児童生徒を主体とした学習活動を実践する上で、重要な評価の一つが「形成的評価」です。単元や学期の終わりに行う総括的な評価とは異なり、学習過程の中で次の活動が適切に行われるように修正が必要な部分を確認するために行われる評価です。この形成的評価は「個に応じた指導」や「指導と評価の一体化」に役立つ評価方法として注目されています。この記事では、形成的評価の考え方や診断的評価・総括的評価との違い、進め方のポイントを説明します。
形成的評価とは、児童生徒の学習の過程で行われる確認のこと
学習の効果を高めるためには、学習目標に照らして児童生徒の学習がどのくらい進んでいるのかを確認しながら個に応じた指導を行うことが大切です。このように学習過程の途中段階において行う評価のことを形成的評価といいます。形成的評価は、指導内容の結果によって児童生徒にどのくらいの学習成果が見られるかを判断するのに、適した評価だとされています。
形成的評価の考え方
形成的評価の考え方には、教育心理学者であるB.S.ブルームが提唱した「完全習得学習(マスタリーラーニング)」と、その理論的根拠となった心理学者のJ.B.キャロルによる「学習に関する時間モデル」があります。ここでは、それぞれの考え方について解説します。
キャロルの時間モデル
キャロルは、児童生徒の個人差を「学習に必要な時間と学習に使った時間の差」として捉えることで、従来の知能による個人差の固定概念に見直しを迫りました。個々の児童生徒にとって最適な教授・学習法で、十分な時間が与えられるならば、学習目標は完全にマスターできると主張しました。つまり、「児童生徒を落ちこぼれにする」原因は、時間と教授・学習法に問題があると考えたのです。このキャロルの考えは、ブルームの完全習得学習の原点となっています。
ブルームの完全習得学習(マスタリーラーニング)
ブルームの提唱した完全習得学習とは、「十分な時間と適切な学習環境さえ与えられるなら、どの児童生徒も同じ学習内容を完全に習得することが可能」という考え方と、そのために行う授業計画のことを指します。例えば、1人の教員が児童生徒全体に向けて行う一斉授業で、学習内容を完全に習得できる児童生徒は、どのくらいいるでしょうか。授業中に「よくわからなかったけど、質問する時間がなかった」といった経験は、誰にでもあると思います。適切な指導と十分な時間がないために、習得できるはずの学習内容を身につけられず、授業がつまらなくなっていく。こうした学校教育の課題を解決するために考案されたのが、完全習得学習です。完全習得学習における評価は、以下の3つに分類されています。
診断的評価
診断的評価は、学習を始める前に児童生徒の学習状況を把握するための評価です。1人ひとりの児童生徒に適した指導を行うために、基礎的な知識・技能のレベル、学習内容に関する興味関心の傾向などについて調査を行います。その結果に基づいて、単元(題材)の指導計画を作成したり、授業の構想を練ったりします。
形成的評価
形成的評価は、学習過程の途中段階において、児童生徒の学習到達度を評価するものです。この結果に基づいて、その後の授業内容や指導方法などの計画を修正します。1人ひとりのつまずきを把握し、個に応じた指導を行うことで、事前に設定した目標を全員が達成できるとされています。授業中の児童生徒の様子を観察して適切な声かけをしたり、授業の進め方を修正したり、補充指導をすることは、形成的評価と指導が一体的に進められている例といえます。
総括的評価
総括的評価は、一連の学習過程を終えてから行う評価です。テストやレポートなどで学習の成果を確認し、学期や学年のごとの学習を総合的に評価した上で、次の学習や指導に生かします。
完全習得学習の手順
ブルームが完全習得学習の考え方や計画を適切に進めるために、主に8つの手順が想定されています。完全習得学習で想定される手順は、次のとおりです。
完全習得学習の手順
- 学習する単元の目標を明確にし、すべての児童生徒が習得するべき学習内容(最低到達水準)を具体的に記述する。
- 主要な目標を、より細かな下位の目標群に分ける。
- 児童生徒の興味関心や既有知識などから、適性を評価(診断的評価)。それに合わせて、下位目標を達成するために最適な教材や考え方を選ぶ。
- 一定の学習活動の後、児童生徒の個々の習得状況を評価(形成的評価)し、それぞれの児童生徒のつまずきを把握する。
- 十分に習得している場合、児童生徒にそれを伝え、学習内容を強化する。
- つまずいている児童生徒には、補習的指導を行う。
- 事前に設定した最低到達目標に達しない限り、次の目標には進まない。
- 活動と形成的評価、補習的指導を繰り返し、単元の学習が終わった後で総括的評価を行う。
完全習得学習では、児童生徒が学習内容を習得する前に次の学習目標に進むことなく、全員が設定された目標を完全に習得していくことをめざします。この手順は授業の中で行われる形成的評価にも応用されており、授業単位を細かく分けて、児童生徒がどのくらい理解しているのかを何度も評価し、理解の程度などを児童生徒にフィードバックした上で、個別に補習的指導を行い、全員で最終的な授業目標への到達をめざします。
形成的評価の実践方法
形成的評価の目的は「児童生徒の学習到達度を確認すること」と「教員が授業改善を行うこと」です。では、実際の授業で取り組む場合、どのような方法があるのでしょうか。ここでは、形成的評価の具体的な実践方法を紹介します。
振り返りシートを活用する
形成的評価の実践方法の一つは、振り返りシートを活用することです。授業の終わりに5分間ほどの振り返りの時間を設け、振り返りシートに記入することが学力の定着に効果的だといわれています。この振り返りの記述は、形成的評価の有効な資料となります。学習のねらいを達成できているか、授業で学んだことや理解できなかったことなどを振り返り、自分が何を考え、何を理解しているのかという点も含めて振り返りシートをまとめることで、形成的評価のための材料を得られます。
ポートフォリオを作成する
ポートフォリオの作成も、形成的評価の実践方法の一つとして挙げられます。学校教育におけるポートフォリオとは、教員からのフィードバックを前提に、児童生徒の学習成果物や活動、自己評価、教員の指導、評価などの記録を蓄積し、学習活動や教育活動を見えるようにしたものです。これらの記録を教員の評価基準やねらいに応じて系統的に整理することで、児童生徒の学習改善や教員による学習状況の把握につなげられます。
提出物やテストにフィードバックを添える
児童生徒の提出物やテストなどに教員がフィードバックすることも、形成的評価の実践方法の一つです。授業中に児童生徒全員に声かけをするのは簡単ではありません。そうした場合に、提出物やテストにコメントを書き添えるなどしてフィードバックすることは、これまでも多くの教員が行っています。
児童生徒に対するフィードバックの例
- 自主学習ノートへのフィードバック例
テーマの選び方や書き方を評価する、工夫している点をほめる - レポートへのフィードバック例
児童生徒の考え方に対して良い点、改善点を記入する - テストの採点へのフィードバック例
◯や✕だけでなく、どう記述するべきかを書き添えるなどして返却する
提出物やテストを児童生徒から教員への一方通行にせず、教員からのフィードバックを行うことが、児童生徒の学びの変化を促します。つまり、フィードバックを行うことは、児童生徒の形成的評価に直結するといえます。
形成的評価を行う際のポイント
学校教育において、児童生徒が自ら学び、自ら考える力を育むことはとても大切です。そのために、形成的評価により児童生徒1人ひとりのつまずきの原因を把握し、それを解消したり克服したりするための指導を行うことで、児童生徒の確かな学力を定着することが重要です。
また児童生徒が、自分の学習状況を理解し、目標を持って主体的に取り組むためにも、つまずきの原因を自分で把握できるようになることが重要です。児童生徒の主体性を育むには、単元目標と、それを達成するのに必要となる下位目標を児童生徒と共有しておくことが効果的です。そのために目標を分析的、段階的に示した評価指標(ルーブリック)を児童生徒と共同で作成するなどし、教員との間で共有することで、適切な形成的評価につなげられます。
形成的評価の視点を生かせば、児童生徒の主体的な学びを育める
形成的評価は、学習過程において児童生徒の学習到達度を評価し、その結果に基づいて授業内容や指導方法の改善に役立てるものです。学習目標を達成するために、評価と指導を繰り返す「指導と評価の一体化」の視点が欠かせません。児童生徒の資質・能力を向上させていくために形成的評価に取り組み、児童生徒の主体性を育むことが求められています。
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