ラーケーションとは? 新しい校外学習のかたち、そのメリットと課題を解説
皆さんは「ラーケーション」という言葉をご存じでしょうか。「ラーニング(Learning)」と「バケーション(Vacation)」を組み合わせてできた造語であるラーケーションは、子どもたちが、平日に保護者や家族と共に校外学習に取り組むための制度です。2023年9月に愛知県が導入したことから注目を集め、少しずつ全国の自治体に広がっています。この記事では「ラーケーションの日」が制度化された背景やメリット、課題、取り組み事例を紹介します。
ラーケーションとは?
「ラーケーション」とは、「ラーニング=学習」と「バケーション=休暇」を組み合わせてできた造語で、子どもたちが学ぶことを目的に、保護者や家族とともに余暇を利用して楽しみながら学習する取り組みです。2023年9月、名古屋市を除く愛知県の公立小・中学校、高等学校、特別支援学校で「ラーケーションの日」がスタートしたことで注目を集めています。
ラーケーションの内容
ラーケーションは、学校にあらかじめ申請した平日に、保護者や家族とともに校外での体験や探究の学びを発案して計画を立て、自ら実行します。例えば海や山に出かける、地域の史跡を巡る、農業体験をする、博物館や美術館を訪れるといったことが想定されています。愛知県の制度では年間3日間取得でき、ラーケーションの日は登校しなくても欠席扱いにならず、出席停止・忌引き等と同様に扱われます。
ラーケーションが注目される背景
ラーケーションが注目される背景には、日本における「休み方」の課題が挙げられます。愛知県の「愛知発の新しい学び方「ラーケーションの日」ポータルサイト」では、保護者が土日に働いているため、学校の休みの日に子どもと一緒に過ごすことが難しい家庭が少なくないことを理由の一つに挙げています。
働き方改革の一環として、有給休暇取得率の向上に取り組む企業が増える一方で、業種の慣例に沿った曜日に休むという文化も根強くあり、業種によっては平日にしか休めないという実態があります。そこで保護者の休みに合わせて、平日に子どもがさまざまな体験や探究的な学びができる「ラーケーションの日」が注目されています。
ラーケーションがもたらす3つのメリット
ラーケーションには、どのようなメリットがあるのでしょうか。あえて平日に子どもと一緒に学ぶ機会をつくるという点に注目して、ラーケーションによって得られるメリットを3つ紹介します。
1:働く保護者が子どもたちと過ごす時間が増える
総務省統計局の「令和3年社会生活基本調査」によると、有業者のうち土曜に働いている人は45.5%、日曜に働いている人は30.4%います。このことから、学校が休みとなる土曜、日曜、祝日に子どもと一緒に過ごすことが難しい現状が少なからずあります。保護者や家族の休みの日に充実した時間を過ごせる環境をつくることで、保護者自身のワークライフバランスの改善にもつながります。また、子どもの学びに保護者が関わることで、家庭における教育力の向上も期待できます。
2:子どもの新たな学習機会の創出つながる
子どもが、学校外だからこそできる体験を得られることも、メリットの一つです。授業等で学んだことの理解をより深めるため、自ら考えて計画を立て、実際に体験して学ぶという取り組みは、探究的な学びの新たな機会となります。また、体験によって得られた気づきを学校の授業においても生かすという、学びの往還も期待できます。さらに、保護者や家族とのコミュニケーションが充実することもメリットだと考えられます。特に、前述のように保護者が土日に休みが取りにくい状況ならば、平日にこうした機会が持てることは大きなメリットだといえます。
3:地域に経済効果をもたらす
ラーケーションは遠出をしたり、特別な施設を利用したりすることが目的ではありません。例えば地元地域の魅力を発見するために商店街を散策したり、史跡を訪れたりしながら学びを得るという取り組みも考えられます。その場合でも、外出中に飲食店などを利用することもあるでしょう。もともと人出が多い土日ではなく、比較的空いている平日にサービスを利用する人が増えれば、これまでとは違った経済効果が期待できます。もちろん、平日に旅行や施設の利用をすれば、同様の効果が高まります。前述した愛知県のポータルサイトでも「平日だからこそできる学校外での学習活動を、ぜひ子供と一緒に計画してみませんか」と呼びかけています。
ラーケーションを導入する際の3つの課題
ラーケーションを制度化して導入する際には、想定しておかなければならない課題もあります。
1:家庭によって取り組みに差が生じる
愛知県のラーケーションの日は、県内の公立校に通う児童生徒であれば誰でも利用できます。しかし、家庭の経済的な事情によってラーケーションの日を活用できなかったり、取り組みの内容に差が生じてしまったりすることを考慮しなければなりません。また、いわゆる「エッセンシャルワーカー(日常生活を維持するために必要不可欠な仕事に従事する方)」の保護者が制度を利用しにくいという点、さらに私立校では制度が利用できないということが、課題として挙げられています。実際に愛知県内で唯一制度導入を見送った名古屋市では、ラーケーションの日を利用できる家庭とできない家庭によって不公平が生じる懸念があることを理由の一つとしました。
2:子どもの学習に遅れが生じる
ラーケーションの日は平日に利用するものですので、その日の授業には出席しません。前述したとおり欠席扱いとはならないものの、授業の内容については自習によって補うことが前提となっています。しかし、宿題に取り組ませるだけでは十分な学習ができないのではないかという意見もあります。また、学校教育における学びは、自分一人で進めるものではなく、友達との協働的な活動や対話的な取り組みの中で、さまざまな資質・能力を身につけていくものですから、ラーケーションの日の利用によってその機会を減らすことになるのではという指摘もあります。
3:個別対応によって教員の負担が増える
保護者や児童生徒にとって、新しい学びやコミュニケーションの機会となるラーケーションですが、児童生徒が登校しないことにより、給食停止の手続きや宿題の準備・連絡といった個別対応が発生することは避けられません。その手配によって教員の負担が増えることも課題の一つだといえます。1回であれば大きな負担ではなくても、日常的にこうした対応が発生すれば、次第に負担感が増すことが考えられます。また、教員が自分の子どもとラーケーションの日を利用するために休暇を取得することが、現実的に可能かという問題もあります。働き方改革の必要性に注目が集まるなか、教員のワークライフバランスには学校管理職や保護者の理解が求められています。
愛知県におけるラーケーションの先行事例
愛知県発の取り組みとされるラーケーションですが、同時期に大分県別府市も「たびスタ休暇」という名称で同様の制度を開始。2024年度には茨城県や熊本県、山口県などが県単位で導入しています。さらに市町村独自の制度として取り入れる自治体も増えてきました。ここでは、先行して取り組みを続けてきた愛知県の「『ラーケーションの日』活動事例集から事例を紹介します。
学校ではできない体験から学ぶ
家族で科学館を見学に行くときに、初めて自分で電車の切符を買ったという例や、休日は予約ができないハンバーガーショップの店員体験をしたという例が紹介されています。また、お母さんの職場を訪問して名刺交換や工場見学をしたという例もあります。
興味のあることを探究する
水族館にいってラッコがなぜ絶滅危惧種に指定されているのかを学んだり、博物館で恐竜について学んだりし、それを自分の言葉で発表してもらったという例が紹介されています。中には、自分が大好きなメロンをおいしく育てるためのコツを、農家の方に聞きに行ったという例もあります。
興味や関心を高める
七宝焼や陶芸の体験をしたという例、ロボットを動かすプログラミング体験に挑戦したという例のほか、阪神・淡路大震災記念館の「人と防災未来センター」を訪問した後、家族で地震の恐ろしさや対策について家族で話し合ったという例が紹介されています。
ラーケーションでの学びをさらに生かす「SKYMENU Cloud」
GIGAスクール構想によって児童生徒1人1台の端末が配備され、家庭への端末の持ち帰りも広がってきました。ラーケーションでのさまざまな体験を、写真や動画を交えて発表するという取り組みにもタブレット端末が有効活用できます。例えば、体験を通じて得た学びを「発表ノート」を使ってまとめ、「提出箱」に保存して友達と共有するという活用も考えられます。新しい取り組みであるラーケーションが、より効果的なものになるようぜひ「SKYMENU Cloud」をご活用ください。