学校教育における授業は、教員がすべての児童生徒に向けて同じことを同じペースで教える一斉授業が一般的です。一斉授業には、友達と一緒に学ぶことで学習意欲が高まるというメリットがある反面、「よく理解できないうちに次の単元に進んでしまった」「授業の進行ペースが遅いと感じる」といった悩みを抱えることもあります。そこで注目されているのが、1人ひとりの興味関心や学習の習熟度などを踏まえて授業を進める「自由進度学習」です。この記事では、自由進度学習が注目される背景や実践事例をご紹介します。
自由進度学習とは、児童生徒自身で学習計画を立てて学習を進める方法のこと
自由進度学習とは、児童生徒自身が学習計画を立て、学習ペースを自分で決めながら学習を進める方法のことです。自由進度学習は、中央教育審議会の2021年1月答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~すべての児童生徒たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」でも言及された「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現するための学習形態の一つとされています。
自由進度学習は、ある単元の中でのみで実施する場合もあれば、学年の垣根を越えて行われる場合もあり、実施の仕方はさまざまです。単元の中で行われる自由進度学習の多くは「単元内自由進度学習」と呼ばれ、1単元のみで行われる場合と、同一教科の複数単元や、複数教科の複数単元の組み合わせで行われる場合があります。
自由進度学習は学校全体の取り組みが必要
自由進度学習は、校内の一部だけで取り組んでも、期待するような成果にはつながりません。自由進度学習で成果を出すには、自由進度学習に適した教科や領域の検討、ほかの活動との連動、ICT利用を含めた環境整備が不可欠です。学校全体で取り組むことで、教員の児童生徒に対する理解が深まり、教材研究も充実することが期待できます。
自由進度学習に注目が集まる背景
近年、自由進度学習の注目度が高まっている背景には、学習指導要領に基づく教育課程の在り方が見直されたことがあります。2021年3月に文部科学省初等中等教育局教育課程課が公表した「学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料」には、学習指導要領に基づいた児童生徒の資質・能力の育成に向けて、ICT環境を最大限活用し、これまで以上に「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実し、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善につなげるとしています。併せて、授業改善を行う上で必要なカリキュラム・マネジメントの取り組みを進めるにあたり、留意すべきと考えられる内容もまとめられました。
2022年4月に組織された中央教育審議会の「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」で、あらためて個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させ、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善について言及され、その際にカリキュラム・マネジメントの取り組みを一層進める方法の一つとして「自由進度学習」が取り上げられました。
自由進度学習の実践事例
自由進度学習は学習指導要領が目指す学びを実現させるために有効な学習形態です。しかし、決して新しい学習形態というわけではありません。ここでは1970年代から取り組まれてきたで自由進度学習を含む、学習の個性化の事例を3つご紹介します。
愛知県東浦町立緒川小学校:はげみ学習、単元内自由進度学習、オープン・タイムの実施
1970~1990年代に実践された愛知県東浦町立緒川小学校の取り組みを紹介します。緒川小学校では、1978年の校舎改修の際、教室の壁を一部取り払ったオープンスペースを設置。これを契機に「指導の個別化」と「学習の個性化」を進めてきました。具体的に実施されていたのは、学級を基盤とした通常の集団学習のほか、「はげみ学習」「単元内自由進度学習」「オープン・タイム」の3つです。
はげみ学習
はげみ学習とは、すでに通常の一斉指導などで教わった内容についての定着度合いを個別に確認し、問題のある箇所に対して治療的な再学習を施すことにより、すべての児童に基礎的な学力を確実に身につけさせることを目的としたものです。「文字」「読書」「数と計算」「楽器演奏」「器械体操等」の学習領域で週に1回85分間のはげみ学習が行われました。なお、はげみ学習は2年生以上が参加対象で、学年を超えて全校体制で実施されていました。はげみ学習は無学年制で実施され、前の学年の内容に取り組む児童も出てきます。この点について、意欲や自尊心といった問題への懸念が問われることがありますが、一つひとつ身につけていけば着実に学力を自分のものにできるという経験は、むしろ学習が遅れている児童たちにこそ効果的であったとされています。
単元内自由進度学習
単元内自由進度学習は、概念形成や高次な思考を含む、より一般的な教科内容を個別化された学びとして実施するために考案されたものです。単元内自由進度学習の開始に際し、教員は単元のねらい、時数、標準的な学習の流れ、利用可能な学習材などを記した「学習の手引き」と呼ばれるカードを児童たちに配ります。児童たちはこの手引きによって学習の内容を理解し、設定された10時間程度の中で学習をどのように進めるかを児童自身が考え、複数教科を同時進行で行うための学習計画を立てます。単元内自由進度学習では、自身で時間配分を考えられるため、苦手な教科や学習内容に十分な時間をかけたり、好きな教科から取り掛かったりといった選択が可能です。また、異なる教科を先に学習した児童同士での自然な教え合いが生じ、個別的でありつつ協働的な学習としての特質も自然に発生しました。
オープン・タイム
オープン・タイムは、児童1人ひとりが自分の興味や関心に基づき、自由に学習内容を設定して探究する学習です。3年生以上の児童に対して、全校体制で毎週1回85分間実施されていました。オープン・タイムでは、1つのテーマを最低4回、つまり1か月程度連続して探究することが求められており、児童たちの計画力や自己評価能力の育成をねらう内容になっています。同校では、カリキュラムの最大4割程度を個別化された学び、6割程度は集団を基盤とした学びとしていました。個別化された学びの導入・展開では、集団での学びとのバランスや有機的な関連によって、より効果的な学校教育の実現を目指すことが重要といえます。
茨城県 緑桜学園 那珂市立芳野小学校: 児童同士で情報をリアルタイムに共有し、課題を追究
単元の第2次(全4時間)の学習計画を立て自ら進度を調整
ICTを活用した自由進度学習の事例として、茨城県 緑桜学園 那珂市立芳野小学校の実践を紹介します。この実践は自然災害に関する単元で、「わたしたちの生活を自然災害から守るために大切なことはどんなことだろうか」を単元を通した学習課題として設定。児童1人ひとりが予想を立てて、「災害が起こる理由」「起こりやすい地域」「避難対策」などの追究の視点を挙げます。その視点から各自が調べたい災害の種類を組み合わせて、「地震×災害が起こる理由」などの4つのテーマを決定。第2次(全4時間)の学習計画を立て、自ら進度を調整しながら追究していくというものです。
学習課題の解決に向けた「気づき」を共有して深い学びに
児童は教科書やインターネット検索を活用して、一人または友だちと学びを進め、自分に合った学習方法を選択し、自らの学習を調整。学習課題の解決に向けて、気づいたことや分かったことを「SKYMENU Cloud」の[気づきメモ]にメモして蓄積していきました。[グループメモ]機能を使えば、友だちが見つけた情報がリアルタイムに送られてくるので、「地震」「台風」など同じ災害を調べている友だちとつながり、気づきを共有できるので、意見を練り上げたり、広げたりして深い学びへとつなげていきました。
蓄積した膨大なメモ(気づき)から情報を取捨選択してまとめる
児童は、各追究の振り返りをまとめる際に、それまでに蓄積した[気づきメモ]を見返すのですが、わずか1時間の学習であっても、自分が調べたことと友だちが調べたことを合わせると、膨大な情報量になります。課題解決に必要な情報を考えて選択し、振り返りをまとめていくという行為は、教科のねらいに迫るとともに、情報を取捨選択する力の向上、つまり情報活用能力の育成につながりました。
児童生徒が選択する自由進度学習で、主体的に学べる環境を実現
自由進度学習は一教員の考えだけで簡単に実施できるわけではないため、学校やほかの教員と協力しながら、計画していく必要があります。しかし、学習指導要領が目指す「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実にむけて、自身で学習計画を行い主体的に学ぶことで、学習することの楽しさを発見し、学習意欲を高めるためにも、自由進度学習は有効な学習方法です。ぜひ、児童生徒が主体的に学べる環境づくりの実現に役立ていただければと思います。
ICTを活用した学習活動を支援する「SKYMENU Cloud」
GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台の端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」や多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。