実践事例

小学校5年 社会セミナーレポート

自己変容をメタ認知する[発表ノート]の活用

学習者が主体的で協働的な学びを実現するICT活用

SKYMENU エキスパート Teacherによるステップアップ研修会「『SKYMENU Cloud』でできる学習者主体の学びの実現法」における実践発表の内容の一部をレポートします。

谷中 優樹 教諭

愛知県豊川市立豊川小学校

すごろくトークで学習を見通す

小学校5年社会「くらしを支える工業生産」で、子どもたちのメタ認知を促すために「すごろくトーク」や「デジタルOPPシート」を使った振り返りを実施しました。

図1は、すごろくトークで子どもがサイコロを振り、出た目のお題について20秒間話をするという取り組みの一場面です。子どもは机の上に乗り出すようにして[発表ノート]の画面を見ています。単元の学習内容に基づき、すごろくのマスには、工業の種類や工業地帯の名称に関する問いを用意しました。例えば、サイコロを振って「3」が出た場合、子どもは「化学工業」について説明します。

このすごろくトークは、単元の学習前後に実施します。学習前はもちろん予想で話をするしかなく、中には話せない子どももいます。しかし、この活動を通して、子どもたちは単元の見通しをもてるのです。そして、単元を終えた後に再びすごろくトークを行うと、子どもたちは自信をもって説明できる自分に気がつきます。子どもはすごろくトークの対話を通じて、自分自身の成長を実感しています。

図1すごろくトークの質問を[発表ノート]で作成し、配付

[発表ノート]でOPPシートを作成

このような自己変容の認知について、「OPPA(一枚ポートフォリオ評価:One Page Portfolio Assessment)」という理論が有名です。学習者の学習前・学習中・学習後の学びを1枚のシート(OPPシート)にまとめ、自己評価や教師の指導に活用するという方法です。

本時では、このOPPA理論に基づいて作成したデジタルOPPシートを使って実践しました図2。OPPシートは『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]で作成。表紙、学習前、授業ごと、学習後、そして最後に学習を通した変化を記入するOPPシートは、一冊の[発表ノート]にまとめ、子どもに配付しています。

図2単元の学びを一冊の[発表ノート]にまとめる

1学習前:理解度や興味を図る

学習前に使用するワークシートには、「工業の種類と工業の盛んな地域について知っていることを書こう」という問いを用意しました。このシートは、学習前の子どもたちの理解度や興味を確認するために使用します。これは「診断的評価」といわれますが、“評価”といっても成績には入れず、あくまでも「元々どのくらい理解しているか」を把握するために使用します。

図3は、子どもが記入した学習前のワークシートです。A児は、前時で自動車を作る工業について学んでいたことと、社会科見学で自動車の工場を訪問していたことから、「愛知県は自動車工業が盛ん」であることを知っていたようです。別のある子どもも同様に愛知県の自動車工業について触れています。また、「都会だし人口も多いから」と、愛知県、東京都、大阪府は工業が盛んだろうという予想もありました。

図3学習前のワークシート

2授業ごと:子どもの気づき、疑問を次の授業へ

学習進行中には毎時間振り返りを実施し、形成的評価に役立てます。「今日の授業のタイトル」として、毎時間のキーワードを子ども自身にピックアップさせています図4。この“自分で決める”という行為により、後でノートを見返したときに「こういうタイトルを自分でつけたな」と学習内容を思い出しやすくなります。提示したルーブリックに沿って、学習到達度の自己評価も実施。毎時の自己目標を「S・A・B」の3段階で評価させています。「今日の授業で、いちばん大切なこと」に加えて、「疑問や質問」も併せて記述させることで、子どもたちの質問や疑問を基に、次の授業の課題を決めることもあります。教師からのフィードバックはチェックボックス式にすることで、朱書きでは難しい休み時間中での即時フィードバックも可能です。

このワークシートは、A児が第2時で提出したものですが、授業のタイトルを「日本の工業地帯(地域)」として、「太平洋ベルト」や「中京工業地帯」といったキーワードを押さえていることが見て取れます。またこの日の授業では、都道府県別工業生産額ランキングにも触れ、太平洋ベルトに含まれない北海道がベスト10にランクインしていることも学んでいます。「疑問や質問」を見ると、授業内容を受けて、「北海道の工業が盛んな理由はなぜなのか」と考える様子も見受けられました。

この記述から、A児に批判的思考力が生まれていることが想像できました。そこで私は「いい疑問」と「うれしいです」にチェックを入れてフィードバックを送りました。

図4毎時間の振り返りワークシート

3学習後:単元全体の自己評価で成長を見取る

学習の終了後には子どもたちが単元全体を振り返り、この単元で達成したことや今後の目標について自己評価を行います。A児のワークシートを見ると、以前は記述がなかった「食料品工業」という言葉が登場していました図5

また、別のある子どもはワークシートに「軽工業」を「中小工業」と誤って記述していましたが、このように言語化させていれば、学習内容が定着しているかどうか、教師が把握しやすくなります。

図5学習後のワークシート

4学習後:変容を可視化し自己理解へ

学習後には、自己変容を記録するワークシートを使用します。学習前と学習後における考えの変化や成長したポイントを記録することで、自分の成長が可視化され、子どもたちが自己理解を深められます。

図6のA児のワークシートを見ると、学習前は「愛知県は自動車工業が盛ん」だと言っていたA児が、学習後には食料品工業について触れています。「学習前は前の単元でやったことしか書けなかったけど、学習後は学習前では言えなかった(工業が)盛んな地域もわかる様になった」と、自身の成長も実感していました。

このように子どもたちは学んだことを振り返って、自身の変化を確認します。自己変容の瞬間をとらえられる貴重な手段ではないでしょうか。自分の成長を感じているのは一部の子どもだけではありません。学年すべての子が自分の成長に気づいていました。

ほかの子どものワークシートには「いろいろな想像をして発言したい」「家族に紹介したい」といった趣旨の記述もあり、子どもの意欲も見取ることができました。授業をしていて、授業者としても嬉しい瞬間です。

図6学習後、自己変容を記録するワークシート

自分と友達の意見を比較し多角的な視点をもつ

このような[発表ノート]の活用によって、授業中に取り上げた課題を掘り下げ、授業の質を向上させることに貢献したと考えています。また、OPPシートに書かれた子どもたちの感想はスライドにまとめて、次の時間の導入で紹介しています。自分の振り返りが発表されることを楽しみにしている子どもや、「軽工業は、なぜ減ってしまったのか」「どうしてこんなに発展しているのか」などの友達の疑問や質問を見ることで、多角的な視点をもって意欲的に授業に臨む姿も見られました。

そもそも[発表ノート]のメリットの一つは、[提出箱]で自分と友達の意見や考えを比較し、「友達と違うな」あるいは「一緒だ」などと、相互学習の機会をもてることだと思います。子どもたちにとって、このアプローチが多角的な視点をもつ助けになるのではないでしょうか。

ICTで自己変容を知る

自己変容を知るという観点で、デジタルOPPシートを使った学習を紹介しましたが、単元の開始時点では工業に関する知識が乏しかった子や、「分からない」と言っていた子も、振り返りの段階では、新たな視点から問題を考える言葉が見られ、自信をもってほかの子どもたちと共有するまでに至りました。

また、すごろくトークでは、学んだことを積極的に話し合う姿勢や意欲も見受けられました。子どもたちは工業生産の社会的・経済的重要性について深く考えることができ、実生活におけるその影響を理解するに至ったのではないかと考えています。単元の開始時点では知識がなかった子も、自信をもって話し合いに参加できるようになるという変化がありました。知識だけではなく、コミュニケーション能力の育成や協働的な学びの助けになったのではないかと感じています。

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(2024年4月掲載)

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