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Sky株式会社

公開日2024.08.20

教育ビッグデータとは? 重要視される背景やメリット、事例を紹介

著者:Sky株式会社

教育ビッグデータとは? 重要視される背景やメリット、事例を紹介

学習指導要領は、すべての子どもの思考力・判断力・表現力などを育成するために基礎的で基本的な知識・技能を活用する学習活動を重視するとともに、1人ひとりの特性や学習進度、学習到達度等に応じた「指導の個別化」と「学習の個性化」の両側面からの「個別最適な学び」の実現を目指しています。個の学習上の特徴やそれを踏まえた効果的な授業計画に役立つのが、日々の学習を通じて蓄積される「教育ビッグデータ」です。この記事では、教育ビッグデータが重視される背景や活用のメリット、具体的な活用例などを紹介します。

学習で使用するデジタル端末などを通じて収集される教育ビッグデータ

教育ビッグデータとは、日々の学習活動で使用するコンピュータやスマートフォン、タブレット端末などを通じて収集される、児童生徒の学習履歴や行動履歴などの膨大なデータのことです。これまでも、児童生徒の名前や学籍番号、試験の点数といった構造化データ(コンピュータと人が効率的にアクセスできるよう標準化されたデータ。主に行・列で構成される表形式で整理できるものを指す)は、これらは個別の学習状況の把握や、学年の平均点を算出するために活用されてきました。近年、1人1台端末の整備やクラウドサービスの活用が増えるなど、教育の情報化が大きく進んだことで、文章(テキスト)や音声・画像・動画などの非構造化データも収集・分析できるようになり、活用できるデータ量は飛躍的に増加しています。もちろん、教育ビッグデータには、スタディ・ログ(学習履歴データ)なども含まれます。

文部科学省の資料「教育データの利活用について」では、ICTを基盤とした先端技術や教育ビッグデータについて、「教師本来の活動を置き換えるものではなく、『子供の力を最大限引き出す』ために支援・強化していくもの」としており、さらに「多様な子供たちを『誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び』の実現」に向けて、教育ビッグデータなどの効果的な活用に大きな可能性があるとしています。

なお、上記のとおり教育ビッグデータは「教育データ」と表現されることもあります。この記事では、「教育ビッグデータ」と「教育データ」を同義のものとして扱います。

教育ビッグデータの具体例

教育ビッグデータと呼ばれるものには、具体的にどのようなデータが含まれるのでしょうか。教育ビッグデータは、大きく分けて「校務系データ」と学習者個人のスタディ・ログなどの「学習系データ」の2つがあります。それぞれの具体例は次のとおりです。

校務系データの例

  • 子どもの属性情報(名前、生年月日、性別など)
  • 学習評価データ(定期テストの結果、観点別評価、評定など)
  • 行動記録データ(出欠・遅刻・早退、保健室利用状況など)
  • 保健データ(健康診断の結果など)

学習系データの例

  • デジタル教科書・教材の参照履歴
  • 協働学習における発話回数・内容
  • デジタルドリルの問題の正誤・解答時間・試行回数など

なお、教育ビッグデータをうまく活用するには、サービス提供者と利用者が収集するデータの種類や単位を統一することが大切です。例えば、異なる自治体や学校で使われるシステムのデータが同じ意味を持ち、簡単に交換や分析ができるようにする必要があります。そのため、「データの標準化」を進め、スタディ・ログなどのデータをどのように使うかについて考えることが重要です。

教育ビッグデータの今後の展望

これまでも教育ビッグデータは、教員が授業を行う際の判断材料にしたり、状況を理解したりするのに活用されてきました。GIGAスクール構想に伴い、高速大容量の通信ネットワークの整備、児童生徒へ1人1台端末の整備が進められた結果、これまで以上に教育ビッグデータの蓄積が進んでいます。このような教育の情報化の進展に伴い、収集したデータを分析し、授業設計や個別最適な学びに生かす流れが生まれています。

例えば、これまで教員が一つひとつ読んで確認していた授業アンケートや質問、レポートなどの文字情報を、生成AIなどを使って分析することで、データをまとめることが可能です。また、蓄積された学習データなどを分析することで、児童生徒の興味や理解度をより深く認識し、それに基づいて指導方法や教材の改善に役立てられます。このように、教育ビッグデータをうまく活用することで、個に応じた指導がより具体的に行えるようになると期待されています。

教育ビッグデータが重視される理由

今後の活用が期待される教育ビッグデータですが、なぜここまで重視されているのでしょうか。教育ビッグデータが重視される理由には、以下の4つが挙げられます。

Society 5.0時代に求められる能力の育成

国が目指す未来社会の姿「Society 5.0」は、仮想空間と現実空間の融合により経済発展と社会的課題の解決を目指す社会のことです。こうした社会に求められる力は、効率よく単純作業ができる能力よりも、「飛躍的な知の発見・創造など新たな社会を牽引する能力」や「読解力、計算力や数学的思考力などの基礎的な学力」です。こうした資質・能力を身につけるためにも、教育ビッグデータに基づいた「個別最適な学び」が求められており、注目が集まっています。

社会構造の変革

近年、ICTの発展やAIの定着により、社会構造やビジネスモデルも変化しています。一般企業や社会全体で、1人ひとりの活動に関するデータ(リアルデータ)を利用した革新的サービスや、ビッグデータ・AIの発達による新たなビジネスの拡大などが進むなか、学校教育においても教育ビッグデータの活用が重視されるようになりました。

雇用環境の変革

AIやロボット技術の発展により、単純労働については自動化が進んでいます。これにより、人間は創造性・協調性が必要な業務や非定形な業務を担うことになり、雇用環境の変革が進みました。こうした業務に必要な能力を育む上で、教育ビッグデータが非常に有効だとされています。

子どもたちの多様化

海外にルーツを持つ子どもや発達障害や知的障害を持つ子ども、経済的に困難な状況にある子どもなど、教育対象となる児童生徒たちの特性が多様化していることも、教育ビッグデータが重視される理由の一つです。子ども1人ひとりの状況をつぶさに確認できる教育ビッグデータは、多様化する子どもたちを誰一人取り残すことのない個別最適な学びの実現に役立ちます。

教育ビッグデータを活用するメリット

あらゆるシーンでの活用が期待される教育ビッグデータですが、活用することでどのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは教育ビッグデータを活用するメリットについて紹介します。

学びの個性化に向けた、データ活用による学習のサポート

教育ビッグデータを活用することで、児童生徒ごとに学習方法を個別最適化できることがメリットとして挙げられます。教育ビッグデータは、小・中・高等学校の学校段階や、使用するサービスやソフトウェアなどにかかわらず、学習内容をデータ化して記録することで児童生徒が自らの学びを振り返る際に役立ちます。児童生徒が自分で苦手な単元やミスする傾向を理解できれば、自分に適した教材や学習方法を選べ「学びの個性化」に役立てられます。

学校教職員による個に応じた指導に生かす

教育ビッグデータは、教員による指導の改善にも役立ちます。児童生徒1人ひとりのスタディ・ログなどを活用することで、学習指導の個別最適化、つまり「個に応じた指導」がより具体的に行えるようになります。例えば、何らかの課題を抱えている児童生徒を早期に発見したり、受け持つ児童生徒に適した教材を見つけたりするといった活用効果があるといわれています。

新たな知見の創出・政策への反映

蓄積された教育ビッグデータを分析することで、教授・学習法などについて新たな知見の創出や、政策への反映・EBPM(客観的な根拠を重要視した教育政策)の推進が可能になることもメリットだといわれています。教育政策の立案・実施にあたり、データに基づいた現状理解や、それを踏まえた効果検証が十分ではなかったという指摘もあります。現在は、教育データサイエンス事業として、国・自治体におけるデータに基づく教育施策の実施やデータを活用した新たな研究による知見の創出が可能となるよう、国の教育データや研究成果を集約・公開し、分析・研究等を行える「公教育データ・プラットフォーム」を構築し、教育データを利活用して政策・実践を改善する仕組みが構築されています。

教育ビッグデータを活用する際に留意すべき点

教育ビッグデータは適切に活用できれば、学校教育の発展に大きく貢献すると予想されています。しかし、教育ビッグデータを活用するにあたって注意すべき点もあります。教育ビッグデータを活用する際の留意点は、以下のとおりです。

個人情報の取り扱いに配慮する

教育ビッグデータは、児童生徒の記録を大量に集めたものです。中には、児童生徒の個人情報が含まれているため、取り扱いに十分な注意が必要です。教育ビッグデータの活用にあたっては、NTTラーニングシステムズ株式会社が2023年3月に公開した「教育ビッグデータに関する仮名加工・匿名加工ガイドライン(案)」が参考になります。同ガイドラインは、スタディ・ログを仮名加工して内部分析を行ったり、社会に広く共有したりすることで、学習支援の新たな仕組みづくりなどの研究開発に活用することを想定し、教育ビッグデータの取り扱いに関する手続きと、仮名加工・匿名加工の手法についてまとめたものです。なお、同ガイドラインには、令和3年改正個人情報保護法までの内容が反映されています。

データの収集や分析が偏らないようにする

収集した教育ビッグデータに偏りがあると、正確な分析をできません。収集するデータの標準化や整備に注意する必要があります。AIのアルゴリズムには、作り手の先入観などが無意識のうちに混ざり込んでしまう場合や、さまざまな事象を単純化・定式化することによって複雑な背景などが十分考慮されていない場合があることが指摘されています。従って、データの収集・分析方法が不明瞭なまま、データの結果だけをうのみにすることは、解釈に偏りを生じさせることになりかねません。

データの基となっている各人の事情は、必ずしもすべてデータで把握できるとは限らないことに留意してデータを利活用していく必要があります。また、分析データおよび分析データから得られた知見を広く共有することも重要です。

教育ビッグデータの活用事例:岡山大学と長野県高森町が連携し教育ビッグデータを収集・解析

教育ビッグデータの活用は世界中で進められており、日本でも教育ビッグデータの活用の取り組みが行われています。ここでは、岡山大学が長野県高森町と連携して実施した、教育ビッグデータと子どもの学習意欲に関する検証事例についてご紹介します。

e-ラーニングシステムを社会実装し、学習効果の可視化を実施

漢字や英単語には反復学習による定着が必須ですが、児童生徒が完全に習得するまで年間を通じてサポートする仕組みは、これまで存在していませんでした。そのため、学習の定着度を客観的に見分けることが難しく、特に学習意欲が低い児童生徒の場合は学習効果が出にくい傾向がありました。

そこで、長野県高森町では、岡山大学大学院教育学研究科の寺澤孝文教授が確立したe-ラーニングシステムを社会実装し、学習効果の可視化による意欲と成績の向上を実現しています。このe-ラーニングシステムは、学習やテストのスケジュールを年単位で緩やかに制御し、高精度の膨大な学習データ(高精度教育ビッグデータ)を収集・解析するものです。

成績のグラフをフィードバックすることで学習意欲が向上

e-ラーニングシステムの活用により可視化された、学習するほど成績が向上することを示したグラフをフィードバックし、自主学習態度に対するアンケートを行ったところ、フィードバックの回数に応じて学習に対する意欲が向上することが明らかになりました。こうした傾向は、開始当初の学習意欲が著しく低い児童生徒に顕著に表れることもわかっています。また、「2秒に満たない学習で語彙力は確実に伸びていく」「同じ英単語は1日に5回を超えて反復しても実力には効果を持たない」といった事実も判明しました。

海外の教育ビッグデータの活用事例

海外でも、教育ビッグデータの活用が進んでいます。ここでは、イングランド、アメリカ、中国の活用事例をご紹介します。

イングランドの活用事例:学校マネジメントや学校評価のほか、授業の設計や個別指導にも活用

イングランドでは、各学校において児童生徒、教員、学校管理に関するデータを蓄積し、学校マネジメントや学校評価に利用しています。また、教育水準局(Office for Standards in Education)は、各学校のデータを活用して学校評価を行っており、教育ビッグデータを教育改善に生かしている事例の一つです。

また、各学校では、MIS(Management Information System)と呼ばれる校務支援システムに子どもの出欠や課題の提出状況、成績、所見等の学習活動に関するデータが日常的に入力され、蓄積されています。MISには、さまざまな条件でデータを抽出して相関を見るといった分析機能や、声がけが必要と思われる子どもを自動的にリストアップする機能があり、教員の授業の設計や個別指導に活用されています。

アメリカの活用事例:州ごとに異なるカリキュラムの比較や授業設計、指導などに活用

連邦制のアメリカでは、初等中等教育は各州の権限下にあり、州ごとの取り組みは州間のデータ比較ができませんでした。そこで、2009年にCEDS(共通教育データ標準)と呼ばれる連邦プロジェクトが始まり、未就学児教育から企業内研修までのすべての分野における用語の定義やID体系を整理し、データの標準化が行われました。CEDSでは、1,700を超える用語が定義されています。

また、州ごとに異なるカリキュラムを持つアメリカで相互の比較ができるよう、数学と英語で共通のカリキュラム標準として「Common Core State Standards」が策定されました。さらに、イングランドのMISに似た取り組みであるSIS(Student Information System)と呼ばれる生徒情報システムに子どものさまざまなデータを蓄積し、授業の設計や指導、退学の予兆を察知して早期対処することなどに活用されています。

中国の活用事例:3億件を超える設問ビッグデータを基にした宿題支援アプリなどに活用

中国におけるインターネット使用者は2020年12月時点で9.89億人、普及率は70.4%に達しており、全国の小・中学校における普及率は99.7%に達したと発表されています。新型コロナウイルス感染症が拡大した際には、科学技術を使って教育分野にイノベーションを起こす事業を行うEdTech(EducationとTechnologyを組み合わせた造語)が一気に普及しました。

中でも利用者数が多いのが、中国大手IT企業のバイドゥが出資するオンライン教育プラットフォーム「Zuoyebang(作業幇)」です。Zuoyebangの宿題支援アプリでは、小・中・高校生が宿題の設問をスマートフォンで撮影し送信すると、3億件を超える設問ビッグデータを基にAIが内容を解析し、解答を数秒で返信します。併せて、類似の練習問題なども提供し、理解度向上を支援することが可能です。アプリ使用料は無料で、講師による解説を希望する場合のみ有料サービスとなります。

「Zuoyebang」のビジネスモデルは、宿題という反復行為に関して、ユーザとのやりとりを記録・分析することでアドバイスの精緻化と、コンテンツ拡大を図るものです。すでに、個々の利用者の苦手分野や理解の仕方などに応じたアドバイス、練習など(アプリ・有人)を提供しているほか、学校別の過去データ分析も行い、定期テスト向けの予想問題なども提供しています。

個別最適化した教育の実施に役立つ教育ビッグデータ

学校・教育現場で収集できる多様な情報を大量に蓄積した教育ビッグデータは、アイデア次第でさまざまな活用が可能です。学習指導要領に基づく児童生徒の資質・能力の育成に向けた「個別最適な学び」の実現にも役立ちます。うまく活用することで、個別最適な学びにつながる教育ビッグデータですが、個人情報漏洩の問題や、データの偏りによる問題などを踏まえて活用していくことが大切です。今後、さらに情報化が進むなかで、これまで以上に教育ビッグデータに注目が集まることが予想されます。

ICTを活用した学習活動を支援する「SKYMENU Cloud」

GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台の端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」や多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。