教育関係者以外では「オルタナティブ教育」について詳しくご存じの方は、まだそれほど多くないかもしれません。「オルタナティブ」とは「代替の」「新たな選択肢」という意味で、オルタナティブ教育を実践するオルタナティブスクールは、学校教育法第一条で定められた学校(一条校)とは違い、独自の教育理念と方針に基づいて運営される教育機関のことを指します。この記事では、オルタナティブ教育の概要と種類、オルタナティブスクールのメリット・デメリットについて紹介します。
オルタナティブ教育とは、主流の教育の代わりに新たな選択肢となり得る教育のこと
オルタナティブ(alternative)は、「代替の」「二者択一の」という意味を持つ英語に由来する言葉です。そこから派生して「現在、主流となっているものの代わりとなり得る、新たな選択肢」という意味で使われます。
「オルタナティブ教育」も、主流・伝統とは異なる教育を意味します。多くの場合は学校教育法などの法的根拠を有さない非正規の教育機関で行われる教育を指し、これらは「非伝統的な教育」「教育選択肢」とも呼ばれます。オルタナティブ教育では、子どもたちの主体性を重んじ、1人ひとりの個性を尊重した学習が行われます。また、大人は勉強や知識を教える「教師」という認識ではなく、子どもたちを支える「スタッフ」という考えに基づいて、コミュニケーションが行われることが一般的です。
オルタナティブ教育の種類
オルタナティブ教育においては、子どもたちの個性や主体性を重視することを前提に、一般の学校(一条校)では実施しにくいような新しい教育方針を掲げて取り組むことが少なくありません。ここでは、学習指導要領ではなく独自の理念による教育方針に基づいて行われる、さまざまな種類のオルタナティブ教育を紹介します。
シュタイナー教育:1人ひとりの個性を尊重し、個人の持つ能力を最大限に引き出す教育法
シュタイナー教育は、ドイツの哲学博士ルドルフ・シュタイナー氏によって1919年に考案された教育法です。「自由への教育」と呼ばれ、「自由な自己決定」ができる人間を育てることを目的としています。この教育では、人間の成長を7年周期で捉えます。その考えに基づき、体→心→頭の順に育てることに重点を置いているのが特徴です。これにより、意志と感情と思考がバランスよく調和し、自由に力を発揮できる人へと成長していくことをめざします。
モンテッソーリ教育:子どもが自ら育つ自己教育力を発揮できるようサポートする教育法
モンテッソーリ教育は、イタリアで医師であり教育家であったマリア・モンテッソーリ博士が1907年に考案した教育法です。「自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てる」ことを目的としています。モンテッソーリ教育の前提となっているのは、「子どもには、自分を育てる力が備わっている」という「自己教育力」の考え方です。モンテッソーリ教育では、この自己教育力を存分に発揮できる環境と自由が保障された中で、子どもたちの自発的活動を促します。
レッジョ・エミリア教育:子どもの興味や考えを大切にし、想像力や表現力を育む教育法
レッジョ・エミリア教育は、イタリアの教育者であり心理学者でもあったローリス・マラグッツィ氏によって考えられた教育法です。北イタリアのロマーニャ地方に位置するレッジョ・エミリア市から広まったことから、その名がつきました。レッジョ・エミリアの教育アプローチは、「子どもは100の言葉を持っている(無限の可能性がある)」というローリス・マラグッツィ氏の教育理念を基にしています。子ども1人ひとりが持つ可能性を尊重し、子ども自身の興味や考えを大切にしながら学びの場をつくり、想像力や表現力を育むことを目的とし、子どもたちがアートを楽しんだり、自ら活動テーマや方法を決めたり、写真や動画で活動記録を残したりといった活動を行います。
ドルトンプラン教育:自由と協同の原理に基づき、自主性や創造性を育む教育法
ドルトンプラン教育は、1908年にアメリカの教育者であるヘレン・パーカースト氏が提唱した教育法です。1919年、マサチューセッツ州にあるドルトンという町に学校を創設し、その後、ニューヨークに移設されて以来、幼児から高校生までの一貫教育の場として数多くの人材を世に送り出してきました。ドルトンプラン教育は、「子どもたちの自主性と創造性を育む自由の原理」と「多様な価値観を受け入れ社会性と協調性を育む協同の原理」という2つの原理に基づいています。そして、それらを具体的に教育法に落とし込むための「ハウス(家庭的教室)」「アサインメント(約束)」「ラボラトリー(研究・実験室)」という3つの柱からなっています。
サドベリー教育:自由度が高く子どもの主体性を伸ばせる教育法
サドベリー教育は、1960年代にアメリカのサドベリー・バレー・スクールで生まれた教育法です。「学びたいと感じれば自ら学ぶ」を教育理念とし、時間割・クラス・学年・授業・テストがなく、「自分がやりたいことをとことん追究したい」という子どもの興味関心が向くまま学習を進められるのが大きな特徴です。また、サドベリースクールには教員がおらず、代わりにスタッフ・メンバーと呼ばれる大人が子どもたちと共にディスカッションしながら学校の運営を担うので、子どもたちが学校の自治に主体的に関われるという特徴があります。
フレネ教育:自主性や表現力を高めることを重視した教育法
フレネ教育は、フランスの小学校教師であったセレスタン・フレネが提唱した教育法で、子どもたちの生活や興味から出発した、自由な表現による学習を重視しているのが特徴です。日常の生活の中での出来事や印象を短くつづった「自由作文」や、子どもたちによる自治組織の「学校共同組合」ではお金の管理も任せるといった取り組みが実践されます。
イエナプラン教育:1人ひとりを尊重しながら自律と共生を学ぶ教育法
イエナプラン教育は、ドイツにあるイエナ大学のペーター・ペーターセン氏によって提唱され、オランダで広がった教育法です。子どもが自ら考え、行動する自発的な態度や、他者を尊重し、互いに協力し合う姿勢の育成をめざしています。「対話」「遊び」「仕事(学習)」「催し」の4つの基本活動を軸とし、学年をまたいだグループによる学級構成、リビングルームとしての教室づくり、ワールドオリエンテーション(総合学習)の実施などが、イエナプラン教育の取り組みの特徴です。
オルタナティブスクールが生まれた背景
オルタナティブスクールは、オルタナティブ教育を取り入れた学校の総称です。明確な定義はありませんが、いわゆる一条校以外の、従来とは異なる運営制度や進級制度、教科科目などを設けた学校を指し、フリースクールやホームスクールを含むこともあります。
日本でオルタナティブスクールが生まれた背景には、不登校の子どもの増加があります。文部科学省が2023年10月に公表した「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」によると、2022年度の全国の小・中学校から報告のあった不登校の児童生徒の数は299,048人と過去最多でした。こうした状況を受けて、国は不登校の子どもを無理に学校に戻すのではなく、多様な教育の選択を認める方針に転換しています。不登校や引きこもりになった子どもに対する、新たな選択肢としてオルタナティブスクールが位置づけられています。
オルタナティブスクールのメリット
従来の教育とは異なる、新たな選択肢として注目を集めているオルタナティブスクールですが、どのようなメリットがあるのでしょうか。オルタナティブスクールの主な5つのメリットを紹介します。
子どもの自主性を育てられる
オルタナティブスクールでは、子どもたちの好奇心や興味関心に基づいて学習プランやルール、行事を決めることが少なくありません。プランやルールを決める際にも、先生が一方的に決めるのではなく、まず子どもたちの自主性が尊重されます。こうした環境を用意することで、子どもたちが自ら考える姿勢を育てられるのがオルタナティブスクールのメリットといえます。
個性や多様性を重視できる
多くのオルタナティブスクールでは、人はそれぞれ個性が異なるという前提により、学ぶ内容・時間を柔軟に変更しながら、個性や多様性を重視する教育を行っています。得意なことや好きなことに時間を費やせるため、子どもたちの個性を伸ばしやすくなるのがメリットです。
体験型の学習が多い
オルタナティブスクールには学習指導要領に則したカリキュラムではなく、子どもたちの興味関心に基づく体験型学習も多く行われます。子どもたちは演劇、工作、農業、料理などを通じて、実践的なスキルや知識を身につけられるのも、オルタナティブスクールのメリットだといえます。
少人数かつ幅広い年齢のクラス編成で学べる
オルタナティブスクールは少人数の学校が多く、1人ひとりに対して教員(スタッフ)が丁寧に接することができます。また、年齢の異なる子どもが一緒に学ぶ機会が多く、日常的に自分より年上・年下の子どもたちと接することになるため、コミュニケーション能力やリーダーシップを育めるのも、オルタナティブスクールのメリットといえます。
学校になじめない子どもの受け皿になり得る
不登校の子どもや、講義形式の授業が苦手といった発達特性を抱える子どもにとって、オルタナティブスクールが受け皿となり得ることもメリットだといえます。少人数の授業や対話式の学びを提供し、一般的な学校になじめない子どもたちが安心して学べる環境を提供できます。
オルタナティブスクールのデメリット
一方、オルタナティブスクールにはデメリットも存在します。オルタナティブスクールの主なデメリットを紹介します。
スクール数が少なく、通える範囲が限られる
オルタナティブスクールは、日本ではまだ一般的な学校ではなく、スクールの数も全国で400~500校と限られていることがデメリットです。特に都市部以外では、通える範囲にスクールがないケースも少なくありません。そのため、住んでいる地域によっては、スクール選びの選択肢が狭まる可能性があります。
認可校が少なく出席扱いとならないケースが多い
オルタナティブスクールは、学校法人として運営されているのはごく一部にとどまり、多くの場合が文部科学省の認可を得ていません。そのため、法的に出席扱いとならないという課題があることもデメリットの一つです。そのため、一般的には地元の公立学校に籍を置き、欠席扱いとして通うという方法を採ることが多いのが実情です。
学費が高額になることが多い
認可校が少ないため、ほとんどのオルタナティブスクールは公的な資金援助を受けていません。そのため、学費は保護者が全額負担する必要があり、家庭の費用負担が大きくなるのがオルタナティブスクールのデメリットです。これにより、金銭的に余裕のある家庭の子どもしか通えないという問題が生じています。
中学卒業後の上級学校が少ない
オルタナティブスクールには、小・中学校までの教育は提供していても、高等学校まで併設している学校はほとんどありません。スクールに通う生徒が高等学校へ進学する際は一条校に入学する必要があり、この点もオルタナティブスクールのデメリットの一つとなっています。
学校によって教育方針が大きく異なる
オルタナティブスクールは、掲げている教育方針・理念が各スクールによって大きく異なるのもデメリットといえます。学校選びの際には、教育方針やカリキュラムを十分に確認し、子どもに合った環境を選ぶことが重要であり、入学前のリサーチ・確認が欠かせません。
オルタナティブ教育で、学校になじめない子どもたちに「もう一つの選択肢」を
オルタナティブ教育とオルタナティブスクールは、既存の教育や学校とは異なる「もう一つの選択肢」として重要な存在です。自主性を尊重し、多様性を積極的に認めながら個性を伸ばすという方針により、一般的な学校になじむのが難しい子どもや、枠に収まり切れない子どもに学びの場を提供します。これからの教育において、オルタナティブ教育が果たす役割が大きくなるともいわれています。
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