実践レポート
大阪府大東市立住道南小学校は、『SKYMENU Cloud』を中心に1人1台端末の活用を積極的に推進しています。小学校低学年から高学年まで、さまざまなかたちで端末活用が広がっています。このほど、[発表ノート]や[ライブ公開提出箱]を用いて単元内自由進度学習に取り組んだ、同校の坂井 亮人 首席の授業を取材し、お話を伺いました。(2024年11月取材)
本校は、児童数393名、職員数37名の中規模校です。1人1台端末の活用が定着しており、高学年では基本的に毎日活用し、家に持ち帰って充電。家に帰ったら『SKYMENU Cloud』の[電子連絡板]で連絡事項を確認するといった運用が定着してきています。
1人1台端末の日常的活用とともに、授業改善に向けた取り組みも進めています。これまでの校内研究では、教科に関連づけたテーマで実施していましたが、今年度から少しずつ方向性を転換。説明する力などの情報活用能力の育成、つまり児童生徒の資質・能力の育成をめざした研究へと変えている過渡期にあります。
そうしたなかで、6年理科「月と太陽」の単元で、「単元内自由進度学習」に挑戦したので、その取り組みをご紹介します。
「月と太陽」という単元では、月の見え方と太陽の関係について学びます。しかし、月や太陽の動きなどは、児童が身近な生活体験からイメージすることが難しい内容です。そのため、教科書に出てくる実験をそのまま実施したり、動画を見せたりすることが多くなり、学習内容を覚えるだけの授業になりがちです。児童がワクワクしづらい単元といえます。
また、「月の見え方」は子どもによって理解度に差が出やすい内容です。理解を深めたい子は1つの実験に時間をかける、興味を広げたい子は発展的な学習にチャレンジするといった、自分のペースで進められる学習方法が効果的です。
そこで今回、単元全体で7時間あるうち、第2時から第5時までの4時間を自由進度学習として設定しました。まずは学習に取り組む前に、前学年までに習ったことを復習し、[グループワーク]で共有しながら知っていることやこれから調べたいことを確認します。その後、4時間を通してクリアすべき課題を4つ設定し、子どもたちにそれぞれの進度で取り組んでもらいました。
学習形態は子どもたち自身で選べるように複数のパターンを設定しました。自ら学習を進めることに対して不安がある子や進め方がわからない子は「みんなで」という形態を選び、先生と一緒に取り組んでよいことにしました。「ペアやグループ」はもちろん、「個人」を選んで進めることも可能です。また、授業の途中で学習形態を変えてもよいと伝えました。
課題を進めるための教材にも多くの選択肢を用意しました。教科書や書籍、実験道具(ボールやライト)、VR教材、NHK for School等のWebサイトなどです。さらに、『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]に資料をつけて配付し、紙でまとめを作りたい子のために同じ内容のものをプリントでも用意しました。
4時間を通しての自由進度学習ですが、「振り返りシート」を毎時間提出してもらいました。さらに、毎時間の学習のまとめを作成する上で[発表ノート]と紙のノートを選択肢として用意し、どちらを選んでもよいと伝えています。提出する際には、[発表ノート]を[提出箱]に出す子もいれば、紙のノートをそのまま出す子もいました。
理科室ではおおよそ3つのエリアに分かれて児童が座っている。教室前方は「みんな(先生に活動方法を教えてもらいながら)」で進めたい児童。真ん中は「ペアやグループ」で進めたい児童、後方は「個人」で進めたい児童が集まっている
本時(第3時)の冒頭では、児童が「振り返りシート」を基に短い振り返りを行いました。児童たちは「自分はどこまで進んでいるか」「今日は何を学ぶのか」を確認し、それぞれのペースで課題に取り掛かります。すぐに課題に取り組む子もいれば、先生の提案から始める子もいました。
また、「一人で進めると決めたけど、これで合っているかな」と不安に感じる子は、[ライブ公開提出箱]で友達のノートを参照していました。子どもたちには「友達のノートも資料の一つである」と伝えているので、困ったら取りあえず誰かのノートを参照してみるという子もいます。
さらに、ペアやグループで進めている児童たちは[グループワーク]も活用していました。中には、隣同士で話しながら取り組んでいても、課題は個人で進めている児童もいます。最初は先生のアドバイスを受けながら学んでいた児童たちも、後半には互いに声を掛け合いながら課題を進めるようになっていきます。ここで意外だったのは、普段あまり見かけない組み合わせで学習を進めているグループがあったことです。学習の中で自然に友達とつながり、協働的に学ぶコミュニティが形成されていました。
今回の単元内自由進度学習において、児童の学びを支える重要なツールとなったのが『SKYMENU Cloud』です。本単元において、さまざまな役割を担っています図1 。
例えば、ペアやグループで進めている子はそれぞれ自由なタイミングで[グループワーク]を開始し、コミュニケーションツールとして活用。グループを作れる枠が20個あるため、「じゃあ僕たちは19のグループでやろう」と自由な組み合わせで柔軟に[グループワーク]が始められるのも良いところです。
図1 坂井先生の単元内自由進度学習における『SKYMENU Cloud』の活用
写真1 [ライブ公開提出箱]で、友達の状況を確認
まとめの作成では、[発表ノート]に実験の写真を複数枚貼り付けて比較する子どもたちもいました。紙のノートでもまとめは作れますが、デジタルツールならではの視覚的なサポートが得られる点が大きな利点です。
また、自由進度で実施した4時間の授業中、常に[ライブ公開提出箱]を開いたままにしていました。これは他者参照や資料参照のためです。友達の学習内容と比較して、自分が間違っていれば修正し、合っていれば安心できるため、友達の[発表ノート]をいつでも参照できることは子どもたちにとって大きな安心材料となっていました。写真1
さらに、本単元では単元の冒頭に学習に必要な資料をすべて[発表ノート]にまとめて配付しました。これにより、教員が都度教材を配付する手間が省け、授業に集中できました。また、子どもたちも学習全体の見通しを持って取り組めていました。図2
図2 単元の冒頭に一斉配付し、単元を通じて利用した[発表ノート]。学習方法やまとめの参考になる情報が添えられている
単元の学習を終えて、私が想定していた以上に子どもたちの様子が見取れたという感触があります。子どもたちがそれぞれに学習を進めている間、私は自由に動けますし、児童への声掛けもしやすいです。提出されたノートを授業後にチェックするよりも、その子がどこまで進んでいるかを把握しやすく、その都度「これをやってみたら?」と声を掛けることもできました。授業中により多くの児童を見取り、一人ひとりに細かな指導が行えたと思います。
また、子どもたちが作成しているノートや[発表ノート]は、授業後にチェックしていましたが、基本的には「調べた内容は合っているかな」「確かに授業中こんな様子だったな」と確かめる程度にして、私自身が焦らないよう心掛けていました。もちろん、手助けが必要だと感じた児童には、次の授業で声を掛けるなど最低限のフォローをしています。
子どもたちは、互いにつながりながら、徐々に自分たちの学びに集中していきます。私たち教員の見守る姿勢の大切さを実感しました。
今回の実践では、子どもたちは自分の決めた学び方やまとめ方で集中して最後まで進められており、児童が「自分で決める」ということの価値の大きさを再認識できました。授業の中で、自然に友達とつながっていたところも良かったなと思います。分からないところは素直に質問したり、協働的に学ぶ姿がたくさん見られました。「次はペアでやろう」と言っている子もいて、今後の学びに対する意欲にもつながっていると感じています。
学習内容の定着に関しては、単元末テストの点数も良好で、理科に苦手意識のある児童もよくできていました。子どもたちも、「自分で進めるペースを決められるので自由進度学習はやりやすい」と言っていました。興味関心に直結するためか、どの子も自律的に学習に取り組めており、「理科離れ」が多いといわれているなか、休み時間に実験室に来てくれる子も増えています。
一方、課題を感じたのは評価の方法です。学習の理解度は提出されたまとめや振り返りシートで見取れますが、学びに向かう態度を客観的に評価するのは容易ではありません。授業中に頑張っていたからといって、それが「よくできている」なのかといわれればまた違います。子どもたちが一生懸命に活動しているからこそ私の主観が入ってしまい、過程を評価するのは難しいと感じました。こうした部分の評価については、今後の課題としてさらに検討していきます。
特に印象に残っているのは、授業中ずっと実験の準備に取り組んでいた児童の姿です写真2 。その児童は粘土を使って黙々と準備を進めていましたが、実験がなかなか始まらず、気に掛けていました。「時間が限られているから」と声を掛けたくなる気持ちもありましたが、熱心に取り組む様子を見て、信じて見守ることにしました。
写真2 自由進度のため、自分のペースで実験準備を進める。授業が終わるまで集中して取り組み、その後、先生と実験した
結局、その児童は授業が終わるまでずっと準備を続けていました。しかし、授業後に「先生、できたよ! 今から実験しよう!」と声を掛けてくれ、一緒に実験を行うことができました。児童に詳しく話を聞いたところ、地球を周回する人工衛星なども再現した上で実験をしたいと考えていたのだそうです。自分の関心に沿って、納得のいくかたちで実験に取り組みたかったのです。
もし一斉指導のかたちを取っていたら、進行の都合上、この児童の手を止めざるを得なかったでしょう。しかし、単元内自由進度学習を採用し、児童に学びを委ねたからこそ、このような場面に出会えたのだと思います。
児童一人ひとりの興味や学び方は異なります。今回の実践を通して、誰一人取り残さない、個別最適な学びの実現に向けたヒントを得ることができました。この経験を踏まえ、今後も授業改善の取り組みを続けていきたいと思います。
(2025年3月掲載)