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Sky株式会社

公開日2024.10.18更新日2024.10.21

インクルーシブ教育とは何か? 日本の現状と実践に必要なこと

著者:Sky株式会社

インクルーシブ教育とは何か? 日本の現状と実践に必要なこと

日本は、国連の障害者権利委員会より「障害者の権利に関する条約」の実施状況について「インクルーシブ教育の権利を保障すべきである」という勧告を受けました。このことであらためて注目が集まった「インクルーシブ教育」とは、障害や病気の有無、国籍、性別といったさまざま違いや課題を超えて、すべての子どもが同じ環境で共に学び合う教育のです。この記事では、インクルーシブ教育の概要や求められる背景、日本の現状や課題について整理しながら紹介します。

インクルーシブ教育とは何か?

インクルーシブ教育とは、障害や病気の有無、国籍、性別といったさまざま違いや課題を越えて、すべての子どもが同じ環境で共に学び合う教育のことです。2022年9月、日本は国連の障害者権利委員会より「障害者の権利に関する条約」の実施状況について「インクルーシブ教育の権利を保障すべきである」という勧告を受けたことで、あらためて注目を集めました。

「インクルーシブ(inclusive)」は、「包括的な」「包摂的な」と訳されることが多い形容詞ですが、「さまざまな人が参加できる」という意味でも使われる言葉です。ユネスコの「インクルージョンへのガイドライン(2005)」の中でインクルーシブ教育は、多様な子どもがいることを前提として、その多様な子どもたちが同じ場で学べる環境をつくるため、教育システムそのものを改革していくプロセスだと定義されています。インクルーシブ教育は「障害のある子どもと障害のない子どもが同じ環境で学ぶ」という観点だけで語られることも少なくありませんが、より重要なのは、障害がある子どもを含む多様な子どもがいることを前提としているのかという観点で、学校教育の在り方そのものを見直すという点にあるといえます。

これまでの学校教育では

前述した障害者権利委員会の勧告では「強く要請する事項」として分離教育の中止やインクルーシブ教育を確実に受けられるための合理的配慮を保障することなど、具体的な指摘がされています。分離教育とは、障害や難病がある子どもとそうではない子どもを別々の環境で教育することです。

明治以前の日本では、障害のある子どもは教育の対象外でした。昭和時代になってから養護学校の義務化によって重度の障害がある子どもに対しても教育が行われるようになり、軽度の障害であれば普通学校に通うことも可能になりました。しかし、教室は別に設けるということが一般的でした。つまり、障害のある子どもとそれ以外の子どもを区別し、それぞれに合った教育を行うという考え方だったといえます。

しかしそれでは、障害のある子どもの人生経験や人間関係、社会経験を得る機会となる多くの人との交流が限定されてしまいます。一方、障害のない子どもにとっても、多様性を受け入れる経験を減少させてしまう可能性があります。

ぜ今、インクルーシブ教育なのか

インクルーシブ教育が注目されるのは、社会全体の多様性を尊重し、すべての子どもが平等に教育を受ける権利を保障する必要性が高まっているからです。その背景の一つに、SDGs(持続可能な開発目標)が挙げられます。日本でもさまざまな場面で語られることが増えたSDGsには、「誰一人取り残さない」「最も遅れているところに第一に手を伸ばす」という原則があります。

当然、教育分野もこの原則にのっとっており、目標4「質の高い教育をみんなに」は、すべての人たちが質の高い教育を受けられる環境を作ることを目標としています。その観点で考えるなら、障害や病気の有無だけではなく、貧困家庭やひとり親家庭という環境にある子ども、外国籍の子どもなどに対しても「誰一人取り残さない」という原則に基づいた、インクルーシブ教育が求められています。

インクルーシブ教育の日本における現状

日本におけるインクルーシブ教育に対する取り組みを振り返ると、前述の「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」(以下、文部科学省報告)が2012年7月に公表されており、2014年には障害者権利条約に批准しています。しかし、2022年に国連の障害者権利委員会から勧告がなされていることからも、まだ発展途上にあるというのが実情です。

例えば、バリアフリー対応などの学校設備が整っていないという課題があります。また、そのことによって教員にも「この環境に障害のある子どもを受け入れて大丈夫だろうか」という不安があります。また、十分な設備が整っていたとしても障害がある子どもを誰がサポートするのか、逆に過剰にサポートをしてしまうのではないかという課題もあります。前述のとおり、これまで日本の学校教育においては障害のある子どもとそれ以外の子どもを区別し、それぞれに合わせて教育を行うという分離教育が前提であったことから、学校設備などのハード面、教職員などのサポートなどのソフト面、その両方で課題を一つひとつ解決していくことが大切です。

インクルーシブ教育の実践に必要なこと

インクルーシブ教育を実践するには、どのような点に注意して推進するのがよいのでしょうか。文部科学省報告では、次のような観点を挙げています。

1人ひとりの特性に合わせた合理的配慮

教育基本法には「(前略)教育の目的が達成されるよう、教育を受ける者の心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行われなければならない(第6条第2項)」と定められています。従来の日本社会の平等観は、すべての人に同じ条件・環境を提供することに重きが置かれていました。しかし、同じ年齢の子どもでも心身の発達はそれぞれ違い、得手不得手があります。その中で共に学ぶには一人ひとりに合わせた合理的配慮が必要だとされています。

例えば、視力が弱く板書が読みにくい子どもがメガネをかけたり、前方の席で授業を受けたりすることも合理的配慮の一つです。インクルーシブ教育においても同様に、視覚障害のある子どもには点字教材を提供するなど、障害のある子どもがほかの子どもと同じように「教育を受ける権利」を享受できるようにするための配慮が求められます。

文部科学省報告の中では、インクルーシブ教育における合理的配慮について学校教育に求めるものを次のように整理して示しています。

  • 障害のある子どもと障害のない子どもが共に学び共に育つ理念を共有する教育
  • 一人一人の状態を把握し、一人一人の能力の最大限の伸長を図る教育(確かな学力の育成を含む)
  • 健康状態の維持・改善を図り、生涯にわたる健康の基盤をつくる教育
  • コミュニケーション及び人との関わりを広げる教育
  • 自己理解を深め自立し社会参加することを目指した教育
  • 自己肯定感を高めていく教育

専門性のある指導体制の確保

こうした合理的配慮には、環境の整備(基礎的環境整備)が欠かせないため、教員が1人で行えるものではありません。子どもたちが抱える困難な状態は1人ひとり異なるため、個々の状態に合わせた支援が求められます。そのために、専門性が高い教育支援員(特別支援教育支援員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなど)の配置など、指導体制の確保が重要になります。文部科学省報告では、各校長がリーダーシップを発揮して体制を整えるとともに、それが機能するよう教職員を指導する必要があるとしています。

多様な学びに対応する環境整備

インクルーシブ教育においては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズがある子どもに的確に応えられる、多様で柔軟な仕組みも必要です。文部科学省報告では「小・中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある『多様な学びの場』を用意しておくことが必要である」と示されており、1人ひとりの状態に合った学びの場を充実させることも、合理的配慮のために必要な基礎的環境整備といえます。

インクルーシブ教育のメリットと課題

インクルーシブ教育には、子どもたちの多様性を尊重して共生社会を実現するというメリットがある一方、その実践において課題とされる側面もあります。

メリット

障害のある子どもにとって、インクルーシブ教育のメリットは、友達と一緒に学び、学校生活を送ることで社会性やコミュニケーション力を育めるという点が挙げられます。また、障害のない子どもにとっても、障害に対する認識や接し方を学ぶ機会が増え、自分とは違う特性を受け入れるきっかけになります。これらは多様な個性を認め合い、お互いに理解し合える社会を目指す上で、大切な取り組みだといえます。また、学習環境や生活環境を整えることで、どのような障害に対しても諦めることなく、自分の特性を生かしながら資質・能力を伸ばすことができます。

課題

課題として、合理的配慮や教育支援員の配置が不十分な場合、障害のある子どもは適切な支援が受けられず、かえって学びの機会が制限されるという可能性があります。また、その実践ために教員の負担が増加するため、教員の負担軽減はインクルーシブ教育を実現させる上で避けて通ることができない課題だといえます。また「同調圧力」という言葉が表しているように、日本人の特性一つとしては「同じであることに安心感を覚える」という感覚があることは否定できません。こうした考え方はインクルーシブ教育とは相反するものです。そのため、インクルーシブ教育を推進する上では、こうした意識の変革が非常に重要になります。

インクルーシブ教育の普及とICT

インクルーシブ教育にはICTが欠かせない

文部科学省の「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」は2021年1月に報告を取りまとめました(以下、有識者会議報告)。その中でICT利活用の基本的な考え方を、次のとおり示しています。

特別支援教育におけるICT利活用の意義と基本的な考え方
ICTは、障害の有無を問わず、子供が主体的に学ぶために有用なものであるとともに、特別な支援を必要とする子供に対しては、その障害の状態や特性及び心身の発達の段階等に応じて活用することにより、各教科等の学習の効果を高めたり、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するための指導に効果を発揮したりすることができる重要なものである。また、合理的配慮を提供するに当たっても必要不可欠なものとなりつつある。

特別支援教育において、特別な支援を必要とする子ども1人ひとりが持つ、教育的ニーズに応じて適切なツールや教材などを活用し、困難を取り除いたり軽減したりすることができます。有識者会議報告でも、ICTが「学習指導という側面にとどまらず、障害者が情報をやり取りし、社会によりよくアクセスしていくために必要不可欠な存在となっている」とし、早期に必要なICT環境を整えて適切に活用した学習活動の充実を図ることが必要としています。

インクルーシブ教育におけるICT活用例

有識者会議報告ではICTの活用例として、視覚障害であれば「文字の拡大や音声読み上げ」、聴覚障害では「音声を文字化するソフトや筆談アプリ等のコミュニケーションツール」、知的障害では「動画やアニメーション機能を活用した学習内容を具体的にイメージする情報提示」、肢体不自由では「視線入力装置による表現活動の広がりやコミュニケーションの代替」などの活用例が示されています。そして、これらが支援を必要とする子どもたちへの指導の充実につながっています。その上で「デジタル教科書・教材の活用」や「教師のICT活用スキルの向上等」を求めています。

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