環境問題やエネルギー資源の枯渇、貧困の拡大など、現在、世界はさまざまな問題を抱えています。これからを生きる子どもたちには、これらの地球の問題を自分事として捉える価値観と、課題解決につながる行動を発案できる力を身につける必要があります。そこで注目されているのが、持続可能な社会の創り手を育む教育である「ESD」です。この記事では、ESDの意味やSDGsとの関係、具体的な取り組みなどについて紹介します。
ESDとは、持続可能な開発のための教育のこと
ESDはEducation for Sustainable Developmentの略で、「持続可能な開発のための教育」と訳されます。「持続可能な開発」は、将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすような社会づくりの意味です。現代社会には、気候変動、生物多様性の喪失、資源の枯渇、貧困の拡大など、将来の世代にわたって豊かな生活を確保するために、解決しなければならないさまざまな問題があります。ESDは、これらの問題の解決につながる新たな価値観や行動をもたらし、持続可能な開発を実現する資質・能力を育む大切な教育の一つです。
ESDに含まれる意味
では、ESDにはどのような意味が含まれているのでしょうか。文部科学省が公表した「持続可能な開発のための教育」では以下のように記載されています。
ESDの意味
今、世界には気候変動、生物多様性の喪失、資源の枯渇、貧困の拡大等人類の開発活動に起因する様々な問題があります。ESDとは、これらの現代社会の問題を自らの問題として主体的に捉え、人類が将来の世代にわたり恵み豊かな生活を確保できるよう、身近なところから取り組む(think globally, act locally)ことで、問題の解決につながる新たな価値観や行動等の変容をもたらし、持続可能な社会を実現していくことを目指して行う学習・教育活動です。
また、持続可能な開発のための教育に関する関係省庁連絡会議がまとめた「我が国における「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するグローバル・アクション・プログラム」実施計画(ESD国内実施計画)」では、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発(持続可能な開発)を行う社会を実現するためには、すべての人が、人と人、人と社会、そして人と自然とのつながりを理解しようと努め、上記に掲げた様々な問題を解決するためにはどのような取組が必要かを自ら考えるような視点を身に付け、行動を起こすことが必要」としています。
ESDとSDGsの関係
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標のことです。「誰一人取り残さない」社会の実現を目指して、2030年を期限とする包括的な17の目標および、より具体的な目標として169のターゲットが設定されています。ESDは、このうち、目標4「すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」のターゲット4.7に位置づけられました。また、ESDはSDGsの17の目標すべての実現に寄与すると第74回国連総会で確認されています。このように、ESDはSDGsの目標達成のために不可欠な「質の高い教育の実現」に貢献するものとされています。
ESDの強化とSDGsの17すべての目標実現への貢献を通じて、より公正で持続可能な世界の構築を目指す「持続可能な開発のための教育:SDGs実現に向けて(ESD for 2030)」がユネスコで採択されたことを受け、具体的な行動を示すロードマップが示されました。ロードマップでは、5つの優先行動分野および6つの重点実施領域が提示されました。2015~2019年に発表された「ESDに関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」からの主な変更点としては、「SDGsの17全ての目標実現に向けた教育の役割を強調」「持続可能な開発に向けた大きな変革への重点化」「ユネスコ加盟国によるリーダーシップへの重点化」の3点が挙げられています。
ESDの変遷
ESDは、これまでどのような変遷をたどってきたのでしょうか。「持続可能な開発(SD)」の言葉が誕生した1987年から、順を追って紹介します。
■ESDの変遷
1987年 | 「国連ブルントラント委員会(環境と開発に関する世界委員会)」で「持続可能な開発(SD)」の概念が提唱される。 |
1992年 | 「国連環境開発会議(地球サミット)」で、「アジェンダ21」に教育の重要性と取り組みの指針が盛り込まれる。 |
2002年 | 「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)」で、日本が「ESDの10年」を提案し、持続可能な開発に関する世界首脳会議実施計画に盛り込まれる。 |
2013年 | 「第37回ユネスコ総会」で「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するグローバル・アクション・プログラム」が採択される。 |
2015年~2019年 | 「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するグローバル・アクション・プログラム」が実施される。 |
1987年に持続可能な開発(SD)の概念が提唱された後、地球温暖化など環境問題が深刻化しました。1992年には世界規模の会議が開催され、環境分野での国際的な取り組みを推進するための行動計画「アジェンダ21」が制定されています。その中で持続可能な開発の重要性については、第36章の「教育、人々の認識、訓練の推進」で示されました。その後、2002年に日本が提案した「ESDの10年」がユネスコで採択・実施されています。2015年からは、2013年のユネスコ総会で採択された「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するグローバル・アクション・プログラム」が実施されました。
ESDの視点に立った学習指導の目標
持続可能な社会づくりに向けた課題は、多くの要素が絡み合っています。ESD では、こうした課題に多面的、総合的に取り組みながら学習を展開していく必要があります。学校においてESDを推進するためには、特定のプログラムを設けて実施するのではなく、既存の教科の中に組み込むなど、教育活動全体を通して展開することが求められます。つまり各教科で取り扱う学習内容を、持続可能な社会作りの視点から捉えることが重要です。
持続可能な社会づくりに関わる課題を見いだす構成概念の例
国立教育政策研究所は、持続可能な社会づくりに関わる課題を見いだすために、持続可能な社会づくりの構成概念を以下のように示しています。
持続可能な社会づくりの構成概念の例
- 多様性(いろいろある)
- 相互性(関わりあっている)
- 有限性(限りがある)
- 公平性(一人一人大切に)
- 連携性(力合わせて)
- 責任制(責任を持って)
課題を解決するために必要な能力・態度の例
前述の構成概念をもって課題を見いだすだけでなく、その課題を解決するための能力や態度を身につけることも重要です。国立教育政策研究所は、ESDの視点に立った学習指導要領で重視する能力・態度について以下のように示しています。
ESDの視点に立った学習指導で重視する能力・態度の例
- 批判的に考える力
- 未来像を予測して計画を立てる力
- 多面的・総合的に考える力
- コミュニケーションを行う力
- 他者と協力する力
- つながりを尊重する態度
- 進んで参加する態度
参考:「学校における持続可能な発展のための教育(ESD)に関する研究」に基づき、Sky株式会社が作成
日本と海外のESDへの取り組み
ESDは、日本だけではなく世界的に行われている取り組みです。ここでは、日本と海外、それぞれどのような活動が行われているかについて紹介します。
日本におけるESDへの取り組み
日本では、環境省と文部科学省が設立した、公益財団法人 日本環境協会が運営する「ESD活動支援センター」が全国に設置されています。ESD活動支援センターは、地域ESD活動推進拠点(地域ESD拠点)と共にESD推進ネットワークを形成し、各地域でESDを推進する団体や、関心を持つ団体などと連携してESDを支援しています。ESD活動支援センターは、地域ESD拠点リストを公開しており、2023年12月22日現在、187件の登録があります。
各団体とも、ESDやSDGsに関連するさまざまな活動を行っており、日本でできる身近な活動を通じて世界に視点を広げ、各問題に関心を持ってもらう契機を提供しています。
海外におけるESDへの取り組み
海外ではどのようなESDの活動が行われているのでしょうか。ここでは、オーストラリアのメルボルンの非営利組織「Lentil as Anything(LaA)」の活動について紹介します。LaAは、ベジタリアンとヴィーガンに向けたレストランと、小規模スーパーを運営する組織です。特徴的なのは、レストランもスーパーも商品に値段をつけていないことです。ここでは、経済的に余裕がある人は商品に対して妥当だと思う金額を寄付し、経済的に余裕がない人はボランティアとして働くことになっています。
ボランティアとして働く人の多くは、移民や難民としてメルボルンに移り住み、社会で暮らす上でさまざまな障壁を感じている人たちです。ボランティアとして働くことで、言語や接客の仕方、調理技術などを身につけ、社会に出て働く力を得ることにつながります。また、LaAのレストランやスーパーで扱う商品は、いずれも賞味期限が近い食材や傷がある食材です。説明会に参加すれば誰でもボランティアとして登録できるため、食品ロスを防ぐ取り組みを通じて、貧困や多文化共生などについても学べます。
ESDは、日常生活の身近な取り組みから意識していくことが大切
ESDは、1人ひとりが世界の人々や環境、将来に視点を広げ、持続可能な社会の実現に向け、行動を変えていくための教育です。世界にあるさまざまな課題を知ることで価値観が変わります。そして、それを自らの課題として捉えることができれば、身近な取り組みからでも、行動が変わります。こうした行動変容に向けて、日々の学習活動の中で「6つの視点」や「7つの能力・態度」などESDの視点を意識した授業が大切だといえます。
ICTを活用した学習活動を支援する「SKYMENU Cloud」
GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台のPC端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」と多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。
お問い合わせ・カタログダウンロード
学習活動端末支援Webシステム「SKYMENU Cloud」のお問い合わせ・資料ダウンロードはこちらから