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Sky株式会社

公開日2024.05.10

AI教育のこれからは? メリット・デメリットや活用事例を紹介

著者:Sky株式会社

AI教育のこれからは? メリット・デメリットや活用事例を紹介

近年、AIはさまざまなビジネスシーンで効果的に活用されるようになっており、学校教育における活用も始まっています。この記事では、国のAI戦略に基づいたAI教育の目標や生成AIの活用における暫定的なガイドライン、AI活用のメリットとデメリットのほか、活用事例についてご紹介します。

政府のAI戦略に見る教育改革の目標

内閣府の科学技術・イノベーション推進事務局は、AIを活用して日本の社会課題の克服や産業競争力の向上をめざす「AI戦略2022」を2022年4月に策定しました。これは、「人間尊重」「多様性」「持続可能」の3つの理念を基に策定されたもので、「差し迫った危機への対処」と「社会実装の推進」を2大目標に掲げています。また、2大目標のほかに、「教育改革」や「研究開発体制の再構築」に取り組み、日本のAI技術力を支える人材を育て、人材育成を競争力の源泉とすることも重要な目標とされています。まずは「『AI戦略2022』別紙」の「教育改革」の項目に示されている、4つの目標をご紹介します。

リテラシー教育の目標

リテラシー教育では、小・中学校、高等学校、大学・高専・社会人それぞれにおける具体目標が定められています。例えば、高等学校の「全ての高等学校卒業生(約 100 万人卒 / 年)が、データサイエンス・AIの基礎となる理数素養や基本的情報知識を習得」をはじめ、小・中学校においては「データサイエンス・AIの基礎となる理数分野について、習熟度レベル上位層の割合が世界トップレベルにある現在の状態を維持・向上」「国際的に比較して低い状況にある理数分野への興味関心を向上」などを挙げており、さまざまな社会課題と理科・数学の関係性の理解と考察を行う機会を確保することを目標としています。

応用基礎教育の目標

応用基礎教育では、「文理を問わず、一定規模の大学・高専生(約25万人卒 / 年)が、自らの専門分野への数理・データサイエンス・AIの応用基礎力を習得」「地域課題等の解決ができるAI人材を育成(社会人目標約100万人 / 年)」という2つを具体目標として掲げています。

エキスパート教育の目標

エキスパート教育では、「エキスパート人材(約2,000人 / 年、そのうちトップクラス約100人)を育成するとともに、彼らがその能力を開花・発揮し、イノベーションの創出に取り組むことのできる環境を整備」することを具体目標としています。

数理・データサイエンス・AI教育認定制度での目標

教育認定制度は、「大学・高専の卒業単位として認められる数理・データサイエンス・AI教育のうち、優れた教育プログラムを政府が認定する制度を構築、普及促進」することと、「政府が認定する優れた数理・データサイエンス・AI関連の教育・資格等を普及促進」することを具体目標に掲げています。

教育における生成AIの利用について

OpenAI社が開発したChatGPTをはじめとする生成AIを児童生徒が使うにあたり、さまざまな活用メリットが期待される一方で、児童生徒がAIの回答をうのみにしてしまうのではないかという懸念の声が挙がっています。そこで、文部科学省は学校教育における生成AIの利用に向けた、暫定的なガイドラインを公表しました。

初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン

2023年に文部科学省が公表した「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」(以下、暫定ガイドライン)には、生成AIの概要や教育利用における方向性、重要な留意点がまとめられています。ガイドラインは、学校関係者が現時点で生成AIの活用の適否を判断する際の参考資料として活用することを目的に作られました。なお、ガイドラインはあくまで暫定的なもので、今後関係者からのフィードバックなどを踏まえて、機動的に改訂していくとしています。

学校教育における生成AIの活用に期待されていること

では、生成AIが教育現場に導入されることで、どのような効果が期待できるのでしょうか。ここでは、教育現場で生成AIを導入するにあたり、期待されていることについてご紹介します。

生成AIを正しく使うことで情報活用能力の育成につながる

生成AIを正しく使用することで、情報活用能力が育成されることへの期待が高まっています。学習指導要領解説(総則編)では「情報活用能力は,世の中の様々な事象を情報とその結び付きとして捉え,情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して,問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力」と定義されています。生成AIの活用を情報活用能力の育成という側面から考えるなら、「生成AI」を「情報及び情報技術」の一つとして捉え、問題解決や自分の考えの形成に役立てられることが求められるといえます。

その一方で、各社の生成AIの利用規約によると、18歳未満または未成年の利用は、保護者の同意が必要であるか、利用自体が18歳以上に制限されており、小・中・高等学校の児童生徒が生成AIを利用する場合は、原則として保護者の同意が必要です。つまり、生成AIは正しく使えば情報活用能力の育成に役立てることができるものの、その利用には一定の注意が必要となるということです。

生成AIは独自性のあるアイデアを創造する補助になる

生成AIは、その特性を理解しながら正しく活用することで、これまでにない独自性のあるアイデアを創造する補助としての役割を果たしてくれるといわれています。生成AIの利用にあたって特に気をつけなければいけないのは、必ずしも回答が正解であるとは限らないため、結果をうのみにしてはいけないという点です。

生成AIには大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる仕組みが採用されています。暫定ガイドラインでは、大規模言語モデル(LLM)は、「ある単語や文章の次に来る単語や文章を推測し、『統計的にそれらしい応答』を生成するもの」であり、正しい答えを教えてくれる便利なシステムではなく、あくまでもWeb上に存在している膨大なテキストデータを機械学習した結果「統計的にそれらしい応答」となるように「文章を自動作成する仕組み」でしかないと説明しています。そのため、「回答は誤りを含む可能性が常にあり、時には、事実と全く異なる内容や、文脈と無関係な内容などが出力されることもある」とされています。これらのことを理解して、生成AIの回答が正しいかどうかは、利用者自身が判断しなくてはいけません。なお、回答が正しいかどうかを確かめることを、「ファクトチェック(情報の真偽を確かめること)」といいます。

以上のような点を踏まえた上でうまく活用できれば、生成AIはこれまでにない独自性のあるアイデアを創造する、補助としての役割を果たしてくれます。最終的には「自分が考える、発想する」ことを前提に、生成AIを活用することで大幅なスピードアップが期待できるのです。

生成AIを適切に活用することで、考える機会を増やせる

生成AIを適切に活用することで、考える機会を増やせます。例えば、児童生徒に生成AIの回答を示しながら、この回答が正しいかを問いかけます。質問を受けた児童生徒たちは、それぞれがAIの出した回答が正しいかどうかを考えるのです。そうすることで、児童生徒たちは生成AIの回答をうのみにすることなく、自分で真偽を考える習慣が身につくのと同時に、自然な流れでファクトチェックについても学べます。

ほかには、グループで新しいアイデアを出さなければいけない場面で、生成AIを「グループメンバーの1人」と位置づけて、ブレーンストーミングに加えるという方法もあります。生成AIをメンバーとすることで、今までにはない新しい視点からのアイデアを効率的に発案してもらうことが可能です。これらは利用方法の一例になりますが、これまでとは違ったICT活用につながるのではないでしょうか。

生成AIパイロット校の取り組みを通して、具体的な活用事例が期待できる

生成AIパイロット校の取り組みを通して、教育現場におけるより具体的な生成AIの活用事例の展開が期待されています。文部科学省は暫定ガイドラインを基に、全国52校の中学校、高等学校および中等教育学校をリーディングDXスクール、生成AIパイロット校として指定しました。生成AIパイロット校は、「生成AIの教育活動における活用」「生成AIの校務における活用」の2つの取り組みの実施を目的としています。

暫定ガイドラインには、「保護者の十分な理解の下、生成AIを取り巻く懸念やリスクに十分な対策を講じることができる学校において、透明性を確保してパイロット的に取組を推進し、知見の蓄積を進めることが必要」が示されており、文部科学省「リーディングDXスクール」のWebサイトでは、今後は生成AIパイロット校による生成AI活用の取り組み事例が紹介されています。

AI教育の実現によって期待されていること(メリット)

ここまでご紹介したとおりガイドラインなどの整備が進み、さまざまな学校で生成AIなどの活用が始まっています。学校教育にAIを活用することは、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは「AI教育」の実現に期待されているメリットについて紹介します。

個人の習熟度に合わせて学習を支援できる

個別学習においてAIを活用するメリットは、AIドリルで児童生徒1人ひとりの習熟度や学習ペースに合わせた出題内容を適切にカスタマイズできるといった「適応学習(アダプティブ・ラーニング)」を支援することです。GIGAスクール構想は「公正に個別最適化された学び」の実現をめざしており、各人が同時に別々の内容を学習することやその学習履歴を記録するといった学習の在り方が示されています。AIでこれらを支援することで、児童生徒の習熟度に合わせた学習の実現が可能となります。

リアルタイムでアドバイスできる

今学ぶべき内容を児童生徒にリアルタイムでアドバイスできるようになることも、AIの活用に期待されていることの一つです。個人のスタディ・ログ(学習履歴、学習評価、学習到達度)や健康状況などを分析し、1人ひとりに適した学習計画や学習コンテンツを提示することも可能なります。教員1人で、学級の児童生徒全員の学習状況をつぶさに見取るのは難しいため、AIの支援によってきめ細やかな個別指導に生かせるようになれば、大きなメリットが得られるといえます。

記述式問題の採点が自動化できる

AIの活用によって教員が行っている採点業務の自動化が進み、教員の負担が減ることも期待されています。近年、学校における働き方改革として、国・自治体・学校でさまざまな取り組みがなされており、テストの採点業務もその一つです。例えば「文部科学省CBTシステム(MEXCBT)」では、教員の手によって行われている記述式問題の採点に、AIを用いた採点システムの導入に向けて準備が進められています。採点業務の負荷を軽減することで、授業準備や児童生徒1人ひとりの指導など、AIには任せられない業務に充てる時間を増やすことができます。

スタディ・ログの分析に生かす

AIは大量のデータを基に分析することに長けており、より多角的な評価を支援します。児童生徒1人ひとりの学習履歴、学習評価、学習到達度といったスタディ・ログを蓄積し、それらをAIを用いた分析の上で学びのポートフォリオとして可視化することで、指導と評価の一体化を進めたり、教育の質の向上に生かすことが期待されています。

AI教育の取り組みにおける懸念点

学習活動や指導、校務などに大きな効果が見込める一方、学校教育におけるAIの活用には懸念されている点もあります。ここでは、AI教育の取り組みにおいてどのような懸念点があるのかを紹介します。

AIの思考プロセスがわからない

AIが何に着目し、どのように判断して、結果を導き出したのか、一般的にはその思考プロセスがわからないという点もデメリットといえます。仮にAIが不自然と思える結果を返した場合、専門的な知見と技術がなければ「なぜそうなったのか」を推定することはできません。思考プロセスを説明できないまま活用を進めたときに、児童生徒から疑問の声が挙がることも考えられます。そのため、AIの活用については内容を慎重に検討する必要があります。

主体的に学ぶ姿勢への影響が出る

例えば、児童生徒に生成AIを自由に利用させた場合、児童生徒が生成AIの回答に頼り、自分で考えることをおろそかにする可能性があることも、デメリットとして挙げられます。例えば、生成AIに作らせた作文をそのまま提出したりするといったケースが考えられます。これは、児童生徒が考える力を養う機会の喪失にほかなりません。前述の暫定ガイドラインでも示されているとおり「⽣成AIの性質やメリット・デメリット、AIには⾃我や⼈格がないこと、⽣成AIに全てを委ねるのではなく⾃⼰の判断や考えが重要であることを⼗分に理解させることや、発達の段階や⼦供の実態を踏まえ、そうした教育活動が可能であるかどうかの⾒極めが重要」です。

ハルシネーションによるトラブルが起きる場合がある

生成AIなどを活用する上で「ハルシネーション(幻覚=もっともらしい誤情報を生成してしまう現象)」によるトラブルが想定されることもデメリットといえます。自分が知らないことを生成AIに質問した場合、その回答が正しいかどうかは判断がつきません。そのため、児童生徒が生成AIの回答をうのみにしてしまい、間違った理解をしてしまうリスクがあります。生成AIを活用する際には、事実確認(ファクトチェック)の重要性ややり方を伝えることが大切です。

AIを取り入れた実践事例

学校では、どのようにAIを取り入れているのでしょうか。ここからは、AIを取り入れた活動を行っている各学校の実践事例をご紹介します。

小学校での活用事例:本格的なプログラミング授業の実践、劇の構成づくりなど

小学校でもAIが活用され始めました。静岡県のある私立小学校では、2020年秋からAI教育を支援するサービスを利用し、3~6年生を対象にAI・プログラミングに関する授業に本格的に取り組まれています。社会とのつながりの中で自分たちの生活や地域の問題をAIで解決することをめざす「AI×探究学習」の授業が行われているということです。

また、北海道の公立小学校では、学芸会の劇の台本づくりで、劇や音楽の構成に生成AIを活用することでベースをつくりつつ、その分身近な出来事を盛り込むことに注力、独自性のある内容になったという事例もありました。

中学校での活用事例:英語の習得を支援するAI教育ツールを活用

大阪府の私立中学校では、英語の技能習得を支援するAI教育ツールを導入。このツールは、生徒の英語発話診断、英作文の文法判定、入力したテキストの読み上げといった機能で学習をサポートします。AIが発音した問題文を、生徒が聞き取って適切な回答を発音。その発音をAIが認識し、回答が正解にどこまで近いかを判定するという授業が行われました。

大学入試での活用事例:オンライン試験監督システムの導入

大学入試でもAIの活用が始まっています。日本経済大学では、2021年度入学試験の一部で、AIを活用した「オンライン試験監督システム」を導入しました。PCの操作ログを記録したり、Webカメラで受験者の様子を記録したりすることで、人とAIによるダブルチェックが可能となり、より厳密に受験を監督することができたとのことです。

AI教育には、適切なガイドラインが必要不可欠

AIを正しく使うことで、情報活用能力の育成に役立ちます。しかし、その活用には注意が必要です。学習効果の向上や校務の効率化などが見込める一方、間違った使い方では考える機会の喪失や誤った理解につながる可能性もあります。有益に活用するため、そして不適切な使い方をしないためにはどのような利用ルールやガイドラインが必要なのか。まずは、この記事で紹介した暫定ガイドラインを参考に話し合うことから始めることが大切だといえます。

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GIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台のPC端末が配備され、ICTを基盤とした新しい学びのかたちが広がっています。児童生徒が自己調整しながら学びを進める「個別最適な学び」や多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」、これらの学びを一体的に充実させ、児童生徒が自らの手で未来を豊かに創り出していく力の育成を「SKYMENU Cloud」は支援します。