GIGAスクール構想によって小・中・高等学校で1人1台端末が整備されました。それに機に学習や試験をコンピュータやタブレット端末などで実施するCBT(Computer Based Testing)化が加速しています。従来は紙で実施していた個別学習や試験をCBT化することで、児童生徒や学校にはどのような影響があるのでしょうか。この記事では、CBT化のメリットやCBT化に際しての留意点、学校教育におけるCBT化の現状のほか、文部科学省によるCBTシステム「MEXCBT(メクビット)」の導入状況・活用イメージについて紹介します。
CBT化とは、PCなどの端末を用いて実施する試験方式への移行
CBT化とは、これまで紙で行ってきた個別学習や試験などを、端末で行う方式に移行することです。CBTは「Computer Based Testing」の略で、一般的にはコンピュータを用いた試験方式とされています。CBTに対して、紙の問題用紙・解答用紙を使用する筆記型調査はPBT(Paper Based Testing)と呼ばれます。OECD(経済協力開発機構)によるPISA(学習到達度調査)は2015年からCBT化したほか、IEA(国際教育到達度評価学会)によるTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)は2019年に実施した調査より一部CBTが導入されました。このように、国際的な学力調査においてCBT化が進んでいるのが現状です。後述する「文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)」は、学力調査や各種試験だけではなく、個別学習なども含め幅広い活用が想定されていますが、この記事ではまず試験方式としてのCBTから紹介します。
CBT化がもたらす3つのメリット
CBT化によって、具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。CBT化の主なメリットを「試験の運用面」「学力や理解度の測定」「児童生徒の利便性」の3つの観点で紹介します。
試験の運用面:実施や採点が効率化される
CBT化のメリットの一つは、試験の実施や採点にあたってさまざまな効率化が図れることです。CBTでは、紙の問題用紙・解答用紙が不要になるため、試験問題の作成や用紙の印刷、運搬コストを削減できます。また、試験の当日に問題用紙・解答用紙を配付したり回収したりする手間がなくなり、会場での負担も軽減されます。問題冊子の紛失や盗難といった物理的なリスクがなくなることから、セキュリティレベルの向上という点でも効果的だとされています。さらに、受験から採点までを一貫してコンピュータ上で処理することが可能となり、試験の結果を迅速に返却できるというメリットもあります。
学力や理解度の測定:多角的な分析が可能になる
CBT化によるメリットに、児童生徒の学力や理解度を測定するにあたって多角的な分析が可能になることがあります。例えば、音声・動画による出題や解答、画面上でグラフを描く、図形を動かすといったインタラクティブな問題を取り入れることによって、児童生徒の思考力や問題発見・解決能力など、紙の試験では測りきれなかった資質・能力を可視化できる可能性があります。
また、CBTでは操作ログを記録できるため、児童生徒が解答に時間を要した設問を分析し、1人ひとりのつまずきポイントを発見することも可能です。さらに、児童生徒の学習到達度に合わせた問題を出題する「適応型試験(アダプティブラーニング)」が実施できるため、出題する問題数を絞り込み、試験の時間を短縮することもできます。CBT化によって児童生徒1人ひとりの学力を客観的に把握することで、個に応じた指導や学習の個性化の実現が期待されています。
児童生徒の利便性:取り組みやすさや利用しやすさが向上する
CBT化は、児童生徒にとって試験の受けやすさや使いやすさといった利便性が向上する点でもメリットをもたらします。CBTの場合、インターネットに接続可能な端末さえ用意すれば、場所や時間を問わず問題に取り組めるものもあります。どこでも活用できることに加え、出題のたびに問題内容が異なる方式にすることで、同じ範囲の試験を複数回受けることも可能になります。また、画面の拡大表示や色彩調整、音声による出題・解答などの機能を利用することでアクセシビリティ(あらゆる人にとっての利用のしやすさ)が向上し、特別な配慮を必要とする児童生徒にも柔軟に対応できるようになります。
文部科学省ではCBTシステム「MEXCBT(メクビット)」を展開
文部科学省が展開しているCBTプラットフォームに「MEXCBT(メクビット)」があります。MEXCBTは、小・中・高等学校での学びを保障する観点から開発された、学習用端末を用いてオンラインで問題演習などができるCBTシステムです。学習の窓口となる「学習eポータル」からログインすることで、国や地方自治体などの公的機関が作成した約4万問(2024年8月時点)の問題に取り組めます。問題は「一問一答形式」と「複数問題解答形式」の2種類から選択でき、結果は各自の学習eポータルに配信されます。また、教員が問題を選んでクラス全員に配信したり、クラス全員の学習結果を一覧で確認したりすることも可能です。MEXCBTは、教員が教材作成や問題選定に活用することはもちろん、児童生徒が学校や家庭での個別学習に使える点が大きな特徴です。
MEXCBTの導入状況と活用の広がり
文部科学省の資料「文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)について」によると、MEXCBTは2024年2月時点で公立小学校の80%以上、公立中学校のほぼすべてで導入されており、その数は全国で約27,000校、約850万人の児童生徒が登録しています。現在では、地方自治体独自の学力調査などのほか、通常の授業や家庭学習といった幅広い用途でMEXCBTが活用されています。MEXCBTは、GIGAスクール構想によって1人1台端末の整備が実現した今、デジタルならではの学びを実現する重要な教育インフラとして広がっています。
全国学力・学習状況調査も将来的なCBT化を検討
文部科学省は、例年小学6年生、中学3年生を対象に行っている全国学力・学習状況調査についても、2027年度から全面的にCBT化する方針が示されました。ここでは、全国学力・学習状況調査(以下、全国学力調査)をCBT化する背景について解説します。
全国学力調査をCBT化する背景
全国学力調査をCBT化する背景には、GIGAスクール構想によって1人1台端末と通信ネットワークが一体的に整備され、実施可能な環境が整ったことも大きく影響しています。また、PISAは2015年から全教科において、TIMSSも2019年から一部CBTに移行しており、大規模な学力調査のCBT化は国際的な流れです。CBTで学力を正確に測定するためには、児童生徒が日常的にICT機器を使用し、PC端末の操作に慣れていることが必要になります。しかし、PISA2018では、日本の児童生徒がICTを活用した学習活動を学校内外で十分に行っていないことが明らかになりました。
さらに、TIMSS2019では、日本の一部の児童生徒がローマ字入力や入力モードの切り替えでつまずく様子が確認されています。同様に、2019年度に実施された全国学力調査の中学校英語における「話すこと」の調査では、生徒がコンピュータに向かって口述する解答方法に慣れておらず、操作に戸惑ったことで調査開始が遅れるといったケースが見られました。文部科学省では、CBTによる学力調査が国際的な標準となりつつあるなかで、日本でも後れを取ることなく、全国学力調査のCBT化を進めることが急務であるとして、導入に向けた取り組みを行っています。
全国学力調査の一部CBT化は2025年から
全国学力調査では2025年度から一部CBT化が予定されています。2025年の全国学力調査は、小学校の国語・算数・理科および中学校の国語・数学・理科が実施されますが、このうちCBTが実施される教科は中学校の理科のみです。中学校の理科では、点字が必要な生徒などを除いて、基本的に紙の問題用紙・解答用紙は廃止されます。一斉に受験する際の通信負荷を軽減する観点から、中学校の理科に関しては調査日が4日間に分けて設けられる予定です。なお、2025年度以降の全国学力調査は順次CBT化が検討されており、「全国的な学力調査に関する専門家会議」(2024年7月8日)において、2027年度移行、CBTに全面移行する方針が示されました。
CBTを実施する際の注意点
CBTを実施する際には、従来の紙で行う試験とは異なる注意点があります。ここでは、主な2つの注意点を解説します。
ICT環境の整備
CBTを実施する際にまず注意が必要なのが、ICT環境の整備です。児童生徒数が多い学校でCBTを実施する場合には、インターネット回線の通信量が一斉アクセスに耐えられるか、Wi-Fiへの同時接続台数が人数分用意できているかどうかといったネットワークの稼働状況について、十分な事前確認をしておかなくてはなりません。また、キーボードやマウスといった入力機器の故障により、解答が妨げられる可能性も想定しておく必要があります。機器操作の習熟度が解答に影響を与えることもあり得るため、日頃からキーボードやマウスなどに触れる機会を設けておくことも大切です。
カンニング対策
CBTを実施する際の注意点として、カンニング対策があります。端末上でCBTシステム以外のアプリケーションが使用できる状態になっている場合、インターネットで検索してしまう可能性もあります。試験監督者は背後から巡回するなど、実施に際しての工夫が求められます。試験中は不要なアプリケーションを実行できないよう制限設定するなど、技術的対策によりカンニングを防止する対策を講じておくことが大切です。
今後ますます広がるCBT化へ向けて、学校・教育機関の対応が求められる
CBT化は国際的な学力調査や資格・検定試験でも進められており、日本でも今後ますます広がっていくと考えられます。CBT化によって、通信環境や端末の整備、カンニング対策といった配慮も必要となりますが、試験の運用が効率化したり、学力や理解度の測定精度が高まったりするメリットが得られます。CBT化のメリットを十分に享受し、児童生徒1人ひとりの資質・能力を伸ばしていくためにも、日頃から児童生徒が端末や周辺機器に触れる機会を設けるなど、学校・教育機関の対応が求められています。
ICTを活用した学習活動を支援する「SKYMENU Cloud」
GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台の端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」や多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。