平成29・30・31年改訂学習指導要領は、学習評価の充実によって「指導と評価の一体化」を図ることが求めています。学習指導と学習評価を一体として捉え、教員が授業改善を図るとともに、児童生徒が自らの学習を振り返り、次の学習に向かうことができるようPDCAサイクルを回していくことが重要です。この記事では、国立教育政策研究所の資料の内容に沿って、指導と評価の一体化の概要を説明します。
指導と評価の一体化とは
「指導と評価の一体化」とは、学習指導と学習評価を別々のものと捉えるのではなく、評価の結果によって、その後の指導を改善し、さらに新たな指導の成果をもって再度評価するという一体的なサイクルとして捉えることです。そのため、学習評価の基本的な考え方として、評価活動を評価のための評価にとどめることなく、指導の改善や児童生徒の学習改善につながるものにしていくことが重要だとされています。
「平成29・30・31年改訂学習指導要領」(以下、学習指導要領)では、育成を目指す資質・能力の3つの柱に沿って、各教科等における目標と内容が再整理され、どのような資質・能力の育成を目指すのかが明確になりました。それにより、児童生徒の学習の成果を的確に捉え、主体的・対話的で深い学びの視点から授業改善を図る「指導と評価の一体化」が実現されやすくなると期待されています。
そのためには、教員が指導計画を立てて実践した結果、児童生徒にどのような力が身についたかを評価すると同時に、教員が自身の指導計画を評価し、改善することが重要となります。つまり、計画(Plan)と実践(Do)の結果を、評価(Check)し、改善(Action)につなげるPDCAサイクルによって、教育活動の質の向上を目指します。このとき、教員が授業改善を図るとともに、児童生徒が自らの学習を振り返り、次の学習に向かうことができるようにするためには、学習評価の在り方が極めて重要になるとされています。
参考:国立教育政策研究所「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料 (高等学校編)巻頭資料」に基づいて作成
学習評価について指摘されている課題
国立教育政策研究所の「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」(以下、学習評価に関する参考資料)の「(高等学校編)巻頭資料」では、学習評価の現状の課題として「学期末や学年末などの事後での評価に終始してしまうことが多く,評価の結果が児童生徒の具体的な学習改善につながっていない」という指摘があると示されています。そのほか「教師によって評価の方針が異なり,学習改善につなげにくい」「教師が評価のための『記録』に労力を割かれて,指導に注力できない」といった課題についても言及されています。こうした課題を踏まえて、学習評価を児童生徒の学習や教員の指導の改善につながるものにするために、指導と評価の一体化が求められています。
指導と評価の一体化を図ることのメリット
指導と評価の一体化を図ることで得られるメリットは、児童生徒の学習改善と教員の指導改善の両面から、教育活動の質の向上につながることです。
児童生徒の学習の改善につながる
例えば、授業中の発表や小テストの解答を解説するような場面で、児童生徒の取り組みをフィードバックするなど指導と評価を細かく積み重ねることで、児童生徒が自らの取り組みを振り返ることができ、自身の学習活動を改善しようとする意欲を向上させることができます。
これは、すべての授業で評価を記録するということではなく、単元や題材などのまとまりごとに、「知識・技能」および「思考・判断・表現」の実現状況が把握できる段階で評価を行います。前述のとおり、従来は学期末や学年末に総括的に評価することが多く、児童生徒の学習改善につながっていないことが課題だと指摘されています。指導と評価を一体化させ、児童生徒に評価を適宜フィードバックすることで、学習改善につなげていくことが大切です。
教員の指導の改善につながる
指導は、児童生徒に期待する学習活動の実現や資質・能力の育成に向けて教員が働きかける行為だといえます。その行為(指導)が適切だったかを確認(評価)するための判断材料が、児童生徒の学習評価です。つまり、学習評価は、児童生徒に資質・能力が身についているかを見るために行うと同時に、教員が「本当に子どもたちのための教育活動になっているか」を確認するための材料となるということです。
そのため、適切な評価を行うために事前の評価計画が大切になります。指導計画と評価計画を一体として計画することで、「どのような資質・能力を身につけるための活動なのか」という一つひとつの学習活動の意義を明確にできます。さらに、教員自身が実施した授業を振り返る際にも「何がよかったのか」「課題は何か」といったことが明確になり、それらがより具体的な指導改善につながっていきます。
日々の学習活動の積み重ねが大切になる
指導と評価の一体化においては、学期末や学年末の試験の結果だけではなく、毎回の授業で取り組む学習活動が評価の対象となるため、児童生徒にとっても日頃から学習活動の質を高める意識が強まると考えられます。単元全体を通した評価を行い、適宜フィードバックしながら、毎日の積み重ねを大切にすることが、教員にとっても児童生徒にとっても重要になります。
学習指導要領における学習評価
各教科の学習評価は、学習状況を分析的に捉える「観点別学習状況の評価」と総括的に捉える「評定」の両方について、学習指導要領に示された目標に準拠した評価として実施するとされています。
学習指導要領に示された学習評価の充実
学習指導要領の総則に「学習評価の充実」という項目が次の示されており、単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うとともに、評価の場面・方法を工夫し、学習の過程や成果を評価することが示されています。
2 学習評価の充実
学習評価の実施に当たっては,次の事項に配慮するものとする。
- 児童のよい点や進歩の状況などを積極的に評価し,学習したことの意義や価値を実感できるようにすること。また,各教科等の目標の実現に向けた学習状況を把握する観点から,単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら評価の場面や方法を工夫して,学習の過程や成果を評価し,指導の改善や学習意欲の向上を図り,資質・能力の育成に生かすようにすること。
- 創意工夫の中で学習評価の妥当性や信頼性が高められるよう,組織的かつ計画的な取組を推進するとともに,学年や学校段階を越えて児童の学習の成果が円滑に接続されるように工夫すること。
出典:「小学校 学習指導要領(平成29年告示)」
指導と評価の一体化における評価規準の作成の流れ
学習指導要領には、各教科の内容のまとまりごとに育成すべき資質・能力が示されており、それを踏まえて各教科における観点別学習状況の評価の観点が「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点で整理されています。それについて「学習評価に関する参考資料」では、内容のまとまりごとの評価規準を次のように説明しています。
基本的には,学習指導要領に示す各教科等の「第2 各学年(分野)の目標及び内容」の「2 内容」において8,「内容のまとまり」ごとに育成を目指す資質・能力が示されている。このため,「2 内容」の記載はそのまま学習指導の目標となりうるものである。学習指導要領の目標に照らして観点別学習状況の評価を行うに当たり,児童生徒が資質・能力を身に付けた状況を表すために,「2 内容」の記載事項の文末を「~すること」から「~している」と変換したもの等を,本参考資料において「内容のまとまりごとの評価規準」と呼ぶこととする。
出典:国立教育政策研究所「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」※
※ 以下、各教科で共通した記載内容を示す場合は、同資料の「(小学校編)国語」より引用
ただし「主体的に学習に取り組む態度」については、上記の「内容」に記載がないため、「目標」を参考にし、必要に応じて改善等通知※に示された内容を用いて内容のまとまりごとの評価規準を作成する必要があるとされています。
- 文部科学省「小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知)」平成31年3月29日初等中等教育局長通知
内容のまとまりごとの評価規準の作成
目標や評価規準の設定は、カリキュラムマネジメントの主体となる学校が、学習指導要領に基づいて、児童生徒や学校、地域の実情に応じて行うとされています。また、各教科の特性によって単元や題材など内容や時間のまとまりはさまざまなので、評価を行うにあたり、実現状況が把握できる段階を検討する必要があります。
各教科における「内容のまとまりごとの評価規準」を作成するときの基本的な手順は次のとおりです。
学習指導要領に示された教科及び学年(又は分野)の目標を踏まえて,「評価の観点及びその趣旨」が作成されていることを理解した上で,
- 各教科における「内容のまとまり」と「評価の観点」との関係を確認する。
- 【観点ごとのポイント】を踏まえ,「内容のまとまりごとの評価規準」を作成する。
出典:国立教育政策研究所「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」
この手順については、各教科等の「学習評価に関する参考資料」の第2編の中で、詳しく説明されています。
単元の評価規準の作成
「学習評価に関する参考資料」では、単元ごとの評価規準の作成の進め方についても例示されています。その例に沿って評価の進め方を整理すると次のようになります。
1:単元の目標を作成する
まず年間の指導と評価の計画を確認した上で、単元の目標を作成します。この際、学習指導要領の目標や内容、内容のまとまりごとの評価規準の考え方を踏まえて作成することが大切だとされており、また、児童の実態や全単元までの学習状況などを踏まえることも重要です。
2:単元の評価規準を作成する
1で作成した単元の目標に合わせて評価規準を作成します。学習指導要領解説などを参考に、各学校において授業で育成する資質・能力を明確化することが大切です。
3:指導と評価の計画を作成する
1と2の内容を踏まえて、評価場面や評価方法などを計画します。児童の反応やノート、ワークシート、作品など、どのような評価資料をもとに「(B)おおむね満足できる」と評価するのかを考えたり、「(C)努力を要する」状況に対する手だてなどを考えたりします。その上で授業を行い、指導と評価の計画に沿って観点別学習状況の評価を行い、児童生徒の学習改善や教員の指導改善につなげていきます。
4:観点ごとに総括する
集めた評価資料やそれに基づいた評価結果などから、観点ごとの総括的評価(A、B、C)を行います。なお、この1~4の進め方については、複数の単元にわたって評価を行う場合などは当てはまらないケースもあることに留意してください。
指導と評価の計画の具体例を紹介
指導と評価の一体化において、観点別学習状況を記録に残す場面を精選する際、単元のまとまりの中で適切に評価できるように指導と評価の計画を立てる段階から場面や方法を考えておくことが大切です。ここでは、「学習評価に関する参考資料」の「(小学校編)算数」に紹介された事例を参考に、指導と評価の計画の具体例を紹介します。
単元名:余りのあるわり算(10時間)
この事例は、第3学年「A 数と計算」(4)「除法」の中の単元「余りのある割り算」を例として、指導と評価の計画の作成から、指導と評価の進め方、評価の総括について解説されています。ここでは特に指導と評価の計画の作成の部分を紹介します。
単元の目標
- 割り切れない場合の除法の意味や余りについて理解し,それが用いられる場合について知り,その計算が確実にできる。
- 割り切れない場合の除法の計算の意味や計算の仕方を考えたり,割り切れない場合の除法を日常生活に生かしたりすることができる。
- 割り切れない場合の除法に進んで関わり,数学的に表現・処理したことを振り返り,数理的な処理のよさに気付き生活や学習に活用しようとしている。
ねらいに応じた評価項目の精選、記録に残す評価場面の精選
算数科においては、単元の中のどの時間を評価の機会に位置づけて、授業のどの場面で評価を行うのかという評価場面の精選と、評価資料をどんな方法で収集するのかという評価方法の選択について考える必要があります。毎時間すべての児童に対して3観点すべての評価の情報を収集することは現実的ではありません。各時間のねらいにふさわしい1~2観点の評価項目を精選します。
この事例では、単元を通して繰り返し出てくる評価の内容は、全員の学習状況を毎回記録するのではなく、① 主に「努力を要する」状況と考えられる児童の学習状況を確認し、その後の指導に生かすための評価の機会を設定。② 全員の学習状況について総括の資料とするために記録に残す機会を設け、2つを区別しています。後述の「指導と評価の計画(例)」では、①に当たる場面に◎、②に当たる場面に★を付記しました。
観点に応じた適切な評価方法の選択、各時間における評価場面の精選
算数科における評価方法としては次のようなものがあります。各時間の評価については、1時間の授業のどの場面(評価場面)で、児童にどんな姿が見られれば「おおむね満足できる」状況だと評価するのか、評価資料をどんな方法(評価方法)で収集するのかを計画します。
- 知識・技能
児童の活動の様子やノート等の記述内容の観察,ペーパーテスト - 思考・判断・表現 / 主体的に学習に取り組む態度
児童の活動の様子やノート等の記述内容の観察など
観点に応じた適切な「指導と評価の計画」の作成
ここでは、観点ごとに「指導と評価の計画」の作成のポイントをご紹介します。
単元の評価規準「知識・技能」
- 包含除や等分除など,除法の意味について理解し,それが用いられる場合について知っている。
- 除数と商が共に1位数である除法の計算が確実にできる。
- 割り切れない場合に余りを出すことや,余りは除数より小さいことを知っている。
「知識・技能」については、総括の資料とするための評価を行う場面(★)は、単元末に設定することが考えられます。それは算数科における知識は、単元を通して繰り返して使うなかで、定着して理解が深まるものであり、技能も同様に繰り返すなかで習熟し、生きて働く確かなものになっていくからです。
しかし、単元末のみで評価するのではなく、机間指導などで個人解決時のノートの記述や適用問題を交えて学習状況を把握し、特に「努力を要する」状況だと考えられる児童を指導し、個々の児童の保管を行うことが大切です。
単元の評価規準「思考・判断・表現」
- 除法が用いられる場面の数量の関係を,具体物や図などを用いて考えている。
- 余りのある除法の余りについて,日常生活の場面に応じて考えている。
「思考・判断・表現」については問題発見や解決の過程で発揮されるものなので、授業中の発言や話し合いのなどの活動の様子と、個人解決時の課題解決の様子、適用問題や活用問題の解決の様子、学習感想などの振り返りといったノートの記述内容から評価の情報を収集することが望ましいとされています。その際、記述内容が「おおむね満足できる」状況であるかを判断していくことが大切です。
また、新しい問いに気づいたり、発展的・統合的に見て数学的なよさに気づいたりすることは、発言という形で表出されることが多いので、「十分に満足できる」状況と判断されるときは、日々の授業における観察記録に頼ることになります。そのため、単元末ではなく、問題発見や解決の時間において、上記の評価規準1、2の評価内容ごとに総括の資料とするための評価を行う場面(★)を設定することが考えられます。
単元の評価規準「主体的に学習に取り組む態度」
- 除法が用いられる場面の数量の関係を考え,具体物や図などを用いて考えようとしている。
- 除法が用いられる場面を身の回りから見付け,除法を用いようとしている。(「わり算探し」など)
「主体的に学習に取り組む態度」は、問題発見や解決の過程で既習事項を活用したり、話し合いの中で他者の意見を参考にしたりする姿などに表れます。また、よりよい表現や方法を考えたり、日常生活の場面で活用しようとしたりする姿にも表れます。そこで、活動の様子やノートの記述内容から評価の情報を収集します。
また、算数科の特性から「思考・判断・表現」と「主体的に学習に取り組む態度」は、単元前半から後半にかけて高まると考えられるため、この事例では、後半に総括の資料とするための評価を行う場面(★)を設定しています。
指導と評価の計画(例)
ここまでのポイントを踏まえた「指導と評価の計画」の事例は次のようなものになります。
時間 | ねらい・学習活動 | 評価規準(評価方法) | |||
---|---|---|---|---|---|
知識・技能 | 思考・判断・表現 | 主体的に学習に取り組む態度 | |||
1・2 | 余りがある場合でも除法を用いてよいことや、答えの見つけ方を具体物や図などを用いて考える | ◎思①(行動観察、ノート分析) | ◎態①(行動観察、ノート分析) | ||
3 | 余りがある場合の除法の式の表し方や、余りなどの用語の意味を知る。 余りと除数の関係を理解する。 ◎余りと除数の関係を調べる。 |
◎知①(ノート分析) ◎知③(ノート分析) |
|||
4 | 等分除の場面についても余りがある場合の除法が適用できるかを考える。 ◎等分除の場面で,答えの見つけ方を考える。 |
★思①(行動観察、ノート分析) | |||
5 | 余りがある場合の除法計算について、答えの確かめ方を知る。 | ◎知①(ノート分析) | |||
6・7 | 日常生活の場面に当てはめたときに、商と余りをどのように解釈すればよいかを考える。 ◎商に1を加える場合や加えない場合について、それぞれ考える。 |
◎思②(行動観察、ノート分析) | ★態①(ノート分析) | ||
8 | 学習内容の定着を確認し、理解を確実にする。(章末問題) | ◎知①②③(ノート分析) | |||
9 | 学習内容の定着を確認する。(評価テスト) | ★知①②③(ペーパーテスト) | ★思②(ペーパーテスト) | ||
10 | 学習内容を適用して除法の問題を考えたり、解決し合ったりする。 | ★態②(ノート分析) |
表内の評価規準にある「知①」は「知識・技能」の単元の評価規準1を示しています。また、評価方法については次のとおりです。
- 行動観察
机間指導等を通じて捉えた児童の活動の様子,話合い時の児童の発言,ノートの 記述内容などの観察に基づいて評価する。 - ノート分析
授業後に児童のノートやワークシートなどを回収し評価する。 - ペーパーテスト 単元で学習した知識・技能などの内容が定着しているかを評価する。
「学習評価に関する参考資料」では、この「指導と評価の計画」の後、「観点別学習状況の評価の進め方」や「観点別学習状況の評価の総括」について詳しく紹介されています。ぜひ、参考にしていただければと思います。
指導と評価の一体化実現のためにICTの効果的な活用を
GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台の端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」や多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。