児童生徒1人1台端末などICTを活用した教育についてさまざまな情報を掲載します。

Sky株式会社

公開日2024.08.26

PISA(OECD 生徒の学習到達度調査)とは? 日本の現状や課題について解説

著者:Sky株式会社

PISA(OECD 生徒の学習到達度調査)とは? 日本の現状や課題について解説

生徒の学力について、世界における日本の現状を知る手掛かりの一つとされているのが、国際的に実施されているOECD生徒の学習到達度調査「PISA」です。実施のたびに日本の順位がニュースに取り上げられていますが、教育関係以外の方で、PISAでどのような調査を行っているのかをご存じの方は少ないのではないでしょうか。この記事では、PISAの調査内容や調査方法のほか、近年のPISAから見る日本の学力の現状について解説します。

PISAとは、OECDが実施している国際的な学力調査のこと

正式名称は「Programme for International Student Assessment」で、日本では「OECD生徒の学習到達度調査」と呼ばれています。2000年から調査が始まり、15歳3か月以上16歳2か月以下の学校に通う生徒(日本では高校1年生)を対象に、おおむね3年ごとに実施されてきました。PISAの2022年調査では、世界81の国と地域から約69万人が参加し、日本でも規定に基づいて抽出された183校(学科)の約6,000人が受検しています。PISAの調査結果は各国が自国の学力について現状を把握するとともに、教育をより良いものにしていく上で役立てられています。

日本におけるPISAの実施目的

日本でPISAを実施する主な目的は、義務教育終了段階の生徒が持つ知識・技能を、実生活のさまざまな場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測ることです。PISAで出題される問題は、一部を除いて非公開となっており、同じ調査問題を⾧期間使用することで平均得点の経年比較ができるようになっています。そのため、生徒の学力がどのように推移しているのかを確認するための資料としても活用されています。また、日本の教育課程の根幹となる学習指導要領の改訂を検討する際にも、PISAの調査結果が考慮されるケースが少なくありません。

PISAの調査方法

PISAは大きく分けて、2つの形式から構成されています。1つは問題に対して解答する「テスト形式の調査」、もう1つは家庭や学習などに関する質問に回答する「アンケート形式の調査」です。このうち、テスト形式の調査では「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」「読解力」の3分野の問題が出題されます。各回の調査では、これら3分野のうちの1つが中心分野として重点的に調査・分析されます。2022年調査では、数学的リテラシーが中心分野になりました。

なお、2015年調査より調査方法が「PBT(筆記型試験)」から「CBT(コンピュータ使用型試験)」に移行しています。CBTは「Computer Based Testing」の略称で、テスト問題の配付や解答、結果の集計といった工程をすべてコンピュータ上で行います。さらに、2018年調査における読解力、2022年調査における数学的リテラシーのテストでは、解答結果によって出題内容が変わる「MSAT(多段階適応型テスト)」が導入されました。MSATの導入により、測定結果の精度が向上したとされています。

PISAにおける世界と日本の学力の比較

PISA2022におけるOECD加盟国中の日本の順位は、数学的リテラシーが1位、科学的リテラシーが1位、読解力が2位でした。全参加国中では数学的リテラシーが5位、科学的リテラシーが2位、読解力が3位となり、いずれの分野でも、日本は世界トップレベルの学力であるといえます。以下は、PISA調査開始時から2022年調査までの、日本とOECD加盟国の平均得点の推移を表したものです。

日本とOECDの平均得点の推移(調査開始時~2022年) OECD平均は平均得点の長期トレンドが下降しているが、日本は平坦型(平均得点のトレンドに統計的に有意な変化がない)

  • 白丸はPISA2022年の平均得点を統計的に有意に上回ったり下回ったりしない平均得点を示す

出典:文部科学省・国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント

2000年にPISAが開始されて以来、OECD加盟国全体の平均得点は、3分野ともに下降傾向が見られる一方、日本の平均得点は3分野とも統計的に有意な変化がなく、ほぼ平坦な状態を維持しています。また、2018年調査と2022年調査の国内比較では、「科学的リテラシー」「読解力」において低得点層の割合が有意に減少し、「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」において高得点層の割合が有意に増加しました。以上のことから、日本人の学力は国際的に見て高い水準を維持しており、高得点層が増加するとともに、低得点層が減少傾向にあることがわかります。

なお、2022年調査は、日本の新型コロナウイルス感染症に起因する休校期間が他国に比べて短かったこと、ICT環境の整備が進んで生徒がICT機器の使用に慣れていたことなど、日本特有の要因が影響している可能性を考慮する必要があることがOECDから指摘されています。

PISAからわかる日本の教育現場の課題

PISAでは、3分野の調査結果を、生徒や学校が持つさまざまな特性との関連によって分析するため、テストと並行してアンケート形式の調査を行っています。このアンケート調査から浮き彫りになるのは、日本の教育現場と生徒が抱えている課題です。ここでは、文部科学省・国立教育政策研究所の「OECD生徒の学習到達度調査PISA2022のポイント」から、2022年調査で明らかになった課題を3つ紹介します。

各教科の授業におけるICT活用度の低さ

PISAの調査結果から見る、日本の課題の一つは「各教科の授業におけるICT利用頻度」です。OECD加盟国と比べると、日本ではデジタル・リソースを授業で活用する頻度が低い傾向が見られます。ICT活用調査 問4「教科ごとでのICTの利用頻度」によると、特に国語の授業でデジタル・リソースの活用頻度が低いことがわかります。国語の授業の半数以上でデジタル・リソースを活用している割合は、日本では15.2%にとどまっているのに対し、OECD加盟国の平均は27.3%と数値に開きが見られます。また、生徒自身が情報を集める、集めた情報を記録する、分析する、報告するといった場面でデジタル・リソースを使う頻度についても他国に比べて低く、「ICTを用いた探究型の教育の頻度」の指標はOECDの平均を下回っています。

デジタル・コンピテンシーに対する自信の低さ

PISAからわかる日本の課題には、生徒のデジタル・コンピテンシー(ICTに関する技能・知識)に対する自己効力感の低さも見て取れます。日本の生徒は、デジタル・リソースやプログラミングについて学ぶことについての興味・関心は、OECDの平均並みにありますが、プログラムを作成したり、ソフトウェアのエラーの原因を特定したりすることへの自信は、OECD平均を10ポイント以上下回ります。PISA2022の結果を受けて、文部科学省は実生活の課題を数学や理科の知識を用いて探究・解決する理数教育と、プログラミングなどの情報教育を一層充実させることに言及しています。

自律的な学習に対する自己効力感の低さ

PISAの調査結果から、日本は自律的に学ぶことに対して「自信がない」と回答した生徒が非常に多かったことが、資料で指摘されています。新型コロナウイルス感染症の流行によって、長期間にわたり休校した国があることから、「学校が再び休校になった場合、自律学習を行う自信があるか」という質問に対して、日本では「自信がない」と回答した生徒が半数以上に上りました。「自分で学校の勉強をする予定を立てる」など、6割以上の生徒が自信を持っていないという項目も多数ありました。

こうした自律学習と自己効力感に関する日本のスコアは、OECD加盟国37か国中34位となっています。主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善の推進によって、自ら思考し、判断・表現する機会を充実させたり、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実のなかで、自律した学習者の育成に取り組むことが、より一層求められます。

PISAの結果を踏まえた授業改善と環境整備が必要

PISAの調査結果は、国際社会における日本の学力の現状を把握する上で重要な資料です。日本の生徒は何ができるのかを知り、生徒が置かれている状況を国際的な視点で俯瞰することで、授業改善や学習環境の整備を推進する際の参考として役立てられています。各国と比較した日本の順位に着目するだけでなく、これからの社会を生き抜くために生徒に求められる知識や技能を理解するための手段の一つとして、PISAの結果を活用していくことが大切です。

ICTを活用した学習活動を支援する「SKYMENU Cloud」

GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台の端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」や多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。