見も尊重しながら、児童生徒の能力や自主性を伸ばすものになるように配慮することも必要だと明記されています。

いじめの未然防止・早期発見・対処

生徒指導提要の改訂の背景に「いじめ防止対策推進法」の成立があることは前述したとおりです。この法律が必要とされるほど、いじめに関する問題は深刻化しており、いじめ認知件数も年々増加しています。生徒指導提要(改訂版)では、第Ⅱ部に「個別の課題に対する生徒指導」がまとめられており、その最初の項目がいじめに関する内容です。

生徒指導提要(改訂版)は、同法第8条について「それまでは、いじめが起こった後の「対処」に焦点が当てられがちでしたが、「未然防止」→「早期発見」→「対処」という順序が明確に示されたと言えます」とし、それらの具体的な方策として、次の4点を詳細に解説しています。

同法で義務づけられた①いじめ防止基本方針の策定と②学校いじめ対策組織の設置。さらに、③生徒指導の4層の支援構造(発達支持的生徒指導、課題未然防止教育、課題早期発見対応、困難課題対応的生徒指導)について具体的に解説しています。それに加えて④関係機関などとの連携体制を敷くことで、学校だけで抱え込まずに、地域の力を借りて、医療、福祉、司法などの関係機関とつながることが重要だと明記されています。

性的マイノリティに関する課題と対応

生徒指導提要(改訂版)の第Ⅱ部「個別の課題に対する生徒指導」には、性的マイノリティに関する課題と対応についても新たに追記され、性同一性障害の児童生徒については「学校生活を送る上で特別の支援が必要な場合があることから、個別の事案に応じ、児童生徒の心情等に配慮した対応を行うことが求められています」と示されています。そのために、教職員の理解を深めることはもちろん、生徒指導の観点からも日頃の教育活動を通じて人権意識の醸成を図ることが大切だとされています。 その上で、学校に求められる具体的な対応として、①悩みや不安を抱える児童生徒に対する支援の土台として、いかなる理由でもいじめや差別を許さない適切な生徒指導・人権教育等を推進すること、②児童生徒が自身のことを秘匿したい場合があることを考慮しつつ、日頃から児童生徒が相談しやすい環境を整えていくこと、③最初に相談を受けた者だけが抱え込むのではなく、学校内外の連携に基づく「支援チーム」をつくり対応を進めていくこと、④ほかの児童生徒への配慮との均衡を取りながら支援を進めることを前提に、学校における支援の事例を示しています。

これからの生徒指導には「チーム学校」が求められる

中央教育審議会は2015年に「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」を答申しました。これを受け、生徒指導提要(改訂版)では「チーム学校による生徒指導体制」という章を立て、生徒指導についてもチームによる支援が重要であることを示しています。生徒指導提要(改訂版)では、中央教育審議会の答申の内容を紹介するかたちで、「チーム学校」が求められる背景について次のように説明しています。

  • 新しい時代に求められる資質・能力を育む教育課程を実現するための体制整備
  • 児童生徒の抱える複雑化・多様化した問題や課題を解決するための体制整備
  • 子供と向き合う時間の確保等(業務の適正化)のための体制整備

日本は諸外国に比べて、学校内の専門職として教員が占める割合が高いです。その利点は多くある一方で、児童生徒の抱える問題や課題が複雑化・多様化しているなかで、教員の専門性をもってすべての問題や課題に対応することが、必ずしも最善の結果につながるとはいえない状況になっています。そのため、さまざまな専門職や地域の方などの「思いやりのある大人」が、教員とともに学校内で連携・協働する体制をつくることが求められています。

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