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反転授業とは? メリット・デメリットや注意点、実践事例を紹介

著者:Sky株式会社

反転授業とは? メリット・デメリットや注意点、実践事例を紹介

近年注目されている授業形態の一つに「反転授業」があります。反転授業は、従来実施されてきた授業形態を180°転換した手法です。反転授業では、デジタル教材などを活用して自宅で学習したことに基づいて、授業では演習や議論を行います。ICTの発展によって実施しやすくなった反転授業ですが、どのような目的があるのでしょうか。この記事では、反転授業のメリット・デメリットや、実施にあたって指導者や保護者が注意すべき点のほか、実践事例についてご紹介します。

反転授業とは、自宅で予習してから授業で実践的な活動を行う学習方法のこと

反転授業は、学校で教員の講義を受け、自宅で宿題として出された課題に取り組むというこれまでの概念を、反転させた授業形態のことです。2000年代にアメリカで始まり、国内でも東京大学を筆頭に全国各地の教育現場で実施されるようになりました。反転授業では、児童生徒は画像や映像などを通して家庭で学び、学校の授業の時間には家庭で学んだことを基にディスカッションやディベートなどを行います。そのため、従来のように教員が教壇に立って一方的に話をすることはほぼありません。なお、反転授業では学習内容のインプットを家庭で行うため、保護者のサポートが不可欠です。

反転授業はハイブリッド型授業に含まれる

反転授業は、タブレット端末やデジタル教材を使った家庭学習と、学校での対面授業を組み合わせて行う「ハイブリッド型授業」の一つとして位置づけられます。このハイブリッド型授業にはいくつか授業のパターンがあり、その中でも代表的な3つのパターンを紹介します。

ハイフレックス型授業

ハイフレックス型授業は、対面とオンラインを併用した同時双方向型授業のことで、一般的に「ハイブリッド型授業」という場合は、このハイフレックス型授業を指すことが多いです。児童生徒は、教員が教室で実施している授業を対面・オンラインのどちらか都合の良い方法で受講できるのが特長です。

ブレンド型授業

ブレンド型授業は、対面とオンラインを目的に応じて組み合わせた授業形態です。デジタル教材などを使用して自宅で学習したことを基に、授業で演習や議論を行う反転授業は、ブレンド型授業に分類されます。

分散型授業

分散型授業は、児童生徒を「対面授業グループ」「オンライン授業グループ」に分けて行う授業形態です。対面授業とオンライン授業を同時に実施し、1グループが対面授業を受けている間に、もう1グループはオンラインで課題に取り組みます。次の授業では前回と形態を入れ替えて、授業を分散する方法です。

反転授業が注目されている理由

近年、小学校から大学までの広い範囲で、反転授業に注目が集まっています。その最大の理由は、指導者の一方向的な講義を聴いてそれをノートに控えるという伝統的な教授法よりも、現在は学習者参加型の能動的な教授法の方が学習効果は高いと考えられているからです。アメリカでは、「児童生徒が教員の対面指導を最も必要とするのは、問題を解けずに困っているときであり、学習内容を伝達されているときではない」という発想に基づいて反転授業の取り組みが始まりました。反転授業では、授業の前に講義ビデオの視聴を課すことにより、授業時間内に学習者が問題に取り組むための時間を確保し、グループの話し合いや個別指導を通して学生の理解を促せます。

また、こうした能動的な学習が学習定着率と関連があることは、アメリカ国立訓練研究所が提唱した「ラーニングピラミッド」と呼ばれる研究結果からも明らかです。ラーニングピラミッドは、学習法ごとの知識の定着率を示したもので、定着率が最も低いのが受動的な学習法である「講義」であるのに対し、「グループ討論」や「自ら体験する」といった能動的な学習法は総じて定着率が高いことを示しています。一斉授業の見直しと反転授業をはじめとした能動的な授業が求められる背景には、児童生徒の学力向上に向けた授業改善の検討があるといえます。

反転授業を実施するメリット

児童生徒の学力向上に効果があるとされている反転授業ですが、実施することでどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、児童生徒および教員にとっての反転授業のメリットを4つご紹介します。

意欲的に学習に取り組める

反転授業では、授業自体で知識を得るのではなく、自宅であらかじめ習得した知識を生かす場、授業が位置づけられています。これにより、児童生徒は自分なりの意見や解答を持って授業に臨み、教え合ったりグループで話し合ったりしながら理解を深めていくため、積極的に学ぼうとする意欲が高まることが期待できます。また、1人ひとりの能力や特性によって学び方を変えられるため、難度の高い課題や発展問題にチャレンジしやすいこともメリットの一つです。

教員が児童生徒の理解度を確認しやすい

反転授業は、児童生徒が学習内容をどのくらい理解しているかを、教員が確認しやすいこともメリットだといわれています。反転授業以外で、児童生徒の理解度をこまめに確認するために、従来は単元ごとの小テストを行うことが一般的でした。しかし、範囲が広かったり、教員が多忙だったりするために小テストを準備できないことも少なくありません。すると、定期テストだけで理解度を確認することになります。その点、反転授業であれば、自宅で学んだ内容を授業でアウトプットするため、授業の様子から児童生徒の理解度を見取ることが可能です。

協働的な活動などに時間を充てられる

反転授業では、映像教材などで授業の内容をひととおり理解した上で授業に臨むため、授業中は児童生徒同士の協働的な学び合いや教え合いの時間になります。協働的な活動を通じて考えをまとめたり、アウトプットをしたりすることで、問題解決能力を高められます。

1人ひとりのペースで学べる

反転授業では映像教材を家庭で視聴する際に、自分の理解度に合わせて学習することが可能です。一度にすべての映像教材を再生して総合的に学びたい人、少しずつ再生しながらノートを取って学習したい人といった、個人のペースに合わせて学習を進められます。また、映像教材は復習にも使えるので、学習効率アップにも期待できます。

反転授業を実施する上での課題

反転授業には多くのメリットがありますが、その一方で課題もあります。ここでは、反転授業を行うにあたっての課題について見ていきましょう。

保護者の理解と協力が必要になる

反転授業は、児童生徒が事前学習を済ませていることを前提として進行します。そのため、「事前学習をしていない」「動画や資料に軽く目を通す程度の事前学習しかしていない」といった状態で授業に臨むと、授業の場でアウトプットができず反転授業が意味をなしません。従って、質の高い事前学習をすることがいかに重要であるかを保護者に理解してもらい、期限までに児童生徒が事前学習を済ませるよう促し、サポートしてもらう必要があります。

各家庭にICT環境が必要になる

家庭で事前学習を行うため、タブレット端末や学習用ツール、インターネット回線が必要です。そのため、1人1台端末の持ち帰りに対する理解が必要です。また、家庭によってはインターネット環境がないケースも考えられるため、学校がモバイルルータを貸し出すことなどを含め、公平なICT環境を整える必要があります。

事前学習をしない児童生徒への対応が必要になる

保護者に事前学習の重要性を説明して協力を仰いでも、中には事前学習をしてこなかったり、取り組んではみたものの理解できなかったりする児童生徒がいることも想定しなければなりません。そのため、事前学習をしやすいような工夫をしたり、理解度によって補講や小テストなどを行ったりすることでフォローする必要があり、対応すべきことが増えることもあります。

事前学習の教材など授業準備の負担が増える

事前学習のための映像教材などの準備は、教員が行わなければならないことが多いのが実情です。通常の授業準備のほかにもさまざまな校務があり多忙ななかで、教材準備に時間を割くのは教員にとって大きな負担になります。これが反転授業を進めることの障害となりかねません。アメリカで反転授業が注目されたのには、インターネットで良質なデジタル教材が無償公開されるようになったことが背景にあります。そのため、日本でも都道府県や市区町村単位で反転授業を導入して教材を共有するなど、教員の負担を軽減する工夫が必要だという意見もあります。

反転授業の実践事例

反転授業の先進国であるアメリカに続いて、日本でも反転授業を取り入れた事例が増えてきました。ここでは、反転授業を実践し、成功につなげている3つの事例をご紹介します。

佐賀県武雄市の事例:全11校の公立小学校でスマイル学習を実施

全国に先駆けて反転授業を導入したのが、佐賀県武雄市です。同市では、2014年には児童生徒1人1台端末を実現し、「人工知能に代替されない創造性」「コミュニケーション能力」「協働的問題解決能力」といった21世紀型能力の育成を図ってきました。

また、同年から「スマイル学習」と呼ばれる反転授業を実践。スマイル学習では、自宅でタブレット端末を使って動画視聴することで予習を行い、学校の授業では教え合い・話し合いの活動を中心に行います。導入から約3か月間、授業後に実施したアンケート調査では、「授業はよくわかりましたか」という質問に対して「よくわかった」「どちらかと言えばよくわかった」の合計が94%に達し、「よくわからなかった」「どちらかと言えばよくわからなかった」は6%にとどまりました。ほかにも、「スマイル学習を行うと、普段より授業が楽しいですか」という質問には、43%が「とても楽しみ」、27%が「楽しみ」と回答しており、学習意欲に良い影響を与えていることがわかります。

宝仙学園小学校の事例:夏期補習会でオンライン反転授業を実施

東京都中野区にある私立小学校・宝仙学園小学校では、小学3・4年生の希望者を対象に、夏期補習会で「オンライン反転授業」を実施しています。同校の反転授業の特徴は、「動画の長さと質」を改善したことにあります。20~30分かかる予習動画を見る時間を取ることは、児童にとって大きな負担であり、予習率の低さにつながっていました。そこで、従来の予習動画を5分程の短い動画に置き換えたのです。これにより、児童が予習にかける時間は4分の1で済むようになり、負担が軽減されたことで予習率は100%を達成しました。取り組んだ児童の理解度やモチベーションを聞くアンケート調査では、授業の「わかりやすさ」は10点満点中で平均9.29点、「やる気度」は10点満点中9.37点と、どちらも高評価となっています。

丹波篠山市立 篠山東中学校:家庭学習の強化や習慣化を図るために反転授業を導入

兵庫県丹波篠山市にある丹波篠山市立篠山東中学校では、授業での課題解決に必要な知識の説明をまとめた予習動画を配布し、生徒が事前に視聴した上で授業に臨むという反転授業のスタイルを取っています。丹波篠山市においては、全国学力・学習状況調査で全国や県の平均正答率を下回り、言語能力の育成と学習習慣の定着に課題が見られる時期が続いたことから、さまざまな取り組みを実施。その中の取り組みの一つが、家庭学習の強化や習慣化を図るための反転授業でした。

反転授業では、授業での課題解決につながる知識をまとめた動画を見て予習を行い、授業は知識の定着に向けた問題の演習や発展的な課題に取り組む時間として活用します。反転授業を導入したことで、当該教科が苦手な生徒に合わせて解説する時間を短縮でき、演習に時間をかけて理解を深めることに注力できるようになりました。反転授業を体験した生徒からは、「家である程度理解して授業に臨めたのでわかりやすかった」「わからないところを繰り返し見られたのがよかった」「短い時間で集中できた」といった前向きな姿勢がうかがえる声が聞かれ、授業中の積極的な発言や意見交換にもつながっています。

反転授業の導入で、学びの質が高まる

反転授業は、対面授業で身につけた知識を自宅で復習して応用につなげる従来の授業形態とは異なり、自宅での事前学習によって対面授業の場で発展的な学びに取り組む手法です。アウトプットの機会が増えることで、問題解決能力の向上につながることも期待できます。ただし、反転授業を行うためには、保護者の理解や協力が不可欠であり、保護者に対して、反転授業を行う意図をしっかりと説明した上で実施することが大切です。また、事前学習のための教材準備の教員の負担をいかに軽減するか。教材の工夫による予習率の向上といった課題をどのように解決するのかが重要になります。

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