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公開日2024.08.26

カリキュラム・マネジメントとは? 取り組み方と実践事例を紹介

著者:Sky株式会社

カリキュラム・マネジメントとは? 取り組み方と実践事例を紹介

教育活動の質を高めるための取り組みとして、「カリキュラム・マネジメント」の必要性が高まっています。カリキュラム・マネジメントとは具体的に何を指しているのか、どのような取り組みをしていけばいいのか、迷われている方もいるのではないでしょうか。この記事では、カリキュラム・マネジメントの概要や取り組み方について、実践事例とともに解説します。

カリキュラム・マネジメントとは、教育課程を軸に教育の質を高めること

カリキュラム・マネジメントとは、「社会に開かれた教育課程」の理念の実現に向けて、学校教育に関わるさまざまな取り組みを、教育課程を中心に据えながら組織的かつ計画的に実施し、教育活動の質の向上につなげていくことです。「小学校 学習指導要領(平成29年度告示)」(以下、学習指導要領)の総則では、カリキュラム・マネジメントを次のように定義しています。

児童や学校,地域の実態を適切に把握し,教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと,教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこと,教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図っていくことなどを通して,教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと

カリキュラム・マネジメントにおいては、教員が個々に授業計画や授業の進め方を工夫するのではなく、教員が連携して複数の教科等の連携を図ることや地域との連携によってより良い学校教育を目指すことが求められます。取り組みの中心となるのは、それぞれの学校の教育目標であり、定期的に学校教育の効果を検証し、改善を繰り返すことによって、継続的に教育活動の質の向上を図ることが必要になります。

カリキュラム・マネジメントの必要性が高まっている背景

学習指導要領では、カリキュラム・マネジメントの重要性が強調されています。これは、これまでも教育課程の編成は行われてきましたが、授業のコマ数や配置などに限られており、教科横断的な視点や授業と学校行事などとの関連を踏まえた、教育活動全体を捉えた構築がなされていなかったという実情があります。

特に「言語能力」「情報活用能力」「問題発見・解決能力」といった学習の基盤となる資質・能力や、現代的な課題の対応に求められる資質・能力を育成するには、教科横断的な学習の充実が欠かせません。さらに、主体的・対話的で深い学びの実現に向け、単元や題材の内容のまとまりを見通した授業改善が求められます。この点について、学習指導要領解説(総則編)では、次のように説明しています。

これらの取組の実現のためには,学校全体として,児童生徒や学校,地域の実態を適切に把握し,教育内容や時間の配分,必要な人的・物的体制の確保,教育課程の実施状況に基づく改善などを通して,教育活動の質を向上させ,学習の効果の最大化を図るカリキュラム・マネジメントに努めることが求められる。

カリキュラム・マネジメントの3つの側面

前述の学習指導要領の総則に示されたカリキュラム・マネジメントを定義した文章は、カリキュラム・マネジメントを次の3つの側面から捉え、整理しているものです。それぞれの詳しい内容は下記のとおりです。

教科等横断的な視点で組み立てる

学習指導要領には「児童や学校,地域の実態を適切に把握し,教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと」と記されています。学習指導要領は児童生徒の主体性を引き出し、深い学びの実現を目指しています。育成を目指す資質・能力は「知識・技能」だけでなく「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力、人間性等」を含めた3つの柱で構成されています。これらの資質・能力は、教育課程を構成するすべての教科等の中で育成されるとともに、例えば、社会科で学んだ地域の伝統や文化を、ALTの教員に英語で伝えるといった教科を横断した教育過程の編成が求められています。

教育課程の実施状況を評価して改善を図る

同じく「教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこと」とあるように、カリキュラム・マネジメントを充実させるために、教育課程の実施状況を評価し、改善を図るPDCAサイクルの視点を持つことが挙げられます。

PDCAは民間企業でよく使われる言葉ですが、学習指導要領の改訂に向けた中央教育審議会の論点整理のなかで、これまでも教育課程の在り方を不断に見直すという側面から重視されてきたが、これからは「教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること」という側面が示されました。

  • PLAN:教育課程の作成
    学習指導要領等に従い、児童生徒や地域の実態を踏まえて編成した教育課程の下で各種指導計画を作成
  • DO:授業の実施
    各種指導計画に基づく教育活動・授業を展開
  • CHECK:学習状況を評価
    日々の授業の下で児童生徒の学習状況を評価
  • ACTION:改善につなげる
    評価結果を次のような改善に生かす(児童生徒の学習の改善・教員による指導の改善・学校全体としての教育課程の改善・校務分掌を含めた組織運営等の改善)

参考:大阪府教育庁「カリキュラム・マネジメントの手引き

上記のようなPDCAサイクルを確立するには、子どもたちにどのような資質・能力を身につけさせたいかを明確にし、学校教育目標の達成につながるかどうかを、常に確かめながら教育活動を行うことが必要です。

人的または物的なリソースの確保と地域との連携

続いて「教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図っていくこと」とあるように、教育内容と教育活動に必要な人的・物的リソースを、地域などの外部の人材等も含めて活用して、効果的に組み合わせることが必要です。そして地域と連携することで、より良い学校教育を目指すことが求められています。例えば、学校で取り組んでいる教育内容を地域の人に知ってもらいながら、地域の人たちから学ぶことでより深い学びの実践につなげていけます。

カリキュラム・マネジメントの実践事例

文部科学省は「これからの時代に求められる資質・能力を育むためのカリキュラム・マネジメントの在り方に関する調査研究」に関して、各自治体の事業完了報告書とともに「カリキュラム・マネジメントの手引き」を公表しています。その中から、大阪府教育委員会の手引きに掲載された事例を紹介します。

大阪府枚方市立第一中学校の事例:教科横断的な教育課程の作成

大阪府枚方市立第一中学校では、全国学力・学習状況調査の結果から生徒の自己肯定感が低い傾向があることを課題として、「自信をもって学べる子どもの育成」を研究テーマの一つに定めました。そして「表現力(聞いて考えたことを自分の言葉で説明する力)」「コミュニケーション力(多様な考え方を持つ人に対し、自分の意見を臆せずに言えて合意形成を図る力)」の育成をめざすことを学校全体で共有し、総合的な学習の時間を軸とした教科の壁を越える教育課程の作成に取り組んでいます。

教育課程の作成にあたっては、教科間の内容をつなぐだけでなく、資質・能力や必要とされる知識・技能、学習技法をつないでいくことが重視しました。総合的な学習の時間だけではなく、道徳を含めた全教科で「4人班の交流」を基本にして、意見を出したくなるよう発問を工夫したり、双方向のやりとりを促すことで、自信をもってプレゼンテーションできるようにしました。国語科では読み取れたことをホワイトボードにマトリクスでまとめたり、数学では活用問題の解説を、理科では実験結果を、それぞれまとめたりするといった活動が盛んに行われました。こうした取り組みのなかで、自分の意見が言えるようになり、意見の相違も受け入れながら合意形成ができるようになりました。

その結果、同校の学校自己診断アンケートの項目「先生は、生徒の意見や考えを大切にしてくれる」に対する肯定的回答が、63.4%から70.9%に上昇。また、「中学校に入学してから、話し合う活動を通じて、自分の考えを深めたり、広げたりすることができていたと思いますか」という設問では、入学当初と比べて14.7%の上昇が確認されています。

大阪府和泉市立北池田小学校の事例:教員間でPDCAサイクルを確立

大阪府和泉市立北池田小学校では、目指す資質・能力を育成するための校内研究体制を充実させるためのPDCAサイクルを重視したカリキュラム・マネジメントに取り組みました。同校では、教育目標である「対話する子」に向かってさまざまな取り組みが行われ、その成果としての定性的な評価が得られています。しかし、全国学力・学習状況調査を基にした定量的な評価では、国語科の「目的や意図に応じて、複数の資料から自分の考えをもち、表現する力」に課題が見られました。そのため、授業改善の視点を全教員で共有し、学校全体で授業改善を進めるためのPDCAサイクルの確立に取り組んでいます。指導案の作成や事前検討会(PLAN)から研究授業(DO)、研究検討会(CHECK)、リフォーム授業の実施(ACTION)に至るまで、すべての段階で教員間で綿密な共有を図りながらPDCAサイクルを回すことにより、授業改善の過程や改善後の指導案を学校全体の資産にしている点が同校の取り組みの特徴です。

一連の取り組みを次年度に生かすために、全教科のグランドデザイン(年間学習計画)を1枚の模造紙にまとめ、振り返りと見直しすべき点を書き込み、それを職員室に掲示しています。こうすることで、新年度に受け持つ学年の子どもたちが、前年度にどのような取り組みをしてきたかを確認できるほか、前年度に担当した教員に質問しやすくなりました。カリキュラム・マネジメントを組織的・計画的な取り組みとして捉え、改善を重ねている事例といえます。

大阪府岬町立深日小学校の事例:地域と連携した教育活動の実践

大阪府岬町立深日小学校では、「ひと・まち・つながる」教育を目指し、学校を地域、大学、行政、企業など、さまざまな人が集い交流するターミナルとして位置づけ、地域社会で教育活動を推進していくための体制づくりに注力。地域の自然環境や文化を生かすとともに、地域の人材を積極的に活用することにより、体づくり、健康教育、食育などで児童が地域とのつながりを実感しやすい授業を実践してきました。具体的な取り組みとして、「ひと・まち・つながる」食育では、栗拾いやひらめの稚魚放流、漁業協同組合の見学、梅採り・梅干し・梅シロップ作り体験、米づくり・稲刈り体験といったさまざまな体験型学習が行われました。

こうした取り組みの結果として、アンケート調査では「地域の人や大学生との交流はあなたにとって良い経験でしたか」という問いに対し、全体の98.1%が肯定的な回答をしています。また、年間の保健室来室者数が約70%も減少したことから、健康教育・食育の取り組みが、ケガをしにくい体づくりや健康的な生活習慣の育成に貢献している様子も見て取れました。学校内に限らず、地域社会との連携を図ることにより、教育効果がもたらされた例といえます。

カリキュラム・マネジメントの今後の課題

カリキュラム・マネジメントを実践していく上で課題となるのが、すでに業務過多で長時間勤務に陥りやすいとされている学校現場の現状です。多忙を極めるなかで、さらに学校全体や地域との協働による取り組みを個人で推進するのは決して容易ではありません。また、小学校高学年でも教科担任制が導入されたことにより、教科横断的な教育課程の編成・実施は、より一層の組織的かつ計画的な取り組みが必要になるといえます。

しかし、カリキュラム・マネジメントを充実させることは新たな取り組みを追加することではないといわれています。すべての教員の連携を深め、学校教育目標や目指す子ども像の達成のため、さまざまな業務の効率化を図りながら、関連する教科等の指導時期の検討や地域人材の活用などを進めていくことが大切です。こうしたカリキュラム・マネジメントに取り組むには、やはり学校長のリーダーシップとともに、教育委員会の支援体制が大切になります。

カリキュラム・マネジメントは、組織的・計画的な取り組みが不可欠

カリキュラム・マネジメントは、予測不可能なこれからの時代を生きる児童生徒に必要な資質・能力を効果的に育成していくために、学校が地域とも連携して実践する重要な取り組みです。教員1人ひとりの取り組みではなく、学校全体で教育目標と課題を共有し、効果的な教育課程を編成する必要があります。カリキュラム・マネジメントを継続的に実践していくためには、学校長がリーダーシップを発揮しながら、組織的・計画的に進めていくことが不可欠です。

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