21世紀に入り、デジタル技術の進化やグローバル化の進行、そして社会構造の変化が相まって、世界は大きく変わりました。これからの時代は先の見通しが難しい「VUCA(ブーカ)」の時代といわれており、子どもたちに求められる能力や資質も変化しています。21世紀を生き抜くには、これまでのような学力や知識だけでなく、新たなスキルを身につけるための教育が必要です。そこであらためて注目されているのが、「21世紀型教育」の重要性です。この記事では今一度、21世紀型教育の概要と提唱された背景、21世紀型教育において獲得を目指すべきスキルについて確認したいと思います。
21世紀型教育とは、21世紀に生きる子どもたちに求められる力を育む教育のこと
中央教育審議会は2005年の「我が国の高等教育の将来像(答申)」において、「21世紀は、新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる『知識基盤社会』(knowledge-based society)の時代である」と示しました。知識基盤社会では、新しい知識や価値を創造する能力が求められるとともに、社会構造のグローバル化により、アイデアなどの知識そのものや人材をめぐる国際競争が加速し、異なる文化・文明との共存や国際協力の必要性が増しています。こうした時代背景を踏まえて、21世紀を生きる子どもたちに求められる確かな学力、豊かな心、すこやかな体の調和の取れた「生きる力」の育成を行うことを「21世紀型教育」といいます。
ここで明示された「生きる力」とは、1996年の答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第一次答申)」の中で定義されたもので、今日の諸外国で求められている能力観とも一致するものです。「生きる力」とは、学校生活やすべての教科・領域等を通して育てたい資質・能力であり、当時の学習指導要領にも「確かな学力」「豊かな人間性」「健康・体力の知・徳・体」のバランスが取れた力として反映されており、現在に至るまで学習指導要領の基本理念とされてきました。生きる力の具体的な定義は次のとおりです。
生きる力の定義
- 基礎・基本を確実に身につけ、いかに社会が変化しようと、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力
- 自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性
- たくましく生きるための健康や体力
日本を含めた各国政府も、伝統的な知識重視の教育から21世紀型スキル習得に向けた21世紀型教育への転換を進めています。
21世紀型教育が議論された背景
教育改革の一環として21世紀型教育が議論された背景には、高度情報化社会や知識基盤社会への移行、グローバル化の加速により、これまで重視されてきた知識・技術獲得型の教育では対応しきれない未来が見えてきたことが関係しています。
めまぐるしく移り変わる知識基盤社会では、答えのない課題にしばしば向き合い、適切な問いを立て、入手可能な限られた情報を基に答えを導き出さなければなりません。そのときに、自分の考えをしっかりと持ち、多様な専門性を持つ他者と協働して、問題解決することが必要になります。また、知識基盤社会では、ICTを駆使して情報処理を行い、コミュニケーションを取りながら新しい知識を創造していくことが期待されています。
複雑で不確実性の高い「VUCA(ブーカ)」の時代に対応できる資質・能力の育成を急務とするなか、求められる学力観・授業観の大幅な転換を図る過程で登場したのが「21世紀型能力」です。その21世紀型能力を育むために生まれた教育が21世紀型教育なのです。
21世紀型教育が目指す21世紀型能力
国立教育政策研究所が2013年に公表した「社会の変化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基本原理」では、21世紀型能力について以下のように定義しています。
21世紀型能力の定義
21世紀型能力は、「生きる力」としての知・徳・体を構成する様々な資質能力から、とくに教科・領域横断的に学習することが求められる能力を汎用的能力として抽出し、それらを「基礎」「思考」「実践」の観点で再構成したものである。
ここで示された3つの能力は、教科・領域横断的に求められる基本的な能力を「基礎力」とし、それに基づいてさまざま課題を解決するための中核となる能力を「思考力」と位置づけ、それを実生活で活用いていくための能力を「実践力」として置くという、3層構造になっています。「基礎力」「思考力」「実践力」のそれぞれで求められるスキルは以下のとおりです。
基礎力
基礎力とは、言語・数・情報(ICT)を道具として目的に応じて使いこなす力のことです。ICT化が急速に進む現代社会では、読み書きや計算といった基本的な知識や技能とともに、情報を扱うスキルが欠かせません。情報スキルは、計算や記憶の代わりとなり、読み書き計算の不足を補う可能性もあります。これらの力を生かして「思考力」を支えることが、基礎力の役割の一つです。基礎力の具体例は以下のとおりです。
基礎力の具体例
- 言語スキル
- 数量スキル
- 情報スキル
思考力
思考力は、1人ひとりが自ら学び判断して自分の考えを持って他者と話し合い、よりよい答えや新しい知識を創り出し、さらに次の問いを見つける力のことです。具体的には、次のような力によって構成されます。
思考力の具体例
- 問題解決力
- 発見力
- 創造力
- 論理的思考力
- 批判的思考力
- メタ認知能力
- 適応的(Adaptive)な学習力
実践力
実践力は、日常生活や社会、環境の中に問題を見つけ出し、自分の知識を総動員して、自分やコミュニティ、社会にとって価値のある答えを導き出せる力、さらにその答えを社会に発信し、協調的に吟味することを通して他者や社会の重要性を感得できる力のことを指します。実践力の具体的な例は、以下のとおりです。
実践力の具体例
- 自分の行動を調整し、生き方を主体的に選択できるキャリア設計力
- 他者と効果的なコミュニケーションをとる力
- 協力して社会づくりに参画する力、
- 倫理や市民的責任を自覚して行動する力
21世紀型教育の実践において大切なこと
国立教育政策研究所が2013年3月に公表した報告書「社会の変化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基準の原理」では、下図のように示された基礎力、思考力、実践力の3層構造に沿って「この枠組みをいかに提示すれば,資質・能力を育成する教育課程とそれに基づく授業づくりが実現するかである。この点については,教科等との関係だけを考えても,例えば,総合的な学習の時間で実践力を養うなど,特定の教科等と資質・能力を対応付ける方法もあれば,どの教科等でも上記三つの力を養う方法もあるなど,多様である」としており、自校の実態を踏まえて21世紀型能力を意識して、各教科・領域において21世紀型教育を実践していくことが大切だといわれています。
参考:国立教育政策研究所「社会の変化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基準の原理」に基づいて作成
21世紀型教育の実践で、未来を生き抜く人材を育てる
21世紀型教育は、時代の変化を踏まえ、今後求められるスキルの獲得を目指す教育です。21世紀に求められる資質・能力を基礎として教育プログラムを開発していく潮流は世界でも活発化しており、学習指導要領にも反映されてきました。21世紀型教育に取り組む学校には、答えのない問題に対して児童生徒が主体的に取り組み、周囲とコミュニケーションを取りながら答えを探求していく力を養うことが求められています。基礎力、思考力、実践力の3層構造を意識して育むべき能力を見直し、未来を生きる子どもたちに必要な資質・能力を伸ばす教育の実践を目指すことが大切だといわれています。
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