デジタル技術の発展により、学習効果の向上につながるシステムやサービスが次々と登場するようになりました。文部科学省は、2018年にまとめた「Society 5.0におけるEdTechを活用した教育ビジョンの策定に向けた方向性」の中で、「教育におけるAI、ビッグデータ等の様々な新しいテクノロジーを活用したあらゆる取組」を「EdTech」と定義し、児童生徒や教員の視点を大切にしながら、新しい技術の開発・活用を推進するとしています。EdTechを推進するなかで、すぐにでも着手すべき課題の一つとして挙げられているのが「アダプティブラーニング」です。この記事では、アダプティブラーニングが注目される背景やメリット、課題について解説します。
アダプティブラーニングとは、EdTechを活用し個別最適化された学習を行う方法
アダプティブラーニング(Adaptive Learning)とは、教育ビッグデータやAI技術を駆使して、1人ひとりの能力や習熟度に応じて個別最適化された学習を行う方法です。アダプティブラーニングは「Adaptive(適応性のある)」と「Learning(学習)」からなる造語であり、日本語では「適応学習」と呼ばれます。
学校教育におけるアダプティブラーニングは、広義では児童生徒1人ひとりの学習進度や個性に合わせて学びを深める「個別最適な学び」の文脈の中で語られることが多く、狭義では学習履歴などをビッグデータ化し、AIなどにより傾向を分析した上で、個人ごとに最適な学習内容を提供する仕組みを用いた学びを指します。
アダプティブラーニングを活用すると学習者の成績が収集され、分析結果から個々の習熟度や到達度に合った順番で学習プログラムを提示したり、出題をカスタマイズしたりすることが可能です。EdTechを活用することで、児童生徒に対してよりきめ細かな個別指導やフォローができるようになるとされています。
アダプティブラーニングが注目される背景
アダプティブラーニングが注目される背景には、社会の変化による授業形態の多様化やICT環境の整備、それに伴う教育ビッグデータ(教育データ)の蓄積があります。新型コロナウイルス感染症の拡大による臨時休業や外出自粛が続いた期間、児童生徒たちの学びを継続するために授業のオンライン化が進みました。
感染症の影響が収束した現在もオンライン授業は、授業の一形態として活用されています。ICTを活用した学習活動が定着するにつれ、児童生徒の学習成果などをデータとして蓄積できるようになり、児童生徒を誰一人取り残すことのない「個別最適な学び」の実現のために、教育ビッグデータの活用が具体的に検討されるようになりました。アダプティブラーニングは、こうした新しい学びのかたちをサポートするものとして注目されています。
アダプティブラーニングを実施するメリット
社会情勢や教育の情報化の進展により、注目されることになったアダプティブラーニングですが、実施することによりさまざまなメリットがあるといわれています。ここでは、主な5つのメリットについてご紹介します。
学習の個性化が進み、学習効果の向上が期待できる
アダプティブラーニングを導入することで児童生徒はそれぞれの苦手を克服し、得意を伸ばす効率的な学習が実現でき、「学習の個性化」による学習効果の向上が期待できます。アダプティブラーニングでは、ICTを活用して学習者が苦手とする領域を分析し、弱点の克服に向けて類似したコンテンツを繰り返し提示できます。本人が気づいていない苦手な部分も可視化できるので、着実に弱点を解消して次の課題に取り組めます。一方、得意分野については、より高いレベルの問題が出題されるので、実力を高めることを目指します。
指導の個別化に役立ち、指導力の向上が図れる
アダプティブラーニングを活用することは、「指導の個別化」にも役立ちます。児童生徒1人ひとりの学習到達度や得意・不得意が可視化されることで、個に応じた指導がしやすくなります。また、学習データによる客観的な分析に基づいた指導ができるようになる点もメリットだといえます。
学習データを活用できる
過去の学習データを活用できるのも、アダプティブラーニングのメリットです。アダプティブラーニングでは、児童生徒1人ひとりの学習データを蓄積できるだけでなく、ほかの学習者や成績優秀者の行動特性などを基に、分析を行うこともできます。そのため児童生徒がつまずいている箇所を理解し、早い段階でフォローできるようになります。
学習履歴以外のデータも活用できる
ICTを活用することで収集・蓄積できるデータは、学習履歴だけではありません。例えば、民間のeラーニングシステムでは学習中の心拍や血圧といった学習者本人も意識することがない情報を収集し、分析に役立てるものもあります。より多くのデータを基に分析し、学習状態を可視化することで、これまでとは違った気づきが得られるかもしれません。
教材やカリキュラムの見直しに生かせる
アダプティブラーニングを活用すれば、教材やカリキュラムの見直しも簡単になります。アダプティブラーニングでは、学習に使用したコンテンツがどのように学力の向上に寄与したかについても分析が可能です。その結果、効果に応じて教材の変更やカリキュラムの見直しに生かせます。
アダプティブラーニングの課題とこれから
アダプティブラーニングを導入するメリットは大きいですが、その一方で課題も指摘されています。アダプティブラーニングを導入するには、校内の無線LAN設備やタブレット端末などのICT環境整備が必要です。従来は、こうした整備にかかる費用がネックとなり、自治体ごとに導入状況の差がありました。しかし、GIGAスクール構想により1人1台の学習用端末と高速ネットワーク環境の整備が大きく進展したことで、アダプティブラーニングを実施する環境が整ったといえます。
また、コロナ禍を経てオンライン授業の経験などにより教員や保護者のITリテラシーが底上げされ、実施に向けた障壁はなくなりつつあります。一方で、タブレット端末の運用管理に不安があったり、通信環境に影響を受けるケースがあったりと、まだ課題が残っているのが現状です。
文部科学省は、GIGAスクール構想以前からアダプティブラーニングに着目し、すぐにでも着手すべき取り組みの一つに挙げていました。アダプティブラーニングを導入することで、学習者1人ひとりの理解度に合わせた個別最適な学びが提供できます。学びの質の向上に向け、これからのアダプティブラーニングの発展に期待が高まっています。
アダプティブラーニングに取り組むことで、教育の質は高まる
アダプティブラーニングは、児童生徒1人ひとりの特性や能力に合わせて学習の質を向上させるだけでなく、児童生徒の主体性や学習意欲を高める効果があるといわれています。また、アダプティブラーニングを導入することで、個々人の課題を効率よく把握でき、教員の負担も軽減します。実際に、アダプティブラーニングの利用前後で成績が向上したという実証実験もあり、大きな可能性を秘めているといえるでしょう。とはいえ、導入は簡単ではないため、まずは自治体や学校の状況に合わせて幅広い学習場面で活用できるICTツールの導入を検討してみることをお勧めします。
ICTを活用した学習活動を支援する「SKYMENU Cloud」
GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台の端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」や多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。