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公開日2024.08.20

小学校高学年の教科担任制とは? 背景や効果、課題を解説

著者:Sky株式会社

小学校高学年の教科担任制とは? 背景や効果、課題を解説

2022年度より、全国の公立小学校高学年を対象に「教科担任制」が本格的に導入されました。従来は基本的に学級担任がすべての教科の授業を行っていましたが、なぜ教科担任制へと移行することになったのでしょうか。この記事では、教科担任制が導入された背景や期待される効果、教科担任制が抱える主な課題について解説します。

小学校高学年の教科担任制は、各教科の専科教員が授業を行う制度

教科担任制とは、教科ごとに専門の教員が授業を行う制度です。これまで、小学校では音楽や家庭など一部の教科以外はすべて学級担任が受け持つ「学級担任制」が採用されてきましたが、教科担任制では1人の教員が特定の教科を担当し、複数の学級を横断的に受け持つことになります。

対象学年が高学年に限定されているのは、児童の発達段階を踏まえ、小学校での学習指導の特長を生かしながら、中学校以上のより抽象的で高度な学習への系統的な指導を円滑に接続することを目的としているためです。そのため、児童の心身が発達し、一般的に抽象的な思考力が高まる段階であるとともに、各教科の学習内容が高度化する小学校高学年から教科担任制を導入できるようにしています。

小学校高学年における教科担任制は、2022年度から全国の公立小学校に本格的に導入され、外国語(英語)、理科、算数、体育の4教科を中心に実施されています。

小学校高学年における教科担任制導入の経緯

小学校高学年の教科担任制の導入は、2021年1月の中央教育審議会答申「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して」の中で「教科担任制を本格的に導入する必要がある」とされたことを受けて検討が進められてきました。なお、小学校における教科担任制自体は、以前から各地方自治体の判断で取り入れられています。例えば、文部科学省の調査「平成30年度公立小・中学校等における教育課程の編成・実施状況調査 調査結果」によると、2018年度の小学校6年生の授業は、音楽の55.6%、家庭の35.7%、理科の47.8%が、専科教員によって実施されていたのが実情です。さらに、2020年度から小学校3~6年生で始まった外国語(英語)教育に対応するため、小学校英語専科指導のための教員も配置されてきました。

こうした複雑化・多様化する令和の学校の在り方を踏まえ、2021年7月に「義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方について(報告)」がまとめられ、教科担任制の推進方策が示されました。具体的には、外国語・理科・算数および体育を優先的に専科指導の対象とすべき教科とし、2022年度から4年程度をかけて段階的に教員の加配定数の措置を推進する予定であることが示されました。

教科担任制は4つの指導形態に分類される

小学校高学年における教科担任制は、指導形態によって大きく4つのタイプに分類されます。指導形態による具体的な教科担任制のタイプは、次のとおりです。

教科担任制の指導形態

  • A. 完全教科担任制:中学校同様にすべての教科で専科指導を行う
  • B. 特定教科における教科担任制:特定の教科について専科指導を行う
  • C. 学級担任間の授業交換:学級担任間で授業を交換する
  • D. 学級担任とのTeam Teaching:特定の教科について、学級担任含め、複数の教員で分担して指導する

A、B、Cの指導形態は1人の教員による単独指導となりますが、Dでは複数人の教員が協力して授業を行います。例えば、外国語(英語)の授業においてALT(外国語指導助手)と学級担任がチームで指導にあたるケースや、中学校の教員が小学校に赴き、「乗り入れ授業」を行うケースも多く見られます。

小学校高学年の教科担任制がもたらす効果

小学校高学年での教科指導が学級担任制から教科担任制へと移行することによって、具体的にどのような効果が期待されているのでしょうか。教科担任制がもたらす効果として想定されているのは、主に以下の4点です。

授業の質の向上

教科担任制がもたらす最も基本的な効果とされているのが、授業の質の向上です。教員が担当する教科数が減り、授業外の時間が増えることで、教材研究に充てる時間を確保できます。また、同じ授業を複数回実施するため、授業改善を図ることも可能です。授業の質が向上することによって、児童の学習内容の理解をはじめ、学力向上に寄与する効果も期待されています。前述の「義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方について(報告)」では、アンケートで「勉強が分かるようになった」と答えた児童が93%となった小学校があることも紹介されています。

小学校から中学校への円滑な接続

教科担任制がもたらす効果の一つに、小学校から中学校へのスムーズな接続があります。かねてより学校現場では、小学校から中学校への進学にあたって、児童が新しい環境での学習や生活になじめない、いわゆる「中1ギャップ」が教育課題として指摘されてきました。しかし、教科担任制を先行導入した小学校においてアンケートを実施したところ、「小学校の時に教科担任制での学習は、中学校での学習・生活に慣れることに役立ったか」との質問に対し、「役立った」との回答が、対象教科を1~3教科とする小学校で67.9%、6教科以上の小学校で77.8%であったと、「令和2年度 義務教育9年間を見通した指導体制に関する調査研究」(文部科学省からの委託により、PwCコンサルティング合同会社が調査)で示されています。

また、中学校教員による乗り入れ授業について、児童が中学校に進学した際に知っている教員がいることの心理的影響は大きいとの声も紹介されました。このことから、教科担任制によって児童が中学校での学習や生活に順応しやすくなり、中1ギャップが解消されることが期待されています。

多面的な児童理解

教科担任制がもたらす効果の一つが、多面的な児童理解が得られることです。複数の教員が授業を通じて学年全体の児童の様子に目を配ることになるため、各教員は担任する学級だけでなく、学年全体の状況を意識しやすくなります。児童に関する情報共有などを通じて教員間の連携が深まる効果は、非常に大きなものです。

また、児童にとっては複数の教員と関わる機会が増えるため、学級担任以外にも相談などをしやすくなることが想定されます。文部科学省が発表している「令和2年度 義務教育9年間を見通した指導体制に関する調査研究」では、アンケートの結果で「授業以外でいろいろな教員と話す機会が増えたと思うか」との質問に74%の児童、「悩みや相談ができる教員が増えたか」との質問に57%の児童が肯定的な回答をしたことが報告されました。

教員の負担軽減

教科担任制がもたらす効果に、教員の負担軽減があります。1人の教員が担当する教科数が減少すると、教材研究の充実とともに、授業準備の効率化を図りやすくなります。教科担任制の取り組みの前後で、高学年学級担任の時間外勤務が、月あたり平均3時間程度減少した小学校もあると報告されています。学校における働き方改革を一層進めていくことが急務となっているなか、時間外勤務の縮減は教科担任制の大きなメリットです。教科担任制の活用によって、教育の質の向上と教員の負担軽減を進めることが期待されています。

小学校高学年の教科担任制による課題

小学校高学年への教科担任制の導入によって多くの効果が期待されている一方で、課題となりかねない面もあります。次の3つの課題が生じることを想定し、それぞれについて対策を講じていくことが大切です。

時間割の編成が複雑になる

教科担任制による課題の一つは、時間割の編成が複雑になることです。教科担任制では、1人の教員が複数の学級を受け持つことになるため、学年全体、または学校全体で時間割を調整し、各教科に必要とされる時限数を確保しなければなりません。また、学級担任制であれば急な時間割変更でも担任教員の裁量で柔軟に組み替えられますが、教科担任制では複数教員間での調整が必要になるため困難です。教員の確保が難しい学年単学級規模の小学校や、1学年5学級以上の大規模校では、特に時間割編成・調整が難しいことが指摘されています。このような場合、中学校からの乗り入れ授業を担う教員または複数小学校間で指導を行う専科教員を配置したり、カリキュラムコーディネーターを配置したりするなどの工夫が必要です。

教科横断的なカリキュラム・マネジメントが損なわれる

教科担任制による課題の一つに、学級担任制のメリットの一つだった教科横断的なカリキュラム・マネジメントが損なわれる可能性があります。学級担任制では、基本的にすべての教科を学級担任が受け持つため、他教科で習った内容を別の教科の授業に取り入れるといった試みにも柔軟に実践しやすい状況でした。

一方、教科担任制では、授業準備の効率化も図られていることから、受け持ちがない教科に触れる機会がなくなることも考えられます。しかし、教科横断的なカリキュラム・マネジメントを行うには、小学校で指導されるすべての教科等について、幅広く理解しておくことが求められます。また学校には、可能な限り教員間の持ち授業時数が平準化されるよう配意しつつ、学級担任が担当しなくなる教科について、次年度には担当させるなどの工夫が大切になります。さらに、これまで以上に教員同士の連携を強化し、教科間の情報共有に注力していくことが求められます。

教員不足に陥る可能性がある

教科担任制の課題として、教員不足に陥る可能性が挙げられます。従来、小学校の教員定数は、中学校と比べて少ない水準に設定されてきました。そのため、教科担任制が導入されたことによって、1学年あたりに携わる教員数を増やす必要があっても、地域や学校によっては専門教科を担当できる教員が不足する可能性もあります。文部科学省では2022年度から2025年度までの4年間に、毎年度950人の教員を増員することを予定していました。しかし、教員不足が深刻化したため、2024年度予算において2年分にあたる1,900人分の予算を計上し、当初の予定より前倒しして増員を図っています。

学びの質を高める教科担任制が拡大していく見込み

小学校のカリキュラムでは、外国語(英語)教科の新設やプログラミング教育の導入などが進められており、小学校教員に求められる指導の専門性が従来よりも高まっています。児童がこれからの時代を生きていく上で必要な思考力や知見を身につけ、中学校以降の学習への円滑な接続を実現する上で、教科担任制のメリットをできる限り引き出していくことが大切です。

2024年5月に公表された中央教育審議会「「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(審議まとめ)」では、小学校中学年についても学びの質の向上と教員の持ち授業時数の軽減の観点から、教科担任制を推進していくことが示されました。教科担任制を十分に機能させ、効果を引き出していくには、従来にも増してカリキュラム・マネジメントや教員間での連携・情報共有を推進していくことが求められています。小学校における教科担任制の課題を一つずつ着実に解決していくことが、学びの質を高める上で重要なアプローチとなっていくのではないでしょうか。

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