アサーションとは? 意味や重要性、身につけるためのポイントをわかりやすく解説
「自分も相手も大切にする自己表現」という意味で使われることが多い「アサーション」という言葉をご存じでしょうか。社会の多様化や雇用形態の変化などを背景に、人間関係の構築が重視される今、再び注目されているアサーションについて、成り立ちや今あらためて注目されている理由、身につけるためのポイントについて紹介します。
アサーションとは何か?
「アサーション」は心理学用語であり、より良い人間関係を構築するためのコミュニケーションスキルの一つとして、日本では「自分も相手も大切にする自己表現」と説明されることが多い言葉です。一般に英単語のAssertionは「主張」や「断言」などと訳されます。しかし日本語の主張や断言には、自分の意見を表出して通すというような強いニュアンスがあるため、心理学やコミュニケーションの分野では、区別するためにカタカナで表記されています。
つまり、相手の主張を否定したり、自分の意見を押し通したりするのではなく、話す人と聞く人がお互いに尊重し合って対等な関係を築き、心理的安全性を担保しながら率直に互いの主張を交えるのがアサーションだといえます。
アサーションの起源
アサーションの概念は、神経症の行動療法の父と呼ばれたジョセフ・ウォルピが行動療法として「アサーショントレーニング」を開発し、1950年代にアメリカ国内で心理療法に取り入れたことが始まりだといわれています。当初、アサーションは自己主張に苦手意識を持つ人を対象に、コミュニケーション力向上のためのカウンセリング技法として実施されました。
その後、1960年代に入るとアメリカでは、人種差別撤廃を訴える公民権運動や婦人解放を目指したウーマン・リヴ運動などが活発化。しかし、これらの差別問題において、コミュニケーションに関する弊害が表面化しました。そのために、誰もが自己表現する権利を有するという基本的人権を前提とし、相手を尊重しながら自己表現を行う話法として広まったといわれています。
アサーションが注目される理由
日本でアサーションの概念が取り入れられたのは1980年代に入ってからです。一時は、新しいコミュニケーションスキルの一つとして注目されたものの、日本独自の「あうんの呼吸」に代表されるハイコンテクスト文化が土台にあったことから、大きな広がりを見せることはありませんでした。
しかし、2000年代以降の社会の多様化や雇用形態の変化によって、これまで以上に人間関係の構築が難しくなるなか、再びアサーションの大切さが認識されるようになっています。学校教育においても、2010年に策定された「生徒指導提要」(2022年に改訂)の中で「教育相談でも活用できる新たな手法等」の一つとして「アサーショントレーニング」が紹介されました。児童生徒たちと接する上で、なぜアサーションが大切だといわれているのでしょうか。
互いの意見や価値観を尊重する
学校に限らずさまざまな場面で、子どもの言動に対して自分が嫌だと感じたとしても、「子どもがしたこと」といって我慢をした経験がある人は、少なくないと思います。しかし、子どもか大人かにかかわらず、一人ひとりは互いに異なる人格があり、それぞれの価値観や意見を持つ存在です。それを適切に伝えるためにも、児童生徒の意思や人格を尊重しながら、大人である自分の気持ちを率直に伝えることが大切です。
無意識の人権侵害を防ぐ
一般的に、立場や年齢、知識、経験などに大きな差があれば、無意識のうちに上下関係が生じます。それは学校における教職員と児童生徒の関係でも同様です。十分に自己表現ができない児童生徒に対して、一方的に意見を押しつけるような言動をすれば、無意識のまま児童生徒の人権を侵害することにもなりかねません。相手(児童生徒)にも自己表現する権利があることを前提に立つことが求められます。
児童生徒の自尊心を高める
自分の意見が尊重されることと、自分を対等の相手として率直に意見を伝えてもらうこと、その両方が自尊心を高めるといわれています。その意味で、児童生徒が「自分は、一人の人間として尊重されている」と実感することは、児童生徒の自尊心につながります。また、その経験を通じて児童生徒自身がアサーションを身につけることで、友達や周囲の人たちとのコミュニケーションを円滑にし、より良い関係を築くことができるようになります。
3つの自己表現タイプ
アサーションの観点で見たとき、自己表現は主に「アグレッシブ(攻撃型)」「ノンアサーティブ(非主張型)」「アサーティブ(バランス型)」の3つに分類されます。これらは、それぞれ自己尊重と他者尊重の比重の違いともいえます。
アグレッシブ(攻撃型)
自己尊重の比重が高く、他者を尊重しない自己中心的な表現は「アグレッシブ(攻撃型)」とされます。自分の意見や気持ちは明確に主張する一方で、相手の主張を軽んじる傾向があり、時に強い口調で話したり、人を小ばかにするような表現を用いたりすることもあります。穏やかな口調であっても、自分の意見を一方的に押しつけるようなケースもアグレッシブとされます。
ノンアサーティブ(非主張型)
逆に他者尊重が強く、自分以外を優先するために自分の意見を表明しない場合は「ノンアサーティブ(非主張型)」とされます。物事に受け身になり、相手に合わせたり言いなりになってしまったりする場合が該当します。周囲の目が気になって自己表現することを避けるあまり、自分の意見を軽んじる傾向がある一方で、内面に不満や不安を抱えていることも少なくありません。
アサーティブ(バランス型)
自分の気持ちや考え方を相手に伝えると同時に、相手の感情や意見を考慮し、その場にあった方法で自己表現することが「アサーティブ(バランス型)」とされます。相手の気持ちや考えは、自分のそれとは異なることを前提として、お互いに意見を出し合いながら納得できるようにコミュニケーションを図ります。自己尊重と他者尊重のバランスがとれ、長期的に良好な関係が築けるとされています。
アサーションを身につけるためのポイント
自分と他者の両方を尊重した見方や考え方ができるようになり、自身の考えをその場にふさわしい表現で伝えることでアサーションは成立します。では、どのようにすれば、アサーションを身につけることができるのでしょうか。ここでは4つのポイントをご紹介します。
自己表現の権利(アサーション権利)を理解する
アサーティブ(バランス型)なコミュニケーションのベースには、自他共に有する「自己表現の権利」という基本的人権を尊重することがあります。自分が感じたことや考えたことを、言葉で表現することは権利であり、他者の権利を侵害しない限りにおいて、その権利が保障されるということです。大切なのは、その権利は自分だけではなく、自分以外の他者も同様の権利を有することを認めることが前提になる点です。自分と他者の双方を尊重する経験の積み重ねによって、アサーティブな自己表現が身につきます。自分は「大切にされていい」「意見を伝えていい」という自尊感情と、相手は「自分を大切にしてくれる」「意見を聞いてくれる」という安心感や信頼があってこそ、他者を尊重する気持ちにつながっていくといわれています。
アイ(I)メッセージを心掛ける
具体的には、どのようなコミュニケーションを行えばいいのでしょうか。その方法の一つが「アイメッセージ」です。これは「私=I(アイ)」を主語にして考えを伝える表現方法です。コミュケーションの中で自己の主張を伝えるときに、無意識に「あなた」を主語にして語ることは少なくありません。「あなたは間違っている」「あなたはそれを止めるべきだ」と伝えると、相手は自分を否定されたと受け止めてしまいます。そこで、「私は○○してほしい」「私は○○○と感じている」というふうに、「私」を主語にすることによって、相手が受け止めやすいメッセージを心掛けることが大切になります。そうすることで、お互いに感情や考えを整理でき、異なる価値観を理解することにつながります。
ABCDE理論によって自分の認知を認識する
アサーションでは、自分の認知を適切に認識することが大切だとされています。その方法の一つが「ABCDE理論」です。これはアルバート・エリスが創始した論理療法のカウンセリング理論で、ABC理論とも呼ばれます。この理論では、「人の感情や行動(C:Consequence=結果としての感情や行動)」というものは、ある出来事(A:Activating Event=出来事や事象)によって直接的に引き起こされるのではなく、受け取り方(B:Belief=信念や捉え方、思い込み)によって引き起こされるといわれています。
このときに鍵を握るBは、合理的な受け取り方と非合理的な思い込みに分かれます。論理療法においては、非合理な思い込みを反論(D:Dispute=思い込みに対する反論)によって打破することで、より論理的な行動(E:Effect=反論によって得られる効果)を促します。例えば、初対面の人に会うとき(A)に、「嫌われてはいけない」という思い込み(B)が不安や緊張(C)を引き起こすと捉え、「ありのままの自分を知ってもらうことが大切」という反論(D)によって打破されることで、緊張感が和らぐ(E)という効果が得られます。
非言語メッセージに注意する
アサーティブなコミュケーションを行うには、非言語のメッセージにも注意することが大切です。人の考えや感情は、言葉が持つ意味だけではなく、表情や身ぶり手ぶり、声の大きさやトーンなどにも表れます。例えば、「楽しかった」という気持ちを伝える際に、うつむきながら小さな声でボソボソと伝えても、自分の意図どおりに気持ちが伝わらないのではないでしょうか。視線や姿勢、表情、声のトーン、相手との距離など、言葉以外の表現にも気配りすることが大切です。また、相手が発する非言語メッセージにも注意することで、相手の考えや感情を適切に受け止められるようになります。
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