インターネットを利用するとき、さまざまなトラブルやリスクから自身を守り、適切に活用するために必要なのが、ネットリテラシーです。特に児童生徒にとってネットリテラシー教育は、安全かつ効果的にインターネットを利用するために欠かせないものとなっています。この記事では、ネットリテラシーの概要やネットリテラシー教育を始めるタイミング、具体的な教育方法などについて解説します。
ネットリテラシーとは、インターネットを正しく活用するために必要な力のこと
ネットリテラシーとは、インターネットを利用する上で、情報を正しく見つけ出して理解し、効果的に使用する力を指します。なお、ネットリテラシー以外に「情報リテラシー」という言葉がありますが、ネットリテラシーは、幅広い情報リテラシーの中でインターネットに関連するものを指します。また、「情報モラル」も、よく似た意味合いで使われていることがありますが、情報リテラシーが「情報を正しく活用する力」であるとすれば、情報モラルは「情報を正しく活用していく態度」を意味するものだとされています。
この記事では、ネットリテラシーの中でも特に「児童生徒がインターネットを正しく活用するための力」に焦点を当てて解説します。
ネットリテラシーの種類
ネットリテラシーは、大きく3種類に分けられます。ここでは、それぞれの概要についてご説明します。
情報を受け取る際に必要なリテラシー
情報を受け取る際に必要なリテラシーとは、インターネットを使って正しい情報を得るために必要な力です。インターネット上には膨大な情報が存在しますが、そのすべてが正確で信頼できるものではありません。特にソーシャルメディアなど、誰もが気軽に情報発信できる場所から得た情報には、誤った内容や個人的な考えの偏り、時には悪意に基づいたうそや偽り、誹謗中傷が含まれていることがあります。情報を受け取る際は、情報の内容や信ぴょう性をよく確かめて判断する力が求められます。
情報を発信する際に必要なリテラシー
情報を発信する際に必要なリテラシーとは、自らが発信した情報によって危険が生じないための力を指します。例えば、SNSや掲示板、メッセージアプリといった気軽に情報を発信できるサービスやツールでは、ひとたび情報を発信すれば広範囲に影響を及ぼすことがあり得ることを想像し、慎重に行動することが大切です。特に、プライバシーに関する情報を不用意に発信することのリスクを理解することは重要です。文字情報だけではなく、日常の風景を写した何気ない写真からでも住所を特定される可能性があるなど、情報発信にはリスクが伴うことを知っておく必要があります。
ウイルスなどの感染防止に必要なリテラシー
ウイルスなどへの感染防止に必要なリテラシーとは、コンピュータウイルスやランサムウェアなどのマルウェアに関する知識を深め、自分を守る力のことです。不審なメールを判別する、怪しい添付ファイルやリンクを開かないといったことが常にできるかが問われます。近年は10代の若者を標的に、人気ゲームタイトルを装って感染させ、個人情報を収集するタイプのマルウェアも見つかっています。巧妙化する攻撃に対して常に警戒心を持ち、最新の情報に基づいて回避できる力が求められます。
ネットリテラシーに関する教育の必要性
ネットリテラシーに関する教育の必要性は、なぜ高まっているのでしょうか。総務省の「情報通信白書」によると、2022年の6~12歳のインターネット利用率は86.2%、13~19歳のインターネット利用率は98.1%となっています。このように、児童生徒のほとんどが日常的にインターネットを使っています。また、同白書には、インターネットを利用している人の約70%が、インターネットの利用時に何らかの不安を感じているというデータも示されています。具体的な不安の内容は、「個人情報やインターネット利用履歴の漏えい」(88.7%)、「コンピュータウイルスへの感染」(64.3%)、「架空請求やインターネットを利用した詐欺」(53.8%)などです。
インターネットは身近な情報インフラとして定着していますが、その裏に潜むリスクに対して不安を抱く人が多いのが実情です。ネットリテラシーは、こうしたリスクを回避し、不安を取り除くために不可欠な力です。インターネットが日常となった時代に生きる児童生徒にこそ、ネットリテラシーを育むための教育が必要です。
ネットリテラシーが低いことで起こるリスク
ネットリテラシーが低いと、児童生徒たちはさまざまな被害を受ける可能性があります。また反対に、意図せず人に危害を与える立場となってしまう可能性もあります。ここからは、ネットリテラシーが低いことで生じる、具体的なリスクについて解説します。
インターネットを利用した詐欺に遭ってしまう
インターネットを利用した詐欺に遭ってしまうことは、ネットリテラシーの低さによって生じるリスクの一つです。メールやショートメッセージで悪質なWebサイトに誘導してクレジットカード情報などを盗み取るフィッシング詐欺、ボタンをクリックしただけで契約成立を宣言されて料金支払いを求められるワンクリック詐欺などはその代表例です。最近では、SNSやフリマアプリを利用した個人間取引による詐欺も増えています。趣味に関連したことで興味を引いてだますといった手口には、特に注意が必要です。
信ぴょう性に乏しい情報をうのみにしてしまう
信ぴょう性に乏しい情報をうのみにしてしまうことも、ネットリテラシーの低さから起きます。前述のとおりインターネット上の情報は、正確なものばかりではありません。児童生徒が誤った情報や偏見に基づく情報を真実として受け入れてしまうと、それらを根拠にした不適切な行動を取る原因になったり、危ない目に遭ったりすることもあります。正しい情報を得るには、情報の出典を確認する、複数の情報を比較するといった習慣を持つことが大切です。
危険なアプリをダウンロードしてしまう
ネットリテラシーが低いために、危険なアプリをインストールしてしまうケースも見られます。例えば、スマートフォンのアプリの中には、ウイルスやスパイウェア(ユーザ操作を監視して個人情報などを収集・送信するプログラム)などが組み込まれているものが存在します。中には、人気ゲームに似せて作られたものもあり、児童生徒が安易にインストールしてしまったことで、ウイルス感染などの被害を受ける事例が多くあります。
いじめ・誹謗中傷に加担してしまう
児童生徒が、SNSやメッセージアプリ、チャットなどのインターネット上のコミュニケーションツールを使ったいじめや誹謗中傷に加担してしまうことも、ネットリテラシーの低さから起こり得る問題の一つです。テキスト中心のオンラインコミュニケーションでは相手の顔が見えず、匿名で利用することも可能なため、行為がエスカレートしてしまうケースも少なくありません。しかし、匿名のように見えても問題が起きた場合に身元を調査する方法は複数あり、完全に匿名ということはほぼありません。名前を明かした状態でできない言動は、インターネット上でも取らないことが重要だという意識を持つことが大事です。
個人情報漏えいの被害に遭ってしまう
個人情報漏えいも、ネットリテラシー不足が起こすリスクの一つです。前述のとおり、ウイルスなどによって個人情報を盗み取られるリスクがあるほか、SNSなどで児童生徒が自分の名前や学校名を投稿してしまうケースも少なくありません。また、画像内に写り込んだ建物や風景から居場所が特定されたり、着ている制服から学校名が知られたりする可能性も否定できません。
肖像権や著作権などの権利侵害
ネットリテラシーが低いと、知らず知らず肖像権や著作権などの権利を侵害してしまう可能性が高まります。肖像権や著作権は、個人および創作者の権利を保護する重要なものです。写真や動画に有名人や友達などの他人の顔・姿が写っている場合、許可なくそれをインターネットに投稿すると肖像権の侵害となり得ます。また、アニメや漫画、映画・ドラマなどの画像・動画を勝手に投稿したり、無断でアニメのキャラクターなどの画像をSNSのアイコンに使用したりすると、著作権侵害にあたります。
SNSなどを介した性被害
SNSや出会い系(マッチング)アプリを介した児童生徒の性被害も深刻化しています。見ず知らずの人と容易に知り合うことができ、ダイレクトメールでのやりとりを通じて、児童生徒自ら写真や動画を送ってしまうことがあります。もし一度でも写真や動画を送ってしまうと、その後、大勢が閲覧可能な場所で公開すると脅されたり、実際に拡散されてしまうこともあるので注意喚起が必要です。また、SNSなどをきっかけに、より重大な犯罪に巻き込まれる児童生徒の数も増えています。
不適切なWebサイトへのアクセス
ネットリテラシーが低いと、自分の意図にかかわらず、不適切なWebサイトにアクセスしてしまう可能性もあります。例えば、ウイルス感染の恐れがあるサイト、アダルト系サイト、暴力的な内容のサイトなどが挙げられます。これらのWebサイトへのアクセスを防ぐには、児童生徒のネットリテラシーを高めるだけでなく、セキュリティソフトウェアや携帯電話キャリアが提供するフィルタリング機能などを利用することも効果的です。
ネットリテラシー教育を始めるのに適したタイミングとは
ネットリテラシー教育を始めるのは、インターネットを利用し始める初期の段階が理想です。例えば小学生になり、親が所有するスマートフォンやタブレット端末を使ってインターネットを利用する機会があるなら、その時期が適したタイミングだといえます。ネットリテラシー教育を通じて、インターネットを使用するための基本的ルールやマナー、リスク対策についての知識を与えることが大切です。
ネットリテラシーを高めるには?
児童生徒のネットリテラシーを育むためには、どのようにすればいいのでしょうか。ここでは、児童生徒のネットリテラシーを高める3つの具体的な方法を紹介します。
家庭でルールを決める
家庭内でインターネットを利用するときのルールを決めるのは、ネットリテラシーを育む第一歩です。警視庁では「インターネット上の犯罪・トラブル防止のためのエチケット(ネチケット)」として、いくつかのルールを紹介しています。例えば、「インターネット社会でも、実生活と同じルールとマナーを守る」「他人のプライバシーを尊重する」「住所・名前などの個人情報を入力する時は、十分注意する」といったものです。こうしたルールを参考にしつつ、自分の行動に責任を持てるよう、児童生徒自身にルールづくりに参加させることも推奨されています。
ネットトラブルの例を伝える
ネットトラブルの実例を伝えるのも、ネットリテラシーを高めるのに効果的な方法です。実際にあったケースを、親子が一緒に確認して共有することで、児童生徒に具体的なイメージを持たせることができます。インターネットを利用した詐欺、危険なアプリのダウンロード、いじめ・誹謗中傷、個人情報漏えいなど、インターネット上で発生している問題について話し合い、何が危険で、何が安全なのかを理解させることが重要です。
コンテンツを利用して学ぶ
ネットリテラシーを高めるためには、ネットリテラシーに関する動画やアプリケーション、学習サイトなど、教育的なコンテンツを利用して学ぶ方法も効果的です。さまざまな教育機関や団体が開発した年代ごとのコンテンツもあり、ネットリテラシーの向上に役立ちます。
インターネットを安全・上手に活用するために、ネットリテラシー教育は必須
ネットリテラシーが必要とされる大きな理由は、インターネットにさまざまなリスクが潜んでいるという現状です。しかし、インターネットは危険なだけのツールではありません。本来は高い利便性で日々の生活やビジネスに役立てられ、多くの情報や楽しさを提供してくれる、現代社会には不可欠なものです。そのことを十分に理解した上で、児童生徒が安全に、賢くインターネットを活用できるようになることが重要です。
ICTを活用した学習活動を支援する「SKYMENU Cloud」
GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台の端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」と多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。