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Sky株式会社

公開日2024.10.18更新日2024.10.21

クリティカルシンキングとは何? 実践のポイントや指導指針について解説

著者:Sky株式会社

クリティカルシンキングとは何? 実践のポイントや指導指針について解説

クリティカルシンキングは、「批判的思考」と訳されるとおり、物事の根拠や前提を批判的な視点から疑ってみることで、既存の知識や自身の経験だけに頼らず、課題や問題の本質を深く考える思考法です。未来の予測が困難な「VUCAの時代」といわれる現代において、急速な環境の変化に対応するには、批判的な視点で物事の本質を捉え、柔軟に対処する力が求められることから注目されています。この記事では、クリティカルシンキングの概要や実践する際のポイント、学校教育における指導指針のほか、実践事例も紹介します。

クリティカルシンキングとは何か?

クリティカルシンキングとは、物事の前提や根拠について批判的な視点から疑ってみることで、課題や問題の本質を深く考える思考法のことです。日本語では「批判的思考」と訳されますが、ここでいう「批判」とは必ずしも否定的な意味ではなく、「物事に対して良い点、悪い点を見分けて評価・判定する」という意味で使われています。つまり、クリティカルシンキングは、物事を見分けてより客観的に検討することで、既存の知識や自身の経験だけに頼らず、論理的で偏りのない思考をすることといえます。

クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違いについて

クリティカルシンキング(批判的思考)とよく似た言葉に、ロジカルシンキング(論理的思考)があります。ロジカルシンキングとは、ある物事について矛盾がないように順序立てて考えることや体系的に整理して考える思考法です。一方クリティカルシンキングは、物事の前提条件から「本当にこれでいいのか?」と疑うことで、より本質に迫ろうとする思考法です。

例えば、ロジカルシンキングには「ロジックツリー」というフレームワークがあり、一つの問題を枝分かれさせていき分解して整理することで、原因や解決策を探る手法があります。クリティカルシンキングは、ロジックツリーなどで論理を構成した上で、自身に対し「この主張は本当に正しいのか?」「根拠は揺るがないか?」といったことを問いかけます。このように、クリティカルシンキングとロジカルシンキングは「論理的に物事を捉えて整理する」という点で共通しており、それぞれ組み合わせて使われることが多い思考法です。

クリティカルシンキングが必要とされる理由

クリティカルシンキングは、平成20・21年改訂学習指導要領でも言及されており、決して新しい言葉ではありません。ではなぜ、近年あらためて注目されているのか。その理由について考えてみます。

時代の変化に対応し、より柔軟に対処する力が必要

現代は、目まぐるしい変化を繰り返し、未来の予測が困難な「VUCAの時代」だといわれています。時代の流れが速くなり、求められるものが短いサイクルで変わっていくなかで、既存の知識や過去の経験だけでは対応できない事態が多く発生しています。急速に変化する環境に対応するには、批判的な視点で物事の本質を捉え、柔軟に対処する力が求められます。

また、人々の価値観が多様化し、ライフスタイルも大きく変化しているなかで、個人の価値観だけによるのではなく、他者の視点も交えて広い視野で物事を捉えて考える力が不可欠になっていることも挙げられます。

正しい情報を見極め、取捨選択する力が必要

クリティカルシンキングが必要とされる理由には、情報化社会が大きく進展し、情報があふれていることが挙げられます。今はスマートフォンがあれば、インターネットを通じて膨大な情報に容易にアクセスできる環境があります。しかし、インターネットにはフェイクニュースのように真偽不明の情報も多く存在します。また、SNSなどを通じて個人的な見解に基づいた根拠に乏しい情報も多く発信されています。

こうした環境の中では、信用できる情報を見極める力が必要になります。また、他者の意見を正しく吟味することの重要性も増しており、大量の情報の中から必要なものを適切に取捨選択する力が必要とされています。

クリティカルシンキングを実践する際のポイント

クリティカルシンキングを身につけるには、日頃から意識して実践することが大切です。そのときに特に注意したいポイントを確認します。

事実と意見を混同しない

クリティカルシンキングでは、事実と意見を混同せず分けて考えることが重要です。例えば「今年の夏は暑い」という場合、「例年に比べて、平均気温が1℃高い」というのは客観的な事実ですが、「去年よりもつらく感じる」というのは主観的な意見であり、人によって受け止め方が異なるものです。実際にはこれらすべてを明確に分けることは難しいため、普段の会話や新たな情報に触れたとき、それが事実なのか、意見なのかを意識的に分けて考える習慣が大切です。

自分の思考の偏りを自覚する

人は誰にも自分なりの考えがあり、日常生活を通じて身についた物事の捉え方や考え方には、多少なりとも偏りが生じるものです。思考に偏りがあること自体は何ら問題ありませんし、それをなくすことは不可能です。それだけに、クリティカルシンキングにおいては「自分の思考には、一定の偏りがある」と自覚することが大切になります。

仮説と検証を繰り返す

クリティカルシンキングは、固定概念や先入観を排除してよりフラットに考える思考法といえます。自分の中の「当たり前」や「思い込み」に気づいて取り除くには、仮説と検証を繰り返すことが効果的です。仮説から結論を導き出したら、前提条件や根拠は正しかったのか、思い込みはなかったのかといった視点で検証を行うことで、物事をより客観的に捉える力が身につきます。

クリティカルシンキングに関する指導指針

平成20・21年改訂学習指導要領でクリティカルシンキングに言及されているのは、前述したとおりです。さらに、平成23年2月に公表された「言語活動の充実に関する指導事例集」では、論理や思考といった知的活動に関する指導について、次の4点を挙げて説明しています。

  • 事実等を正確に理解すること
  • 他者に的確に分かりやすく伝えること
  • 事実等を解釈し,説明することにより自分の考えを深めること
  • 考えを伝え合うことで,自分の考えや集団の考えを発展させること

参考:文部科学省「言語活動の充実に関する指導事例集【小学校版】」より見出しを抜粋

この中でも、特に3の「事実等を解釈し,説明することにより自分の考えを深めること」では「他者の考えを認識しつつ自分の考えについて前提条件やその適用範囲などを振り返るとともに,他者の考えと比較,分類,関連付けなどを行うことで,多様な観点からその妥当性や信頼性を吟味し,考えを深めること,すなわち『クリティカル・シンキング』も大切になる」とされ、自分の考えを深める指導を行う際の留意点として、次の3点を挙げています。

  • 事実等を知識や経験と結び付けて解釈し,自分の考えをもたせるようにすること
  • 自分の考えについて,探究的態度をもって意見と根拠,原因と結果などの関係を意識し,説明する際にはそれを明確に示すこと
  • 自分の考えと他者の考えの違いをとらえ,それらの妥当性や信頼性を吟味したり,異なる視点から検討したりして振り返るようにすること

学校教育におけるクリティカルシンキングの実践事例

クリティカルシンキングの育成を目指した実践事例として、独立行政法人教職員支援機構(NITS)が公開しているアクティブ・ラーニング授業実践事例(200事例)から、彦根市立金城小学校の5年算数「比べ方を考えよう(割合)」の事例(平成29年11月)を紹介します。

金城小学校では、同年度の重点課題を「批判的思考力の育成」と定め、それにつながる段階として、低学年では「根拠を基に説明する力」、中学年では「比較、関連づける力」の育成を目指して実践を積んできました。それらを踏まえ、「比べる量=もとにする量×割合」という公式のようなもの暗記して答えを求めるのではなく、問題場面を捉えながらその意味を考えて立式し、答えを求められるようになることを目指しました。

本事例は、全11時間からなる単元のうち7時間目に当たる「比較量の割合がどれだけになるかを求めるなどして、基準量との割合から比較量を求める」という授業。前時に「2,000円の70%はいくらか」という課題に取り組んだ児童たちは、本時に「定価4,000円の30%引きの代金はいくらか」について考えます。提示された問題文を読んで「引き」という点に着目し、前時の課題との違いを捉えながらめあてを立てます。

もとにする量、比べる量、割合を表すものがどれなのかを確認し、数直線上にそれぞれの関係を表し、それに基づいて立式します。このとき「30%引き」は「定価の70%」と同じであることに気づき「4,000×0.7」と立式した児童がいる一方で、「4,000×0.3=1,200」とする児童もいました。しかし「安すぎる、何かおかしい」と自分の答えに疑問を持つ児童もいました。そこで、この両者の意見を示しながら、図を使ったり簡単な数字に置き換えたりしながら、お互いに納得がいくまで意見交流を重ねました。

最後の振り返りでは(A)「4,000×0.3=1,200」「4,000-1,200」と2回に分ける考えと、(B)「4,000×0.7」と1回で答えを求める考えを比較。児童からは「私はBがいい、1回で代金がわかるから」という意見や「Aがいい、順番に考えた方が私にはわかりやすい」という意見が出ました。この振り返りを通じて、それぞれの考えのよさについてあらためて捉え直し、実生活で活用しやすい考え方を選んでいることがわかります。

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